12 / 16
12話「愚かな王子」
しおりを挟む「失礼だとは思いながら、殿下とルーリー先生のお話をドアの前で聞かせていただきました」
ソフィアが申し訳無さそうに言った。
「あ、いや……あれは」
ソフィアにすべてを聞かれていたとわかり、王子の顔が青ざめた。
愚かな奴め、今さら後悔しても遅いのだ。
王子のこの部屋での言動はすべてルーリー先生が記録玉に録画している。
「殿下は私と同じ年であらせられるのに、すでに真実の愛のお相手を見つけられているのですね。
羨ましいですわ。
ぜひその方と添い遂げてください。 私、陰ながら殿下の恋を応援しております」
そう言ってソフィアは天使のように朗らかにほほ笑んだ。
王子がソフィアのほほ笑みに見とれているのが分かる。僕は奴の目を潰してやりたい衝動にかられた。
男爵令嬢のクロリスに言われた言葉を何の疑いもなく信じ、裏も取らずにソフィアに冤罪をかけたお前に、彼女の笑顔を拝む資格はない。
家に帰ったら知らない人に笑顔を振りまかないように、ソフィアにはそれとなく注意しておこう。
義妹の笑顔は国宝より価値がある。誰にでも見せていいものではないことを彼女に自覚させなくては。
「違うんだソフィア……! あれは……」
王子が見苦しく言い訳しようとする。
大事なことだが婚約者でもないのに義妹を呼び捨てにするな。聞いていて気分が悪い。
「殿下、及ばずながら我がバウムガルトナー公爵家も殿下の身分違いの恋を応援しております」
義父が王子の言い訳を遮る。
ソフィアに一歩近づこうとした王子を、義父と二人がかりで止めた。
「聞いてくれフォンゼル……!
あれはだな……!」
それから僕はお前に、僕の名前を呼ぶ許可を出した覚えはない。
「わしは殿下がソフィアを婚約者候補から外すとおっしゃったことをしかとこの耳で聞きました。
バウムガルトナー公爵家の当主として殿下のご意思を尊重いたします」
義父が王子に顔を近づけて口角を上げた。
義父は口元は笑っているのに、目は全然笑っていなかった。
義父は氷のように冷たい眼差しで王子を睨めつけている。
多分僕も義父と同じような表情をしていると思う。
「もう娘は殿下の婚約者候補ではありません。
今後は娘を名前で呼ぶことはお控えください。
それから娘は本日初めて登城いたしました。
よってペトリ男爵令嬢に嫌がらせをしたのは娘ではありません」
義父が僕の言いたかったことを言ってくれた。
「えっ?」
義父の言葉に王子は驚いた顔をしていた。
裏も取らずにメイドの言葉を信じるからこういう目に遭うんですよ、殿下。
こちらとしては罠にはめやすくて助かりましたが。
「この件は公爵家の名誉に関わりますので、徹底的に調べさせていただきます」
そう言って王子を見据える義父の目は、そこらの暗殺者より鋭かった。
「ああ、そうしてくれ」
王子が生気のない顔でそう答えた。
「それにしても王妃殿下は遅いですね。
もう約束の刻限を過ぎていますよ」
僕はわざとらしく義父に問いかける。
「何者かが王妃殿下の名を騙り娘を呼び出したのかもしれん。
そちらも調査することにしよう」
義父も僕に話を合わせてくれた。
僕も義父も王子が王妃殿下の名を騙りソフィアを城に呼び出したことを知っている。
「王妃殿下の名を騙り公爵家を欺いたのです、王家から然るべき罰を受けるでしょう。
バウムガルトナー公爵家を欺いた者をわしも許すことはできません。
必ずやバウムガルトナー公爵家を敵に回したことを後悔させてやります」
義父は瞳から氷魔法が出るんじゃないかというくらい、殺気の籠もった冷たい視線を王子に向けていた。
「それがいいですね、お義父様」
実際義父も僕も目から氷魔法が出せる。しかしソフィアの前なので今は魔法を使わずにいた。
「ひっ……!」
義父の殺気に気圧され、王子はその場で尻もちをついた。
「大丈夫ですか? 殿下?
お顔の色が優れないようですが」
「へ、平気だ……」
義父が心配したふりをして王子に手を差し伸べる。
だが王子は青い顔でガタガタと身体を震わせるだけで、義父の手を掴むことはなかった。
42
あなたにおすすめの小説
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
家も婚約者も、もう要りません。今の私には、すべてがありますから
有賀冬馬
恋愛
「嫉妬深い女」と濡れ衣を着せられ、家も婚約者も妹に奪われた侯爵令嬢エレナ。
雨の中、たった一人で放り出された私を拾ってくれたのは、身分を隠した第二王子でした。
彼に求婚され、王宮で輝きを取り戻した私が舞踏会に現れると、そこには没落した元家族の姿が……。
ねぇ、今さら私にすり寄ってきたって遅いのです。だって、私にはもう、すべてがあるのですから。
【完結】転生悪役っぽい令嬢、家族巻き込みざまぁ回避~ヒドインは酷いんです~
鏑木 うりこ
恋愛
転生前あまりにもたくさんのざまぁ小説を読みすぎて、自分がどのざまぁ小説に転生したか分からないエイミアは一人で何とかすることを速攻諦め、母親に泣きついた。
「おかあさまあ~わたし、ざまぁされたくないのですー!」
「ざまぁとはよくわからないけれど、語感が既に良くない感じね」
すぐに味方を見つけ、将来自分をざまぁしてきそうな妹を懐柔し……エイミアは学園へ入学する。
そして敵が現れたのでした。
中編くらいになるかなと思っております!
長い沈黙を破り!忘れていたとは内緒だぞ!?
ヒドインが完結しました!わーわー!
(*´-`)……ホメテ……
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
「平民とでも結婚すれば?」と捨てられた令嬢、隣国の王太子に溺愛されてますが?
ゆっこ
恋愛
「……君との婚約は、ここで破棄させてもらう」
その言葉を、私は静かに受け止めた。
今から一時間前。私、セレナ・エヴァレットは、婚約者である王国第一王子リカルド・アルヴェイン殿下に、唐突に婚約破棄を言い渡された。
「急すぎますわね。何か私が問題を起こしましたか?」
「いや、そういうわけではない。ただ、君のような冷たい女性ではなく、もっと人の心を思いやれる優しい女性と生涯を共にしたいと考えただけだ」
そう言って、彼は隣に立つ金髪碧眼の令嬢に視線をやった。
【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」
婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。
ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。
表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723)
【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19
【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+
2021/12 異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過
2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる