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5話「レイとメリー」
しおりを挟む「お嬢様のせいではありませんよ。
お嬢様も先代の奥様が亡くなられてから、辛い思いをされたのですよね。
僕の方こそすみません。
お嬢様が一番辛いときに側にいてあげられなくて」
「冒険者として世界中を飛び回っていたんでしょう?
ロイエンタール侯爵家の事情に気づけなくても仕方ないわ」
「情けない話ですよね。
お嬢様のお側にいたくて、そのためには爵位が必要で、Sランク冒険者になれば爵位が手に入ると聞いて、家を飛び出して冒険者になって、それからはがむしゃらにランクを上げることに固執した……。
その間に大恩ある先代の奥様が亡くなり、義父母が侯爵家を解雇され、お嬢様が継母と腹違いの妹にいじめられ、婚約者に酷い仕打ちをされていたことに気づきもしなかったなんて……」
「自分を責めないでレイ」
レイは皇族なのよね。
レイなんて呼び方は失礼に当たるわ。
「これからは、レイのことレイナード殿下とお呼びするわ。
敬語も使う」
「今まで通り『レイ』とお呼び下さい。
敬語なんていりませんよ、お嬢様」
「……でも」
「その代わり、僕もメリセントお嬢様のことを【メリー】とお呼びしてよよろしいでしょうか?」
「……えっ?
それは別に構わないけど」
愛称なんて亡くなったお母様にしか呼ばれたことないから、戸惑ってしまう。
「愛してます、メリー。
子供の頃からずっとあなたのことだけを思ってきました」
レイからの突然の告白に、私の顔に熱が集まる。
「婚約破棄されてばかりのあなたに、こんなことを言うのは卑怯かもしれません。
でもあなたの傷が癒え、そのとき他の男があなたの隣にいるのは嫌なのです。
僕と結婚してください、メリー」
「へっ……?!」
今日イチ間抜けな声が出たと思う。
幼い頃のレイはひ弱で泣き虫だった。
だけど誰よりも優しくて、お父様やお母様に叱られたときは、いつも私のそばにいて慰めてくれた。
「私もレイの事が好き。
子供の頃からずっと……」
「良かった、振られたらどうしようかと内心ドキドキしてました」
「でも……私、もう貴族じゃないの。
ホルン王国の第一王子に婚約破棄された傷物だし、
侯爵令嬢の身分は剥奪されたし、
ホルン王国の人は私が妹を虐げた悪女だと信じているわ。
シュテルンベルク帝国の皇子のレイとは釣り合わない……」
レイの未来を邪魔したくない。
レイはやっと本当のお父さんのお母さんに会えて、幸せに暮らしているのに。
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