帝国特務隊 : クビになった帝国軍人と道具扱いの第四皇女

とうもろこし

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2章

39 邪悪な道具

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 城を後にしたアリッサは敷地内の駐車場で待っていたローラと合流。彼女に後部座席のドアを開けてもらい、魔導車の中へと乗り込んだ。

「ロイドさん、帰ってきましたか?」

「いえ。まだのようです」

 アリッサが城で報告を済ませている間、次の予定に関する準備をお願いしていた事もあってローラは一度拠点に戻ったようだ。

 その間、ロイドは拠点に帰ってこなかった。

「どこで何をしているやら」

 窓際で頬杖をついて外を見るアリッサは小さく呟いた。

 彼女の予想通り、アルミラージの店で肌を重ねているのだろうか。自分が言った事であるにも拘らず、それを想像したアリッサは頬を膨らませる。

 私を抱けばいいじゃない。そう言わんばかりに。

「直接口にした方がよろしいのではないでしょうか」

 バックミラーでアリッサの表情を見たローラが運転しながらそう言った。

 彼女にしては珍しい。主人の気持ちに意見を進言するなどこれまでに無かった出来事である。

 相変わらずの無表情ではあるが、ローラほどの女性がじれったいと思うほど見ていてむず痒い。

「言えるわけないでしょ。今の関係性が壊れる方が嫌よ」

 皇族と言えども人の気持ちに強制はできない。特に恋と愛に関しては猶更だ。

 それにアリッサも今は「成就させたい」という気持ちよりも「失いたくない」という気持ちの方が強いのだろう。

「出過ぎた事を言いました」

「構わないわ」

 ローラは前を向きながら謝罪を口にする。アリッサも許しを口にしつつ、ローラの言う事が正しいと内心では思っているのか少し顔が歪んだ。

「言えないわよ……。受け入れてもらえなかったら、私は……」

 ローラに聞こえぬよう、アリッサは小さな声でそう零す。この言葉とセットにため息を零すと、ローラが運転する魔導車は目的地に到着。

 停止したのはヴィヴィの工房前であった。

 後部座席のドアを開けてもらい、外に出たアリッサは工房の入り口をノックせずに中へ入った。

 荷物を持ったローラが後に続き、2人が工房の中に入ると誰もいない。

「ヴィヴィ?」

 家主の名を呼ぶと奥にあるプライベートルームから「今行く」と声がした。工房との境目にあるドアが開き、姿を現したヴィヴィは全裸であった。

「なんで全裸なのよ」

 辛うじて首から白いタオルを引っ掛けており、タオルで辛うじて胸は隠されているものの下は全開である。

 靴も履いておらず、裸足のまま。

「シャワーを浴びていたからだよ」

「下着ぐらい着なさいよ……」

「いいじゃないか。女同士なんだし。それにシャワー上がりは全裸で過ごすタイプだよ、私は」

 知らなかったか? だったら知っておけ。とばかりに言い放つヴィヴィ。

 彼女曰く、シャワー後は全裸でウクレレを片手に歌うと自分の音楽性が向上している気がするらしい。

「音楽というのは芸術性を問われる。世の芸術作品を見てみたまえ。全裸の男女を描く絵が絶賛されているだろう? つまり、私も全裸になって芸術の1つとなれば感性が磨かれるという事なのだよ」

