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5話「リリアナ、旅人を助ける」
しおりを挟む「うう……、僕はいったい……?」
そうこうしている間に、倒れていた男性が目を覚ましました。
「体が徐々に重くなって……意識が朦朧として……馬のいななきや、御者の悲鳴が聞こえて……それで……?」
彼は悪魔に取り憑かれ、それで体調が悪くなったのでしょう。
「大丈夫ですよ。
あなたに取り憑いていた悪魔は私がボコボコにしましたから」
「悪魔に取り憑かれていた……?
それであなたは……?」
このとき男性と視線が合いました。
彼はサファイアブルーの瞳をしていました。
顔立ちもかなり整っています。
年は十六~十八歳ぐらいでしょうか?
悪魔に取り憑かれていた後遺症か、肌の血色が悪く、目の下に隈がありました。
元々は美少年だったでしょうに、顔色のせいで病弱に見えるなんてもったいないですね。
「私はネクロマンサー兼錬金術師です」
「ネクロマンサー……? 錬金術師……?」
「詳しいお話は後でいたしましょう。
それより、あなたに折り行って頼みがあるのです」
「なんでしょう?」
「あなたに取り憑いていた悪魔を譲ってほしいんです!」
「はい……?」
「困惑するのはわかります!
これだけ綺麗に色の別れた悪魔ですものね!
簡単には人に譲りたくありませんよね!
そこはまぁ、私があなたを助けたことへのお礼ということで……」
「あの! 先程からなんの話をしているんですか?」
「あなた悪魔に取り憑かれていたんですよ。
心配しないでください。
悪魔は私がフルボッコにしておきましまから。
そこに転がっている悪魔が見えませんか?」
私が悪魔を積み重ねた場所を指差すと、青年は首を傾げました。
「僕には何も見えませんが……」
青年は困ったように首を傾げました。
「そうですか……あなたには悪魔は見えないんですね」
見えないものは存在しないのも同じ……彼に私がしたことを理解して貰うのは不可能。
ということは……この人に取り憑いていた悪魔をこのままネコババしてもバレないということですね!
思いがけず生きの良い悪魔を手に入れてしまいました。
魔晄炉で溶かす前に、あんな実験や、こんな実験をするチャンスですね!
キーヒッヒッヒッ……! 今日はついてますわ!
「僕は……祖国にいた時からずっと……体が重くて、苦しくて……息をするのも大変でした……」
私が心の中でガッツポーズしていると、青年が自分語りを始めました。
「多くの医者に診てもらいましたが、原因はわかりませんでした……」
霊障の類はお医者様の専門外ですからね。
「僕の側にいると悪寒がし、
良くないことが立て続けに起こるようで、
友人は気味悪がって僕から離れて行きました。
ソフィアも僕の元から去って行った……」
悪魔に取り憑かれ、苦労していたのですね。
「わらにもすがる思いで、国一番の占い師に見てもらったんです!
そして、オルフェア王国のフロスト伯爵の別邸を尋ねるように言われました。
彼なら僕を苦しみから開放してくれると……!」
オルフェア王国とはこの国の名前です。
ああそれで……近所の人間どころか、強盗も山賊も近寄らないこの道を走っていたわけですね。
「フロスト伯爵の別邸はこの先にあります。
彼は私の祖父でした」
「そうだったのですか?
彼のお孫さんに助けて頂けるとは何たる偶然!
何たる幸運!
それでフロスト伯爵は今どこに……?!」
「祖父は数年前に亡くなりました。
なのでフロスト伯爵ではなく、フロスト前伯爵になります」
「そうなんでね……僕は訪ねて来るのが遅すぎたようです……」
「そうでもないですよ。
祖父の技術や能力は、全部孫の私が全部受け継ぎましたから」
「それは本当ですか?!」
「はい。
あなたの問題はすでに解決しています。
あなたには悪魔が七体取り憑いていました。
祖国にいた時から七体全部に取り憑かれていたのか、この国に来てから新たに取り憑いた悪魔がいたのかは、私にはわかりません」
殴った悪魔を起こして話を聞けばわかるかもしれませんが、めんどくさいです。
「ただこだけはわかります。
あなたの体調が悪かったのも、
友人が気味悪がって離れていったのも、
全部悪魔のせいだと」
「そうだったのですね」
「先ほどお話した通り、その悪魔は私が全部やっつけました。
だからもう大丈夫ですよ。
安心して祖国にお帰り下さい」
報酬はそこに転がってる悪魔を置いてってくれるだけでいいですから。
「ありがとうございます!
