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3話「リリアナ、勘当される」
翌日。
「今まではアルバート殿下の婚約者だったから、悪霊が見える気色悪いお前を家に置いてやっていた。
殿下に婚約破棄された上に、
往生際悪く彼に縋りつき、
恥じらいもなく聖女様に『殿下を半分ずつ分かち合いしましょう』と提案し、
国中の貴族が見ている中で殿下に絶縁され、
衛兵に城から放り出されるような恥知らずの娘を、
この家に置いておくことは出来ない!
リリアナ、お前を勘当する!
お前はもはやフロスト伯爵家の娘ではない!」
早朝からメイドに叩き起こされた私は、父のいる応接室に連れて行かれました。
父の元には昨夜のパーティで何が起こったか、事細かに記された書状が王家から届いていたようです。
私は言い訳する暇もなく、父から勘当されました。
「父が生前お前に与えた街外れの屋敷と魔晄炉も没収する。
数日の内に魔晄炉を破壊し、この国から出ていきなさい!」
「お言葉を返すようですがお父様、
魔晄炉を破壊すると魔石が作れなくなりますよ?」
アルバート殿下というダイヤモンドの原石(歩く悪霊ホイホイ)は逃してしまいましたが、そのへんを探せば野良の悪霊の一体や二体見つかるはず。
悪霊を魔石に変えればお金になります。
「王宮から届いた書状にこう書かれていた。
昨日お前が帰ったあと、アルバート殿下が命を下されたのだ。
『聖女シアによって国中の悪霊と瘴気は浄化される。
これからはネクロマンサーも錬金術師も冒険者も魔石も不要な時代となる。
よって我が国では悪霊から魔石を作ることを禁じる。
不要となった魔晄炉は速やかに破壊するように』……とな」
「そんなの横暴です!
確かに瘴気の浄化をシア様が行うのなら、冒険者や僧侶が魔石を使って瘴気を浄化して歩く必要はなくなるでしょう!
ですが魔石は美しいです!
加工してアクセサリーとして売り出す道が残されています!」
「それは無理だな
パーティに魔石を使用したアクセサリーを付けてくることを、アルバート殿下が禁止された」
あのアホ王子!
陛下と王太子が留守だからって好き放題してるわね!
「そんなのあんまりです!
貴族から反対意見は出なかったのですか?」
誰か一人くらい、魔石の美しさに魅了された人はいなかったのでしょうか?
「魔石の原料は悪霊だ……。
よく考えたらそんなもの身に付けるなど気持ち悪い……というのが、パーティに参加した殆どの貴族の意見だったそうだ」
「なんですって……!?」
知りませんでした!
魔石がそこまで嫌われていたなんて……!
「そういうことだ。
早々に荷物をまとめて出ていきなさい」
「そんな……!
このあと魔晄炉の破壊にも行かなくては行けないのに、歩い行けというのですか?」
魔晄炉がある別邸は王都の外壁の外にあります。
歩いて行ったら丸一日かかってしまいます。
「街で馬車を捕まえればいいだろう?」
「行き先を告げたらみんな乗車を拒否しますよ。
祖父の別邸に魔晄炉があることは、みんな知ってますから」
悪霊を魔晄炉で溶かして、魔石に変えるとき、黒板を爪で「ギーー!!」と引っ掻いた時の百倍奇怪な音がするのです。
普通の人間にはその音が酷く不快らしく、誰も別邸には近づきません。
「王家から、早急に魔晄炉を壊すように命じられているのですよね?
私にも早くこの国から出ていってほしいんですよね?
でしたら移動手段を提供してくれたほうが、お互いの為になると思うのですが……」
私はちらりと父の顔を伺いました。
「わかった、もういい。
私も鬼ではない。
馬一頭と馬車一台ぐらいはくれてやる。
手切れ金だ」
娘に向かって手切れ金とは随分な言い方ですね。
まぁ、馬と馬車が貰えるので文句は言いませんが。
「わかりたした。
今までお世話になりました。
さようならお父様。
お母様とお兄様によろしくお伝え下さい。
ちなみにお母様とお兄様は、今回の件についてなんと言ってましたか?」
二人は、私がこの家を去ることを少しは寂しがってくれたかしら?
「妻も息子も『やっと不気味な厄介者と縁が切れる!』と言って喜んでいた。
お前を視界に入れたくないから、見送りはしないとさ」
お母様もお兄様も、実の娘と妹に随分な言い方ですね。
涙の別れを期待していた訳ではありませんが、それにしてもそこまで嫌わなくても……。
「そうですか、皆さんのお気持ちはよくわかりました。
失礼します」
応接室を出た私は、部屋に戻り荷造りをしました。
お金になりそうなものと、錬金術とネクロマンサーの秘術の本と、着替えをバックに詰めて、部屋を出ました。
ボストンバッグを片手に廊下に出ると、そこには人の気配がありませんでした。
一階に行くまで「この家は空き家だったかしら?」と勘違いするくらい、誰ともすれ違いませんでした。
普段なら使用人の一人や二人とすれ違うのに……。
もしかして使用人も含め、誰も私と会いたくないから隠れているのかしら?
私は使用人にも嫌われていたのですね。ちょっとしんみりしてしまいます。
ですがものは考えようです!
誰とも遭遇しないなら、やれることが増えます!
みんなが隠れている間にキッチンに寄って、食料を頂いていきましょう!
私は誰もいないキッチンに入り、パンやりんごなどを袋に詰めました。
魔晄炉を壊した後は旅に出るわけですから、多めに頂いておきましょう。
せっかくだから厩舎に行って一番良い馬と、良い馬車を貰っていきましょう!
……そう思っていたのですが。
玄関を出ると、家の前にこれ見よがしに馬車が止められていました。
馬はよぼよぼのおばあちゃん。
馬車の荷台は古くてボロボロ。
あの父が気前よく馬車をくれるというから、おかしいと思ったんですよね。
他の馬と取り替えられないか厩舎に見に行きましたが、全部の馬が太い鎖で繋がれておりました。
私が部屋で荷造りをしてる間に、父はこんなことをやっていたのですね。
お父様は悪霊も魔物も苦手で怖がりのヘタレのくせに、こういうところだけは無駄に手際がいいんですよね。
仕方ありません。
年老いた馬と古い馬車でもないよりはましです。
「長い旅になると思うけど、これからよろしくね」
私は馬の鼻先をなで、台所から失敬してきた角砂糖をあげました。
馬は美味しそうに角砂糖を食べていました。
私は荷物を荷台に乗せ、御者席に乗り込みました。
「まずは、お祖父様の残した別邸へ向かいましょう」
お祖父様との思い出の品である魔晄炉を破壊するのは忍びありません。
ですが殿下の命令には逆らえません。
お祖父様が若かった頃、瘴気の吹き溜まりが今よりも多く、森や草原を魔物が我が物顔で歩いていたそうです。
なので祖父の時代は、魔物退治や瘴気の浄化に魔石が大活躍しました。
……ですが時代は変わりました。
魔石の付いた剣や杖を装備した冒険者や騎士の活躍により魔物は減少。
瘴気の吹き溜まりも、魔石の付いた杖を装備した教会の僧侶の活躍で、数が減りました。
今も残っている瘴気の吹き溜まりは、これから聖女様が浄化するでしょう。
もはやネクロマンサーも錬金術師も魔石も、この国には必要ないのです。
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