「あ、そう……」

 アリッサにはまったくもって理解できぬ考え方だったようだ。

 少々呆れ気味に言ったアリッサは工房にあった椅子に座ると、これ以上音楽の話が続く前にと本題を口にする。

「ヴィヴィ、貴女に見てほしい物があるの」

 アリッサがそう言うと、ローラは持っていたトランクケースを机の上に置いてロックを解除した。

 開けると中には魔導機士団が使っていた腕型魔導具が。現場から回収した物である。

「ほう」

 それを見た瞬間、ヴィヴィの目の色が変わる。完全に魔導技師としての目に変わっていた。

「ロイドさん曰く、マギフィリア軍の魔導機士団が使っている魔導具だと言っていましたが」

「うん。そうだね」

 ヴィヴィは見た事はあるのか、アリッサの言葉を肯定する。その後に「触ってもいいかい?」と口にした。

 アリッサが了承するとヴィヴィは魔導具を持ち上げた。肘まで覆う腕型の魔導具は、回収したままの姿である。

 という事は、千切れた獣人の肉がまだ残っているのだが。そちらはローラが上手く処理をして血などは垂れていない状態であった。

「今日は緊急報告だからと言って時間は稼げたけど、これは明日の朝には証拠品として城に提出しないといけないの。ヴィヴィ、それまでに解析できる?」

「ふふ。私を誰だと思っているのかね?」

 ヴィヴィは作業台の上に魔導具を置くと手で触りながら「ふむふむ」と頷く。フォルムを確認しながら、内部構造を露出させる為の仕掛けを探しているようだ。

 腕の裏側にあたる場所に外装を外すための仕掛けがあった。それを作動させて、内部機構を露出させる。

 肘までは金属で出来たパーツの組み合わせになっており、肘から先は人の肉体。

 千切れた獣人の肉体を見る限り、魔導機士団は元々肉体――今回の場合は肘から先――を切除し、魔導具と肉体を一体化させる外科手術を行って装着しているようだ。

「この辺りは帝国でも行われている魔導外科手術と変わらないね。所謂、魔導義手と同じだ」

 ただ違うのは帝国内で行われる主な魔導外科手術のように、事故で体の一部を失ったからとは限らない事だろう。

 体の一部を魔導具化させる為に自ら肉体を捨てる事すらも厭わないのが、魔導機士団という者達である。

「酔狂な連中だよ。私には理解し難い。でも、技術としては一級品だ。生身の腕を越えるのだから、腕を切除しようと考えるのも当然なのかね?」

 ヴィヴィとしては理解できないが、魔導具となった腕は生身の体を越える機能と性能を発揮する。

 例えば、この魔導具に備わっている遠距離兵器だ。掌から照射型の魔弾を発射する機構はマギフィリア流魔導技術の詰まった最先端兵器である。

 腕としての機能に加えて兵器との一体化は、軍人として実に合理的で効率的だ。

 他にも重い物を片手で持ち上げたり、手首を外して仕込み剣にしたり、魔導銃にしたり。そういった生身の体では出来ぬ芸当が可能になる。

「マギフィリアにとっては普通の事なのかもね。あの国は帝国以上に技術が進歩しているし、一般人でも魔導義手や義足は当たり前だし」

 マギフィリアは魔導技術の発展と共に成長した大国である。今では仕事を求めて魔導義手や義足に手を出す国民もいるとか。

 生身を越えた性能を有する事を前提とした仕事も多く、生身の肉体を捨てる事への忌避感は他の国よりも薄くなっているのだろう。

「そうかもしれないね。この魔導義手1つとっても帝国の外科手術より何倍も緻密で繊細な事を平気でやっている。もちろん、本体も同様に。さすがは魔導技術発祥の地といったところか」

