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第一章・愚かな王子と不死鳥の葉
第1章3話「僕の側から皆が離れて行った」王太子視点・ざまぁ
ニクラス王国では王太子アルドと、ハイネ公爵家の長女クラーラの婚約披露パーティーが行われていた。
――王太子視点――
「ゼーマン辺境伯とリシェルは来ていないのか?
僕とクラーラの幸せな姿を見せつけ、奴らの悪事を国中の貴族の前で暴露してやるつもりだったのに。
ハイネ公爵家の兵士なら新米の兵士でも一週間もあれば取って来れる不死鳥の葉を、
キマイラやグリフォンやケルベロスの出る山を五つ越え、
バジリスクの住む死の荒野を越え、
毒蠍の出現する砂漠を越え、
アンデットモンスターが闊歩する毒の沼地を越え、
不死鳥の山を半日ロッククライミングして山頂にたどり着き、
山頂にいる不死鳥とバトルして、不死鳥が守っていた不死鳥の木から葉を取ってきたなど、嘘をつくにも程がある。
父上も、そうは思いませんか?」
「まあそう言うな。
不死鳥の葉を取って来てくれたのは、ゼーマン辺境伯親子なのは事実なのだから。
それに今日はめでたい日だ。
恨み言を忘れ、パーティを楽しもうではないか」
「父上は人が良すぎます」
だからあんな田舎者の能無しがつけあがるんだ。
俺が国王になった暁にはゼーマン辺境伯家なんて潰してやる。
「クラーラ、今日のドレスも綺麗だよ。
深紅色が君にとっても似合ってる」
「ありがとうございます、アルド様。
アルド様のスカイブルーのジュストコールも素敵です。
アルド様によくお似合いですわ」
僕はクラーラの瞳の色と同じ、青いジュストコールを身にまとっている。
クラーラは僕の髪と瞳の色と同じ、深紅のドレスとルビーのアクセサリーを身につけている。
クラーラはとても美しく聡明だ。僕の隣に立つのは彼女のような者がふさわしい。
カラスのような真っ黒な髪と目をした、筋肉を鍛えることしか能のない、山猿リシェルとは大違いだ。
亡き母上も、なぜあんな山猿を僕の婚約者に選んだのだろうか?
母親のセンスを疑うよ。
「曲が始まった。
一緒に踊ろうクラーラ」
「はい、殿下」
今日のパーティの主役であり、王族の僕たちが踊らないと誰も踊れない。
僕はクラーラの手を取り、広間の中奥に移動した。
ダンスをするために、クラーラを抱き寄せたそのとき……。
「ぐぁぁぁぁっ……!
ゲホッ、ゲホゲホゲホッ……!」
急に咳がこみ上げてきて、口に手を立てる。
口からこみ上げてくるものがあり吐き出したら、吐しゃした物が真っ赤で、それが血であることに気づいた。
僕の身につけていた白い手袋と、青いジュストコールが血の色に染まる。
激しいめまいに襲われ、僕は床に膝をついた。
「アルド様!」
真っ青な顔のクラーラが、僕を見下ろしている。
「しっかりしろアルド!
主治医を呼べ!!」
父上が駆け寄ってきて、僕を床に寝かせた。
「アルド様、しっかり」
クラーラが僕の横に座り、僕の手を握りしめる。
ホールの隅に待機していたらしい主治医が、駆けつけてきた。
主治医は僕の脈を取り、触診し、青い顔で首を横に振った。
「……どうやら殿下の病が再発したようです」
「それはどういうことだ!?
不死鳥の葉を煎じて含むことで息子の病は治ったのではなかったのか!?」
「それが……陛下から渡された処方箋の裏側に虫眼鏡で見なければ読めないほど小さな文字で、
『極稀に不死鳥の葉を処方しても病が完治せず、再発する者がおる。その時は再び不死鳥の葉を取りに来るのが良い。不死鳥の葉を一年以内に四度煎じて飲めば、ありとあらゆる病は完治するであろう』
……と記されておりました」
「不死鳥の葉を四度だと……!」
主治医の話を聞いた父上の顔が青を通り越して紫になった。
「取り敢えず残しておいた不死鳥の葉のかけらがあります。
これを飲んでください」
主治医に不死鳥の葉の薬を飲まされ、僕はなんとか体を起こすことができた。
「父上、何を案ずることがあるのですか?
