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12話「愚かな王子」
しおりを挟む「失礼だとは思いながら、殿下とルーリー先生のお話をドアの前で聞かせていただきました」
ソフィアが申し訳無さそうに言った。
「あ、いや……あれは」
ソフィアにすべてを聞かれていたとわかり、王子の顔が青ざめた。
愚かな奴め、今さら後悔しても遅いのだ。
王子のこの部屋での言動はすべてルーリー先生が記録玉に録画している。
「殿下は私と同じ年であらせられるのに、すでに真実の愛のお相手を見つけられているのですね。
羨ましいですわ。
ぜひその方と添い遂げてください。 私、陰ながら殿下の恋を応援しております」
そう言ってソフィアは天使のように朗らかにほほ笑んだ。
王子がソフィアのほほ笑みに見とれているのが分かる。僕は奴の目を潰してやりたい衝動にかられた。
男爵令嬢のクロリスに言われた言葉を何の疑いもなく信じ、裏も取らずにソフィアに冤罪をかけたお前に、彼女の笑顔を拝む資格はない。
家に帰ったら知らない人に笑顔を振りまかないように、ソフィアにはそれとなく注意しておこう。
義妹の笑顔は国宝より価値がある。誰にでも見せていいものではないことを彼女に自覚させなくては。
「違うんだソフィア……! あれは……」
王子が見苦しく言い訳しようとする。
大事なことだが婚約者でもないのに義妹を呼び捨てにするな。聞いていて気分が悪い。
「殿下、及ばずながら我がバウムガルトナー公爵家も殿下の身分違いの恋を応援しております」
義父が王子の言い訳を遮る。
ソフィアに一歩近づこうとした王子を、義父と二人がかりで止めた。
「聞いてくれフォンゼル……!
あれはだな……!」
それから僕はお前に、僕の名前を呼ぶ許可を出した覚えはない。
「わしは殿下がソフィアを婚約者候補から外すとおっしゃったことをしかとこの耳で聞きました。
バウムガルトナー公爵家の当主として殿下のご意思を尊重いたします」
義父が王子に顔を近づけて口角を上げた。
義父は口元は笑っているのに、目は全然笑っていなかった。
義父は氷のように冷たい眼差しで王子を睨めつけている。
多分僕も義父と同じような表情をしていると思う。
「もう娘は殿下の婚約者候補ではありません。
今後は娘を名前で呼ぶことはお控えください。
それから娘は本日初めて登城いたしました。
よってペトリ男爵令嬢に嫌がらせをしたのは娘ではありません」
義父が僕の言いたかったことを言ってくれた。
「えっ?」
義父の言葉に王子は驚いた顔をしていた。
裏も取らずにメイドの言葉を信じるからこういう目に遭うんですよ、殿下。
こちらとしては罠にはめやすくて助かりましたが。
「この件は公爵家の名誉に関わりますので、徹底的に調べさせていただきます」
そう言って王子を見据える義父の目は、そこらの暗殺者より鋭かった。
「ああ、そうしてくれ」
王子が生気のない顔でそう答えた。
「それにしても王妃殿下は遅いですね。
もう約束の刻限を過ぎていますよ」
僕はわざとらしく義父に問いかける。
「何者かが王妃殿下の名を騙り娘を呼び出したのかもしれん。
そちらも調査することにしよう」
義父も僕に話を合わせてくれた。
僕も義父も王子が王妃殿下の名を騙りソフィアを城に呼び出したことを知っている。
「王妃殿下の名を騙り公爵家を欺いたのです、王家から然るべき罰を受けるでしょう。
バウムガルトナー公爵家を欺いた者をわしも許すことはできません。
必ずやバウムガルトナー公爵家を敵に回したことを後悔させてやります」
義父は瞳から氷魔法が出るんじゃないかというくらい、殺気の籠もった冷たい視線を王子に向けていた。
「それがいいですね、お義父様」
実際義父も僕も目から氷魔法が出せる。しかしソフィアの前なので今は魔法を使わずにいた。
「ひっ……!」
義父の殺気に気圧され、王子はその場で尻もちをついた。
「大丈夫ですか? 殿下?
お顔の色が優れないようですが」
「へ、平気だ……」
義父が心配したふりをして王子に手を差し伸べる。
だが王子は青い顔でガタガタと身体を震わせるだけで、義父の手を掴むことはなかった。
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