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第一章・愚かな王子と不死鳥の葉
第1章2話「お久しぶりです。不死鳥様」
三か月後、不死鳥の山の頂き。
「不死鳥様、お久しぶりです」
「再戦していただきたく、参ったしだい」
私は父と二人で不死鳥の山を訪れていた。
二回目ということもあり一回目より早く山を登れた。
最初の山にいたキマイラやグリフォン辺りを捕まえて、彼らの背に乗って山や荒野や砂漠を越えても良いのだが、それではつまらない。
モンスターを倒してレベルを上げながら進むのも、旅の醍醐味だ。
「おう。そちたちか久しいな。
どうした?
王太子の病が再発でもしたのか?」
「さあ、どうなったんでしょうね?」
「はて?
そちたちは不死鳥の葉が欲しくてここに来たのではないのか?」
「確かに私たちは不死鳥の葉を頂きに参りました。
ですが王太子のために取りに来たわけではありません」
「ほう、この三か月でそちたちに何かあったようだな。
前に来たときより晴れ晴れとした顔をしている。
そちたちに何があったのか気になるな」
「その前に再戦をお願いします。
今回は私一人で戦いますわ」
「娘の次はわしとの再戦をお願いします。
前回は二人がかりで辛勝でした。
このままでは初代勇者であるご先祖様に顔向けできません」
「よかろう。
かかってくるが良い」
いくら時代が変わっても、私とお父様の中に流れる勇者の血は変わらない。
だから家の一族は基本的に脳筋だ。
政治や策略より体を動かしている方が楽しい。
「参った。
ふたりとも腕を上げたな」
私もお父様も一対一で不死鳥に勝つことができた。
「褒美に不死鳥の葉を二枚やろう」
「ありがとうございます」
不死鳥が山頂に生えている不死鳥の木から、不死鳥の葉を二枚採取した。
私は不死鳥から受け取った不死鳥の葉を懐にしまった。
「ところで先程から気になっていたのだが、この三か月の間に、そちたちに何があったのだ?
王太子の病が再発したので、不死鳥の葉を取りに来たのではないのか?」
不死鳥の葉を煎じて飲めばほとんどの病は治る。
しかし極稀に体質や病によっては再発することがある。
その場合、三か月に一度不死鳥の葉を煎じて飲ませる必要がある。
不死鳥の葉を一年も飲ませれば、すべての病は治ると言われている。
しかし不死鳥は、一度の対戦で不死鳥の葉を一枚しかくれない。
つまり最高で四回、不死鳥の山に不死鳥の葉を取りに来る必要がある。
不死鳥の葉を得るためには、キマイラやグリフォンやケルベロスの出る山を五つ越え、バジリスクの住む死の荒野を越え、毒蠍の出現する砂漠を越え、アンデットモンスターが闊歩する毒の沼地を越え、不死鳥の山を半日かけてロッククライミングして、山頂にたどり着いたら全長二十メートルを超える不死鳥を倒さなくてはいけない、しかも最高で四回も。
ニクラス王国でそれができるのは、勇者の血を引く我が家の人間だけだろう。
「王太子には婚約破棄されました。
王太子は幼馴染の公爵令嬢と婚約しました。
王太子は不死鳥の葉を取ってきた私より、病の王太子の手を握っていただけの公爵令嬢の方が良いのですって」
「愚かな。
不死鳥の葉を手に入れるのがどれほど大変なことか、王太子は知らんのか?」
「王太子は、不死鳥の葉など新米の兵士でも一週間で取ってこれると信じておりますわ」
「そやつはとてつもない阿呆だな」
「ですがそのおかげで王太子と婚約破棄できました。
元々私は王太子を好きだったわけでも、王太子妃になりたかったわけでもありませんから」
「そうなのか?」
「亡き王妃様に頼まれたので仕方なく結んだ婚約です」
「おかげで王太子との婚約が破棄できて、すっきりしております。
陛下から百年ほど休暇も貰えましたし」
本当は王太子と結婚することに一つだけメリットがあった。
「リシェル、休暇は百年ではない百万年だ」
「あらお父様、陛下には百年と説明していませんでした?」
「そのつもりだったのだが、うっかり数字を書き間違えてしまってな。
陛下も契約書をよく読んでいれば、数字の間違いに気づいたであろうに」
王太子と結婚するたった一つのメリットも、父の機転のおかげでなくなったわ。
「あら陛下もお父様もうっかりさんですわね」
「本当にな」
私は父と一緒に声を上げて笑った。
我が家には、かつて世界を征服した魔王を倒した勇者の血が流れている。
当時の国王は魔王を倒した勇者が国王に歯向かわないように、勇者の一族に呪いをかけた。
「王家の一大事には城に駆けつけ、国王のために尽くすこと」
旅立ちの時、国王から渡された鋼の剣と千ギルと引き換えにするには重すぎる対価だった。
初代勇者は貧しい農家出身で、難しい字が読めなかった。
だから国王から差し出された書類に、なんの疑いも持たずサインしてしまった。
以来、当家は王家の飼い犬状態。