 腕と装着させる時に行う、人体と魔導具の融合手術。中でも特に難しいのは人体の中にある神経との接続手術だ。

 魔導技術の延長にある魔導医療の知識も備えるヴィヴィであるが、彼女も唸るほどの綺麗で細やかな仕事は魔導技術を発展させてきた国の意地と本気っぷりが見て取れる。

「なるほど。この機構はこうして……。こちらと連動させているのか。ふむふむ」

 だが、ヴィヴィも負けていない。機構を観察して、ギアボックス内の仕組みやコアから伸びる配線の向かう先を辿るだけでマギフィリア流魔導技術を理解・吸収していく。

「まぁ、こんなところだろう」

 彼女がこの腕型魔導具――戦闘用魔導義手に使われた技術を全て理解するまで1時間も掛からなかった。

 露出した内部機構を収納して、元の通りに戻すと彼女はトランクケースの中へ戻す。

「どう? アレの実現に使えそうかしら?」

「一部は使えるだろうね。もう構想と理論自体は完成しているがこれも参考になる。あとは材料と実験だけだが……」

 腕を組みながら言うヴィヴィは「うーん」と口を尖らせる。

「お金が必要?」

「資金よりも必要な材料が存在しているかが不明だね。なんせ、大昔の魔法使いと錬金術師が実際に使っていた物だ。本では見たことあるが、実物が残っているかどうか」

 アリッサの問いに資金よりも必要な物が重要であるとヴィヴィは言う。

 彼女はテーブルの上に置いてあったポットからコーヒーをカップに注ぎながら話題を変えた。

「しかし、魔導機士団まで相手にしたとなると今回は随分と大変だったんじゃないかね?」

「ん? まぁ、そうねぇ……。教会を突いたり、貧困街に行ったり……。大変と言えばそうかもね」

 ヴィヴィの要求する物に対して悩んでいたアリッサは、窓際に行って暗い空に浮かぶ星を眺めながら今日の出来事を思い返す。

「私も外周区で暮していた時は教会の食糧支援にお世話になった記憶があるが……。あそこはヤバイって話じゃなかったかな?」

「下手に突けば大戦争待ったなしね。マザコンも貴族もクロイツアと教会に怯えっぱなしよ」

 星を見上げながら「無しばかりよね」と笑い声を漏らすアリッサ。

「君の話を聞く限り、教会の介入を促すことまで言ってしまったようだが平気なのかい?」

「良いのよ。どのみち、私は教会を介入させたかったし。私の仕事は減って、マザコンと貴族共は慎重になる。時間を稼ぐ事に成功できたってわけね」

 仮に後日発言を追求されても「教会の邪魔をするようなマネは出来なかった」と言えば誤魔化しが利くだろう。 

「反帝国主義者のバックにいる組織とやらは大戦争を望んでいると思うかね?」

「さぁ? でも、代わりに引き金を引いてくれるなら大助かりよ。諸々、手間が省けるしね」

 窓に反射するアリッサの顔は随分と悪い顔になっていた。口角を吊り上げて、憎しみの籠った目で帝城を見つめる。 

「この国がどうなろうと、国民がどうなろうと知ったこっちゃない。大戦争の果てに他の国がまとめて吹き飛ぼうが私は一切困らない。その考えは貴女もそれは知ってるでしょ?」

「ああ、知っているよ。だからこそ、私は君に協力しているのだからね」

 ヴィヴィはアリッサの背中を見つめながら「ふふ」と笑い声を漏らす。

「しかし、これだけ聞くと君は一国のお姫様とは到底思えないね。普通、一族から権力維持の道具扱いされれば、悲嘆に暮れて涙を流しながら助けを求めるものじゃないかね?」

 確かにヴィヴィの言う事も一理ある。国際的なトップ層の婚姻事情を見ても、他の国では王子や姫に相手を選ぶ裁量がある程度は認められる。

 帝国皇族の婚姻事情の方が珍しく、自由を一切与えない仕来りは支配的で子供の権利を剥奪しすぎていると言わざるを得ない。

 普通のお姫様が「貴様は国が繁栄する為の道具となれ」と言われて、毎日周りの貴族から血統書付きの高級娼婦を見るような視線を向けられればショックを抑えきれないだろう。

「もしくは革命を起こして……。民衆が称える正義のお姫様ってところが王道かな?」

 自分で言っておいて「ふふ」と笑い声を漏らすヴィヴィ。

 アリッサも窓ガラスに反射するヴィヴィを見て「それ、本気で言ってるの?」と笑った。

 本人すらも似合わないと笑うように、アリッサに正義なんて言葉は一番似合わないだろう。彼女は世界平和を祈るようなお姫様ではないし、王道的な悲劇のヒロインでもない。

 彼女は道具である事を受け入れた。受け入れた上で行動を起こした。悲しみの連続が起きたとしても、彼女は決して屈しなかった。

 道具は道具でも、私は意思を持つ道具である。お前達に私という道具が扱いきれるのか、と言わんばかりに。

 運命に抗うと言えば聞こえはよろしいが……。彼女がやろうとしている事に対しては少々綺麗すぎる言葉だろう。

「泣いているだけで救われるのも、正義を掲げて綺麗事をぬかすのも、物語の中にいるお姫様に限った特権よ」

 何も行動せずに救われる。運命が覆される。それはハッピーエンドが確定している物語に限った話。

「言ったでしょ? 私はとっても自己中心的なの。私は私が想う大切な人達と自分だけが幸せになれれば良いの。有象無象がどれだけ死のうが気にしないわ」

 そう、彼女は泣きながら助けを求めるお姫様ではない。

 自分の人生を甘んじて受け入れるようなお姫様でもない。

 どれだけ汚い手段を使う事になったとしても、途方もない犠牲が生まれようとも……。

 彼女は『道具』という現実を受け入れながら、自分の理想を求めて自ら行動する。

 アリッサはいつもの作ったような笑顔ではなく、心底楽しそうな笑顔を浮かべてヴィヴィへ振り返った。

「私はとっても邪悪な道具なのよ」

 

 2章――END
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