あなたにはなんと感謝したらいいか!」
少年がガバっと起き上がり、おもむろに私の手を取りました。
「私が言うのもなんですが、今の話を信じるのですか?
悪魔は目に見えないのに?」
「今までずっと感じていた体の怠さや不快さ、空気の重苦しさが綺麗さっぱり消えています!
それがあなたの言葉が正しいという証明です!」
この人、悪い人に騙されないか心配になるほどの純粋さですね。
この年になるまでこのように純粋でいられたのですから、彼はよほど育ちが良いのでしょう。
「高名な医者や学者を何人も呼び付け、体を診てもらいました。
教会でお祓いを受けたこともあります。
ですが、誰も僕の体調不良の原因を突き止められなかった。
あなたはその原因を突き止め、僕を苦しみから救ってくれました!
僕があなたを信じる理由はそれで十分です!」
彼も大分苦労してきたようですね。
教会でお祓いを受けても無意味でしょう。
シア様ほどの神聖力を持つ聖女でなければ、低級霊ならともかく、悪霊より強い力を持つ悪魔を祓うなんて不可能ですから。
「本当に本当にありがとうございます!
あなたは命の恩人です!
なんとお礼を言ったらいいのか……うっ……!」
私の手を握り手を上下にぶんぶん振っていた少年が、急に苦しみ出しました。
「どうかしましたか?」
「何だかわかりませんが……体が急に重く……」
彼は立っていられず、道に蹲ってしまいました。
【フフフフフ……兄者達を倒したからっていい気になるなよ。
我こそは悪魔の中の悪魔、虹色!
一人で七つの色を持つ特異体質!
兄者達の異変を嗅ぎつけ駆けつけた訳さ!
よく聞け、人間の女!
オレは他の兄弟のように弱くないぞ!
貴様は明日の朝日を拝めずに死ぬ……の、だ……?】
ドコスッッッ! バギッ!! ボコッッッ!!
少年の背中には、七色に光る悪魔がくっついていました。
なんか凄くレアな悪魔を倒したみたいです!
この悪魔からはどんな魔石が作れるのかしら?
それにしても長々と口上を垂れていたわりには、弱い悪魔でしたね。
か弱い乙女のげんこつ数発で伸びてしまうなんて。
「うわっ、何故か急に体が軽くなりました!」
悪魔に取り憑かれていた時は真っ青だった少年の顔に、血の色が戻ってきました。
「ええ私が今、あなたに取り憑いていた悪魔をしばき倒しましたから」
「悪魔をしばきたおすなんて凄い!
あなたはとてもたくましい方なのですね!」
それは私がバカ力という意味でしょうか?
「いえいえ、私など小麦粉の大袋を一度に三つ担ぐのがやっとの華奢で非力な女の子ですよ」
小麦粉の大袋一つ二十五キロ。
本当は小麦粉の大袋なら、一度に二十四個はらくらく持ててしまうんですが、怪力だと思われたら嫌なので少しサバを読みました。
「それにしても……。
祓って貰った直後に、また別の悪魔に取り憑かれるなんて……僕はなんて情けないんだ」
「もしかしたらあなたは、稀に見る特異体質なのかもしれません」
「特異体質……?」
歩く悪霊ホイホイのアルバート殿下を商売敵の聖女に取られ、もうあのような悲劇的な体質のレア度マックスの人間に出会うなんて不可能だと思ってました。
でも、捨てる神あれば拾う神ありです!
「あなたは稀にみる悪魔召集体質……!
歩く悪魔ホイホイなんですわ!」
「な、なんですってーーーー!!」
今彼の後ろに大ゴマ&ベタフラッシュで「ガーン!」という擬音が見えた気がします。
古い演出ですね。
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