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4話「あなたの手が痛そうだから」
しおりを挟む「メアリー、どうして邪魔をするんだ?」
ヴィルデは困惑した様子でした。
「もう止めて、ヴィルデ」
「メアリーはこんなやつを庇うのか?」
ヴィルデが眉尻を下げました。
そんな顔しないで、親友にそんな顔をされると、私まで悲しくなってしまうわ。
「違うわ、ベン様を庇ったんじゃないの。
ベン様を殴るヴィルデの手が痛そうだから止めたの」
ヴィルデの手は綺麗だから、こんなことに使っては駄目。
「メアリーは、オレ……いえ、私の事を心配してくれたの?」
ヴィルデ、今「オレ」って言わなかった?
そう言えば、ベン様を罵っている時も「オレ」と言っていたような気がするわ?
きっと、わたしの聞き間違いよね。
だってヴィルデのような淑女が「オレ」なんて言うはずがないもの。
「ええ、そうよ。
ヴィルデが私の言いたいこと全部言ってくれたからすっきりしたの。
ありがとう、私の気持ちを代弁してくれて。
だからベン様のことはもういいの。
離してあげて」
ヴィルデがベン様を殴ってなかったら、きっと私は泣いてたでしょう。
元が付くとはいえ婚約者に、見た目も人格も全否定されるのは辛いから。
「ありがとう、ヴィルデ。
私の為に怒ってくれて」
私はヴィルデの手を掴み、彼女を立ち上がらせました。
「メアリーの為なら何でもするわ」
そういって照れくさそうに笑ったヴィルデは、いつものお淑やかな公爵令嬢でした。
ベン様を罵っていた時の彼女も勇ましくて素敵だったけど、お淑やかな話し方の方が彼女には似合うわ。
「ばっかじゃねぇの!
二人でいつまでも友情ごっこしてろよ!!」
いつの間にか立ち上がっていたベン様が、こちらを睨んでいました。
「まだいたのかよ、クズ!
さっさとオレの視界から消えろ!
さもないともう一発くらわせるぞ!」
ヴィルデがそう言って威嚇すると、ベン様は「ひっ……!」と悲鳴を上げ真っ青な顔で逃げて行きました。
「それから最後に訂正しておくけど、伯爵家は下位貴族じゃない、中位貴族だからな!」
ヴィルデが逃げていくベン様に向かって叫びました。
「ヴィルデ、あなた時々口調が乱暴になるのね?」
今彼女は確かに「オレ」と言ったわ。私の聞き間違いではなかったのね。
「もしかしていつもそんな乱暴な言葉遣いをしているの?」
「ええっ……と、それは……」
「もしかして、公爵令嬢として完璧な淑女として過ごす事を要求される日々に疲れ果て……別の人格を生み出しているとか……?」
だとしたら可哀相だわ。
お医者様に見せなくては。
「そうじゃないのよ。
これには事情があって……」
「事情?」
「実は……口調が時々乱暴になるのは兄の影響なの」
「兄弟がいたの?」
「ええ。同い年の兄が一人」
「そうなの。初耳だわ。
お兄様と同い年という事は、双子なの?」
「そうじゃないんだけど……。
そのことについてメアリーに話したいことがあるの」
「私に話したいこと?」
そう言えばベン様が来る前、ヴィルデは私に何か伝えようとしていました。
そのことと関係があるのかしら?
「兄にメアリーのことを話したら、兄があなたの事を凄く気に入ってね。
ぜひ直接会って話をしたいそうなの」
「ヴィルデのお兄さんが、私を?」
ヴィルデのお兄さんなら、きっと綺麗な人よね。
「兄を卒業パーティに連れて来るから、兄と一曲踊ってくれないかしら?」
「えっ?」
親友のお兄さんとはいえ、知らない人と踊るのは少し緊張するわ。
「お願い、一曲だけでいいの」
親友に懇願されたら断れないわ。
「わかったわ」
「ありがとうメアリー!」
ヴィルデのお兄さんなら他人という訳でもないし、一曲ぐらい踊っても平気よね。
「あとこれは勝手なお願いなんだけど……兄に会うまで次の婚約者を決めないでほしいの!」
卒業まであと三カ月。
それまでに新しい婚約者を決める方が難しいわ。
「いいわよ。
ベン様と婚約解消したばかりだから、すぐに次の相手は決まらないでしょうし」
「そんなことないわ!
メアリーは自分で思っているよりもずっとキュートで可憐なんだから!
ベン様と婚約解消したことが知られたら、伯爵家に釣書が殺到するわ!」
「心配性ね。
そんなことにはならないわよ」
「メアリーは自分の魅力がわかってないのよ。
いい、絶対に卒業まで新しい婚約者を決めないと約束して!」
ヴィルデがいつになく真剣な目で私を見ていました。
「ええ、わかったわ」
親友との約束だもの。絶対に守るわ。
それにしても、ヴィルデのお兄さんはどんな人なのかしら?
今から会うのが楽しみだわ。
◇◇◇◇◇
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