しかし三百年も経過すると、王家はそんな大事なことを忘れてしまったらしい。
不死鳥の葉一枚と引き換えに百年、いや百万年も私達に休暇をくださるなんて、現在の国王陛下は太っ腹だ。
私が王太子と結婚するメリットは一つだけ。王家の血と交わることで、初代勇者にかけられた呪いを解くことができる。
王妃様はそれがわかっていた。わかっていて私を王太子の婚約者に選んだ。
王妃様は私達を服従させるメリットより、勇者の一族の血を王家に取り込んで、王族を強化することを望んだのだ。
それだけ今のニクラス王国には、口先だけ達者なへなちょこが多い。王妃様は国の行く末を心配して決断したのだろう。
王妃様のその深い考えを、浅はかな夫と息子が台無しにしたのですが。
父は王太子の私への言動を見て、呪いを解くために私が犠牲になる必要はないと言ってくれた。
とにかく王太子に不死鳥の葉を届けたことで、王妃様への義理は果たした。
王太子があの後どうなろうと、私の知った事ではない。
「今回私たちがここに来た目的は、不死鳥の葉を手に入れることです。
ですがそれはニクラス王家の為にではありませんわ」
「婚約破棄の慰謝料として、王家からフリーデル帝国と地続きになれる土地を譲渡されたので、フリーデル帝国の傘下に入ろうと思っている」
「百万年後にはまたニクラス王家の配下になり、王家に忠誠を誓おうと思っていますわ」
もっとも、百万年後までニクラス王家が存続していればの話ですが。
ニクラス王国の西にある魔の森のモンスターの間引きは、当家が行っていた。
私たちがいなくなったあと、国王は誰に魔の森のモンスターの間引きを依頼したのかしら?
魔の森に一番近いハイネ公爵家かしら?
あの家の人間は頭でっかちで危険なことが嫌いですが、魔の森のモンスター退治なんて面倒なことを請け負うのかしら?
私たちにはもう関係ない話ですけど。
「それはニクラス王も愚かな真似をしたな」
「私は感謝しております。
お陰で初恋の人……フリーデル帝国の皇帝と結婚できますもの」
「皇帝の血筋に呪われた我が家の血を入れたくなくて、一度はお断りした縁談だ。
しかし当家は王家から百万年もの休暇を頂いた。
だから帝国との縁談を受けることにしたのだよ」
お飾りの妃ならともかく、皇帝に愛され子を設けたら、その子も勇者の呪いを受け継ぐことになる。
実質、フリーデル帝国がニクラス王国の配下に入るようなものだ。
だから過去の私は、初恋相手からのプロポーズを受けられなかった。
一時は、私の代でゼーマン家の血筋を絶とうと思っていた。
だが陛下のおかげで百万年もの休暇を得られた。
私は好きな人と結婚して子供を作ることができる。
陛下には心から感謝している。
「ではこの不死鳥の葉は誰に使うのだ?
差し支えがなければ教えてほしい」
「不死鳥の葉は、帝国の筆頭公爵ツァベル公の孫娘、ヨハナ様の為に使いますわ」
「何故だ?」
「ツァベル公爵が、私と皇帝陛下の結婚に反対しているからです。
なので申し訳ないとは思ったのですが、ツァベル公爵の孫娘の病を利用させていただきました。
ツァベル公爵はヨハナ様の病を治せば、私と皇帝陛下の結婚を認めてくださると約束してくださいましたわ。
ですからこうして、不死鳥の葉を取りに来ましたの。
約束が破られる危険もゼロではありません。
そのときは……」
「ツァベル公爵には、力づくで娘と皇帝の結婚を認めさせるしかない」
お父様が怖い顔でそうおっしゃった。
ツァベル公爵が、アルド殿下のような恩知らずのおバカさんでないと良いのですが。
下手をするとツァベル公爵領が、父によって更地に変えられてしまいますわ。
それでは公爵領で暮らす民に申し訳ありません。
「ふぅむ、それではそちたちが不死鳥の葉を取りに来るのはあと二回ということか……我と渡り合える人間はそうおらんので寂しくなるな」
「そのことなら心配なさらないで、病に苦しむ者はたくさんおります。
私たちは帝国では新参者の貴族。
味方を増やすための交渉の材料は、多いに越したことはありませんから」
「いつか孫を連れてここに来よう。
そなたのような好敵手はそういない。
会えなくなったらわしも寂しい」
「それはよかった。
これで我も退屈を持て余さなくて済みそうだ」
不死鳥山での一時は、常人離れした力を持つ私たちにはとても楽しいものだった。
ここなら思いっきり戦えるし、誰かに見られる心配もない。
誰かに戦いを見られて「化け物」と言われ、恐れられる心配がないというのは、気持ち的にとても楽だ。
魔の森のモンスターを間引きするときは、森を破壊しすぎないように、誰かに見られても怖がられないように、手加減しながら戦わなくてはいけないので疲れた。
さて、不死鳥の葉を手に入れたことですし、愛する人の待つ帝国に帰ることにしましょう。
その頃、ニクラス王国では王太子の病が再発していた。
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