不死鳥の葉はハイネ公爵家の兵士なら新米の兵士でも一週間もあれば取って来れる場所にあるのでしょう?
ハイネ公爵家の者に命じて取りに行かせればいい。
いや公爵家の手の者を煩わせるまでもない。
王家の兵士に不死鳥の葉を取りに行かせれば良いではありませんか」
この時の僕は、不死鳥の葉など簡単に取ってこれるものだと思い込んでいた。
「そうでしょう父上?」
「ふ、不死鳥の葉は……そんなに簡単に取ってこれるものではない」
父上の声は震えていた。
「えっ?」
「すまんアルドよ。
お前をクラーラ嬢と結婚させたくて、余はクラーラ嬢がお前についた嘘を否定しなかった」
「嘘……?
どういうことだ?
クラーラ、君は僕に嘘をついたのか?
君は僕に不死鳥の葉などハイネ公爵家の兵士なら、新米の兵士でも一週間もあれば取ってこれると言ったじゃないか!
あの話は嘘だったのか!?」
僕の手を握りしめていたクラーラが僕から手を離し、視線を逸した。
彼女の顔は真っ青で、体は小刻みに震えていた。
「不死鳥の葉はキマイラやグリフォンやケルベロスの出る山を五つ越え、
バジリスクの住む死の荒野を越え、
毒蠍の出現する砂漠を越え、
アンデットモンスターが闊歩する毒の沼地を越えた先にある不死鳥の山の頂きにある。
山頂にいる不死鳥とバトルして勝利しなければ入手できない。
不死鳥の葉を一枚手に入れるためにゼーマン辺境伯家の者でも一か月かかった。
城の兵士や騎士団では不死鳥の葉を手に入れるのに何か月かかるか分からん。
いや兵士や騎士団では、不死鳥のいる山に辿り着くことすら不可能だろう。
もし万が一不死鳥のいる山にたどり着いたとしても、不死鳥とバトルして勝つなど不可能だ。
そんなことができる強者は、ゼーマン辺境伯と娘のリシェル嬢しかおらん」
「そんな、そんな事って……!
クラーラ、お前僕に嘘ついたのか!」
愛していたクラーラが、僕に嘘をついていたことがショックだった。
それもこんな大嘘をついていたなんて!
「ごめんなさいアルド様、私どうしてもあなたと結婚したかったの……」
クラーラは顔に手を当ててボロボロと泣き始めた。
泣きたいのはこっちだ!
「父上も父上です!
クラーラが言ったことが嘘だと知りながら、なぜ彼女を責めなかったのですか?
おかげで僕はリシェルを失ってしまった!」
こんなことならリシェルと婚約破棄しなければよかった!
そうすれば不死鳥の葉を三枚でも四枚でも手に入れ、僕は病を完全に治すことができたのに!
「すまん息子よ。
そなたがクラーラ嬢を好いていることは知っていた。
親バカだと思われるかもしれないが、余はそなたの初恋を叶えたかったのだ。
そなたを蝕む病は不死鳥の葉で完治したと思っていた。
よもや再発するとは……」
父上は額に手を当て、がっくりとうなだれた。
父上の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「父上、泣いている場合ではありません。
今すぐゼーマン辺境伯とリシェルを城に呼んでください。
奴らにもう一度不死鳥の葉を取りに行かせるのです。
リシェルは僕に惚れています。
不死鳥の葉を取ってきたら、もう一度僕の婚約者にしてやるといえば、喜んで不死鳥の葉を取りに行くことでしょう!」
そうだ、まだ絶望するのは早い!
リシェルは僕に惚れているんだ!
あの脳筋を利用しない手はない!
「すまんがそれはできぬ」
「なぜですか?
ゼーマン辺境伯は父上の臣下でしょう?
臣下が主の命令を断ることはできないはずです」
ゼーマン境伯家の者が強いのは三百年前、当時世界を征服していた魔王を倒した勇者の血を引いているからだ。
歴史の授業は好きじゃないからうろ覚えだけど、確かあの一族は国王の命令に逆らえなかったはず。
「すまない。
ゼーマン辺境伯家には不死鳥の葉を取ってきた褒美と、この度の婚約破棄の慰謝料として、
『今後百年、ゼーマン辺境伯家の者は一切登城しなくても許される。
今後百年、ゼーマン辺境伯家の者はいかなる王命も断ることできる』
と書かれた契約書にサインして渡してしまった」
父親の言葉を聞いて、俺は目の前が真っ白になった。
「父上は愚かです!
相手にとって都合のよいことだけが書かれた書類になぜサインしたのですか……!」
「すまない」
ボロボロと涙を流す父を見て、亡き母が何故僕とゼーマン辺境伯家のリシェルを結婚させようとしていたのか、ようやく理解できた。
父があまりにも頼りないから、母はゼーマン辺境伯家の力を王家に取り込もうとしていたのだ。
王族とゼーマン辺境伯家の者が結婚すれば、王家は勇者の一族を服従させるメリットを失う。
その代わり王家に勇者の血筋を取り入れ、王族を強化することができる。
母上はメリットとデメリットを天秤にかけ、ゼーマン辺境伯を王家に取り込む道を選んだ。
しかし愚かな僕がリシェルとの婚約を破棄し、僕に輪をかけて愚かな父がゼーマン辺境伯家に自由を与えてしまった。
王家は父の代で終わりかもしれない。
そんな予感がした。
しかし不幸はこれだけでは終わらなかった。
その時、息を切らせた騎士団長がパーティ会場に入ってきた。
「陛下、大変です!
魔の森のモンスターが、近隣の町を襲い暴れています!」
騎士団長は最悪の事態を告げた。
「一体どうしてこうなった!
魔の森のモンスター退治はゼーマン辺境伯家に任せていただろう!」
父上は涙を拭いながら騎士団長に問いただした。
「それがゼーマン辺境伯家は王家から褒賞として与えられた土地を手土産に、フリーデル帝国の傘下に入ったと連絡が入りました!」
「な、なんだと……!」
父上の顔は紫を通り越してもはや真っ白だった。
「ゼーマン辺境伯家の者以外で、魔の森のモンスターとまともに戦える者はいません!」
騎士団長の声はパーティ会場によく響いた。
この国の貴族は、ゼーマン辺境伯を脳筋だの田舎者だと言って馬鹿にしていた。
しかし彼らがいなくなって、ようやく彼らの偉大さに気づいた。
そういう僕も、今になって彼らの存在の大きさを嫌と言うほど痛感している。
「ハイネ公爵、魔の森に一番近いのは公爵領だ!
そなたがこの問題を解決してくれ!」
父の命令を受け、ハイネ公爵が青ざめる。
「恐れながら……!
我が領地は文官ばかりで、兵士はそんなに強くありません!
他の者に任せた方が……」
「では誰が魔の森のモンスター退治にあたるのだ!?
ザックス侯爵家か?
それともシュトルツ伯爵家か?
それともノンネ伯爵家か?」
父親に名前を呼ばれた者は、父上から視線を逸らし二歩後ろに下がった。
誰もモンスター退治という、損な役回りを請け負いたくないのだ。
「ヴィレ子爵家か?
ジフ子爵家か?
マイラ男爵家か?」
父に名前を呼ばれた者は、みな父から視線を逸らした。
「誰か答えよ!!」
しかし父の問いに答える者はいない。
聡い者からそっとパーティ会場を後にする。
気がつけば、パーティ会場には僕と父だけが残されていた。
王家が頼りにならないとわかったら、帝国の傘下に降るしかない。
皆荷物をまとめて領地に帰ったのだ。
あんなに愛していたクラーラも、僕を次の王だと囃し立て祭り上げていた貴族も、僕の病が治ったと宣言し王家から多額の報奨金をせしめた主治医も、みんないなくなっていた。
「ゲホッゲホッゲホッゲホッ……!」
主治医に飲まされた不死鳥の葉の効果が切れ、また咳と動悸とめまいがひどくなってきた。
僕は自室に移動する気力もなくその場に横になった。
「すまん息子よ。
頼りにならない父親ですまない」
僕が最後に聞いたのは父上のすすり泣く声だった。
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