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4話「リリアナ、旅人と遭遇する」
馬車が街の中に差し掛かると、街の人達がひそひそと噂しているのが聞こえました。
「あれが悪霊を魔石に変える女かい?」
「なんとも薄気味悪いね」
「第二王子様が婚約破棄したくなるのも頷けるね」
「早く街から出ていってほしいよ」
どうやらすでに私が婚約破棄された噂が広がっているようです。
それにしても、馬車に乗ってる私に聞こえるように言ってる時点で、ひそひそ話じゃないですよね?
あれがひそひそ話だと言うのなら、皆さん地声が大きすぎますよね?
噂話をしていたご婦人にちらりと視線を向けると、さっと視線を逸らされました。
中には「ひーー! 目が合った! 魂を奪われるーー!」と言って逃げていく人もいました。
失礼な……私を何だと思っているのですか?
私はちょっと悪霊をしばくのが趣味な、か弱い乙女なのに。
この調子では王都で買い物するのは無理ですね。
家から食料を持ち出して正解でした。次の街に着くまでひもじい思いをしなくてすみます。
くよくよしていても仕方ありません。
私の噂が届いていない遠い街に行ったら、おしゃれなカフェに入って、美味しいパンケーキでも食べましょう。
◇◇◇◇◇
王都の城壁を超えると、のどかな風景が広がっていました。
草原を風が吹き抜け、木々の間で小鳥が歌っています。
こういう風景を見てると心が休まりますね。
ここから祖父の別邸まで馬車で二時間ぐらいかかります。
馬車を引くのは年老いた馬。急ぐ旅でもありませんし、のんびり行きましょう。
◇◇◇◇◇
一時間ほど馬車を走らせ、馬車が林に差し掛かったとき。
一頭の白い馬が道草を食べているのが見えました。
「おやまぁ、こんな所に野良馬が」
野良馬にしてはとても毛並みがよく、ハーネスト(馬具)もついたままになっていました。
どこから逃げて来た馬でしょうか?
詮索するのも面倒です。
持ち主がいないようなので頂いてしまいましょう。
どのみちこのまま放置したら、獣や魔物に食べられてしまうだけですから。
私は白馬を捕まえるために馬車から降りました。
白馬は人に慣れているらしく簡単に捕まえることができました。
「よしよしいい子だね。
今日から君は家の子だよ」
私は白馬を自分の馬車につなぎました。
「ふふ、二頭立ての馬車になりました。
リッチになった気分です」
上機嫌で馬車を走らせていると……。
「あらあら、あちらには道端に廃棄された車体が」
少し馬車を走らせると、今度は馬車のキャビン(人を乗せる箱の部分)が林の前に放置されていました。
「立派な馬車なのに、馬車を引く馬がいないのは変ですね」
白馬が放置された馬車を見て、「ヒヒン」と泣きました。
「もしかして、あの君はあの馬車に繋がれていたの?」
私が白馬に尋ねると、馬は「ヒン」と鳴きました。
私には白馬が「そうだよ」と答えたように思えました。
馬車から離れた馬、道の端に放置されたキャビン……何かありそうですね。
まぁ、私には関係ありませんね。
持ち主がいないようなので、あの豪華な馬車を頂いてしまいましょう。
流石にそれは泥棒になるかしら?
でもこのまま放置するのももったいないですよね。
そもそもこのあたりはすでにフロスト伯爵家の土地なわけで、この先には祖父が残した別邸しかありません。
周辺の村の人間は、魔晄炉を恐れて祖父の別邸には決して近づきません。
このまま馬車を放置しても雨風にさらされ朽ちていくだけです。
それなら私が頂いた方が有効利用できるというもの。
当家の土地に放置された物を、私が頂いても問題ない筈!
厳密には私は勘当された身なので、フロスト伯爵家の人間ではありませんが、そんなことは些細な問題です。
豪華な二頭立ての馬車の旅なんてわくわくしますね。
私がそんなことを考えていたとき、馬車のドアが開き……中から人が落ちるように出て来ました。
なんだ、持ち主付きでしたか……がっかりです。
でもおかしいですね?
客席に人が乗っているのなら、御者はどこに行ったのでしょうか?
強盗に遭遇して、御者だけ逃亡したとか……?
いえ、その可能性はありませんね。
この先には山賊や盗賊や暗殺者も恐れる、祖父が実験に使っていた別邸があります。
祖父の別邸は老若男女、命があるものはみんなが恐れる場所。
断言します。
そんな薄気味悪い場所で強盗したがるもの好きはいません。
となると、この人はなんの為にこんな所にいたのでしょうか?
馬車にトラブルが起きた原因とは?
謎は深まるばかりです。
厄介ごとの匂いがするのは確かですね。
その時、白馬が「ヒヒン」と鳴きました。
「わかった、今から助けるわ。
あなたのご主人様を見捨てたりしないわ」
私には白馬が「早く助けてあげてよ」といっているように聞こえました。
めんどくさいからスルーしたいのですが、この先この道を通りかかる人が現れる可能性はゼロです。
この人は私が助けなかったら野垂れ死に確定です。
私が助けるしかありませんね。
私は馬車から降りて、倒れている人の元へ向かいました。
近づいて見てわかったのですが、倒れていたのは若い男でした。
男性は金色の美しい髪をしていました。
とても上等な上着を着ているので、どこかの貴族か、もしくは大商人かもしれません。
旅のお金持ち……しかも訳あり。
彼を助けたら、それなりのお礼が貰えるかもしれません。
こちらは勘当された身。
今は旅の資金として、少しでもお金がほしいのです。
【ケーケケケケケ、ザマァ見ろ】
その時、キャビンから誰かの声が聞こえました。
まだ他にも誰か乗っていたのでしょうか?
「誰かいるのですか?
もしかしてこの方のお連れの方ですか?
それとも御者の方でしょうか?」
【女ァ! 俺様の声が聞こえるのか?!
ラッキーだったな!
ようく聞け!
俺様は悪魔の赤!
この男に取り付いて数々の災いを起こし、殺そうとしていた!
馬と馬車を繋いでいた馬具を切り、 馬車が止まった所に御者の上に蛇を落とした。
御者は青い顔して逃げていったぜ。
一人きりになったこの男を、今から呪い殺すことろ……だ】
ドガッ! バキッ!
「なぁんだ、悪魔でしたか。
敬語を使って損しました」
私は馬車から出てきた赤い色の悪魔をしばき倒しました。
「悪霊に取り憑かれてる人は何人か見たことがありますが、悪魔に取り憑かれている人を見るのは初めてですね」
悪魔に取り憑かれる体質の人間……興味深いですね!
【兄者しくじったようだな。
ここは次男のオレ、青様の出番のようだ。
女ァ、兄者を倒したくらいでいい気になるなよ。
ナンバーワンはこのオレ様……】
ドスッ! バキッ!
【ねぇ……まだ、俺……話してたのに……ぐふっ】
何たる幸運!
悪魔が一体ではなく二体もいたなんて!
この二体を魔晄炉で溶かしたら、一体どんな色の魔石が出来るのでしょう?
わくわくします!
この方は、もしかしてアルバート殿下以上の有料物件(悪魔召集体質)なのでは……!?
悪魔の断末魔ってどんなのかしら?
魔石にしたらどんな効果があるのかしら?
想像しただけで、心臓がとくんとくんと音を立てています。
この胸のときめきは……もしかして恋?
一目惚れってあるのですね!
【赤兄と、青兄がやられたようだな。
だが人間、いい気になるなよ。
奴らは悪魔の中でも最弱……このおれこそが】
ゴスッ! ドスッ! バキャ!
「まぁ、今度は緑色の悪魔が……!
私この方に会ってからずっと心臓がドキドキしっ放しです!
これが恋のときめきというものなのかしら?」
【赤兄、青兄、緑兄がやられたようだな……。
少しは骨がある人間がいたようだ……だがな】
ドコスッッッ!!
その後も、黄色、オレンジ、水色、紫の悪魔が出てきました。
彼らはぐだぐだ何か話しながら姿を現しましたが、悪魔の言葉に耳を傾ける気はありません。
「ふぅ~~、これで全部かしら?」
倒した悪魔は七体。
赤、青、緑、黄色、オレンジ、水色、紫……それぞれ別の色をしていました。
悪魔を魔晄炉に入れて上手いこと溶かせば、七色の魔石ができるかもしれません!
「悪霊」から魔石を作ることは王子に禁止されましたが、「悪霊」から魔石を作ることは禁止されていませんからね。
まぁ、そのうち禁止されるかもしれませんが、今はまだ禁止されていません。
禁止される前にやってしまったもの勝ちですわ!
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