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5話「悪魔の本・グロル」
しおりを挟む二人が図書室の扉を閉める音を確認し、力が抜け私はその場に崩れ落ちた。
「あんまりよ……あんまりだわ……!」
私の目から涙がこぼれ落ち、床に染みを作る。
今まで泣き言一つ言わず厳しい王太子妃教育に耐えてきた、王太子妃教育と学園の勉強の合間に生徒会の仕事と王太子の仕事も完璧にこなしてきた……!
王太子殿下は私をさげすんでいた、醜い私を心底憎んでいた、罠にはめて殺そうとしていた。
エマは一年先に生まれただけで王太子の婚約者になれた私を憎んでいた、私の前では笑顔を作り私を心配するような優しい言葉を吐きながら、心の中では醜い顔をした私をあざ笑っていた。
両親がエマだけ可愛がっていても、私はエマを恨んだことなんてなかったのに……!
王太子殿下が勉強嫌いの怠け者のでも、私はそれを咎めたことなど一度もなかった……!
私がしっかりしていれば王太子殿下を支えていけると思い、厳しい王太子妃教育に耐えてきた……なのに、それなのに……!
いくら私が邪魔だがらって散々利用した揚げ句、冤罪を着せて処刑しようとするなんてあんまりだわ!!
憎い、憎い、あの二人が憎い……!!
私の恋心を利用し仕事を押し付けて手柄だけ横取りしてきた王太子も、表では姉思いの優しい妹を演じながら影では私の婚約者と浮気していた妹も、妹だけ可愛がってきた両親も…………全てが憎いっっ!!
どす黒い感情が腹の底から湧き上がり、全身に広がっていく。
『全てを恨む憎悪の感情は実に心地よいな……こんな醜い気を感じたのは四十年ぶりだろうか』
禍々しい声が頭の中に響く……。
「誰……?」
恐ろしい物が近くにいることを肌で感じる。
『ここだ』
声に導かれるように 顔を上げると……目の前に一冊の本があった。
暗くおぞましいオーラを放つ一冊の本が宙に浮いていた。
漆黒の表紙に血のように真っ赤な色で古代語の文字が書かれている。
禍々しいほどの魔力が本から溢れている。魔力の弱い人間なら魔力に飲まれ気を失っていることだろう。
『我が名は呪いの魔本グロル、そなたイザベルか? いや今はフリーダと名乗っていたな』
フリーダという名前には聞き覚えがある、祖母の名前だ、でもイザベルという名前に心当たりはない、イザベルとはいったい誰の事なのかしら?
「フ、フリーダは私の祖母です、グロル様は祖母のことをご存知なのですか?」
人智を超えた存在を初めは恐ろしく感じた、だが私は明日には王太子にはめられて処刑される身。死が迫っている人間に怖いものなどない、恐怖は徐々に薄れていき、ついに好奇心が恐怖に勝った。
それよりも悪魔の本が言ったフリーダが祖母のことなら、祖母は悪魔の本と何らかの取引したことになるわね。 両親に毛虫のごとく嫌われている祖母は悪魔とどんな取引をしたのかしら?
『そうかそなたフリーダの孫か、フリーダはどうした?』
「亡くなりました、十八年前に」
『そうか人が逝くのは早いな、あれほど淀みきった魂は他にない、惜しい人物を亡くした』
「もしよろしければグロル様と祖母の関係を教えていただけますか? 祖母はいったいあなた様とどのような取引をしたのですか?」
『その前にお前の名を知りたい、名乗れ』
「申し遅れました、私の名はアダリズ、アダリズ・ボーゲンと申します」
悪魔に本名を教えるべきではないと思ったが、己の意志とは関係なく口から言葉が出ていた。己の意志とは関係なく本名を言わされた、これが悪魔の力なの?
『いいだろう話してやる、フリーダいやイザベル・シムソンの半生を……』
悪魔の本の語った内容は衝撃的なものだった。
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