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3話「城下町と罵声」
しおりを挟む「アリー、平気なのだ?
死にそうな顔をしているのだ」
魔法で姿を消したフェルが小声で話しかけてきました。
「だ、大丈夫よ。
ちょっとコルセットがきつくて苦しいだけだから……」
昨日はあのあと、お風呂に入れられて身体中をくまなく洗われました。
そのあとは髪を何度もブラッシングされ、ドレスの採寸をされました。
私がベッドに入ったのは深夜でした。
翌日は早朝から叩き起こされ、コルセットでギュウギュウに腰を締められ、急ごしらえで作ったと思われるドレスを着せられました。
「そのドレス……少し派手……というか、
これ以上ないぐらいダサいのだ。
髪型も変なのだ。
お化粧も全然アリーに似合っていないのだ」
ドレスを着たあとは髪を縦ロールにされ、顔にベッタリとおしろいを塗られました。
全ての支度を終えて鏡に自分の姿を写したとき、あまりの酷さに私はめまいを覚えました。
金色のけばけばしいドレスをまとい、髪は古の時代に流行った縦ロール、元の形がわからなくなるほど化粧を施された顔……。
この姿で人前に出なくてはならないなんて……嫁ぐのも楽ではありません。
そうして支度を終えた私を、昨日私を部屋まで迎えに来たメイドが、屋根のない馬車に放り込みました。
なんでも私が嫁入りする姿を、民衆に披露しなくてはいけないそうです。
それが王族のしきたりなのだそうです。
王族は嫁ぐときに、こんなことをしなくてはいけないのですね。
昨日までみすぼらしい格好で過ごしていたので、自分が王族であることを忘れていました。
長年放置していたのに急に引っ張り出して、王族としての努めを果たせとか、王族のしきたりをこなせとか言われても、困惑するばかりです。
こんな派手派手な格好をさせられるのなら、母の古着で嫁いだ方が、ずっといいです。
◇◇◇◇◇
「アリー、顔色が青を通り越して土色になっているのだ」
「街を出たら、どこかで着替えさせてもらいましょう」
馬車の客席には私とフェルだけしか乗っていません。
だからこうしてフェルと気軽に話せています。
御者席とは少し離れているので、フェルの声が聞こえる心配はないでしょう。
「仕方ないわ。
いつもの格好では隣国に嫁げないし、民衆の前にも出れないもの」
「僕はいつものアリーの方が好きなのだ」
「ありがとう、フェル。
私もいつもの格好の方が動きやすくて好きよ」
フェルと話している間に、馬車はお城の広い庭を通り過ぎ、大きな門に近づいていました。
生まれて初めて見る外の世界に、私の胸は少しの不安と、沢山のわくわくとドキドキでいっぱいでした。
馬車はいくつかの門をくぐり、城と街を繋ぐ桟橋を渡り終えました。
「あれが街なのね!」
馬車から見えたのは、私が本でしか知らなかった世界でした。
街には大小沢山の建物が所狭しと並んでいました。
「この街でお母様が若い頃暮らしていたのね」
もしかして、母が働いていたカフェの前も通るかしら?
私がドキドキしながら待っていると、程なくして街の中心地に差し掛かりました。
事前に馬車が通る通達があったのか、沿道には大勢の人が並んでいました。
私は沿道に並んでいる人たちに笑顔で手を振りました。
生前、母が教えてくれました。
王族はパレードのとき、民衆に向かって笑顔で手を振るものだと。
ですが……彼らの反応は喜ばしいものではありませんでした。
「贅沢三昧の姫様は、嫁入りするときのドレスも華美だね!」
「金遣いの荒い王女様は馬車もドレスも豪華だな!」
「金銭感覚の狂った暴力王女は引っ込め!!」
沿道にいる人たちが、私に向かって大きな声で叫んでいます。
贅沢三昧? 金遣いが荒い? 暴力王女??
私にはなんのことかわかりませんでした。
街の皆さんは、私を親の敵でも見るような目で睨みつけてきます。
民衆からの怒りがひしひしと伝わってきます。
「みんな何に怒っているのかしら?
贅沢三昧とか金遣いが荒いとか暴力王女とか、なんのことかしら?」
私は母が亡くなってから八年間、食事も衣服も満足に与えられずに育ちました。
なのに民衆は私がお城で贅沢な暮らしをしていたと思っているみたいです。
母が亡くなってから使用人に放置され、フェルと二人で過ごしたのに、私が誰に暴力を振るったというのかしら?
「フェル、私、街のみんなに嫌われているみたいね」
小声でフェルに話しかけると、彼もこの状況に困惑しているみたいでした。
「何かがおかしいのだ!
僕、ちょっと調べてくるのだ。
すぐ戻るのだ」
そう言ってフェルは馬車を飛び出し、どこかへ飛んでいってしまいました。
フェルは姿を消しているので、民衆にはその姿は見えません。
彼がいなくなり、私は急に心細くなってきました。
フェルがいなくなったあとも、民衆からの暴言は止むことはありません。
彼と二人だから耐えられた暴言も、一人だと堪えるものがあります。
フェル……早く戻ってきて!
私は天に向かって祈りました。
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