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一章
9話「見つけた!」
しおりを挟む目を開けたとき、視界に木々が飛び込んできた。
乗り物の外に出るとやけに周りが騒々しかった。
森……いやそれにしては、森林特有の清々しい香りがしない。
なんというか街のドブのような匂いが、そこはかとなく漂っている。
「ここは……?」
「母さんが言ってた公園って場所じゃないかな。
向こうに明かりが見えるよ、行ってみよう父さん!」
乗り物を木々の中に隠し、周囲を観察する。
木々の合間を抜けると、眩しいほどの光が飛び込んできた。
空に届きそうな大きな四角い箱……リコがビルって言ってたかな? が沢山並んでいた。
馬車の代わりに走る四角い乗り物が道を走っていて、人々は手に木の板のような薄っぺらい物を持って独り言を呟いている。
アビーが作った街灯より、明るい光が無数にある。
どうやら街道に出たらしい。
見たこともない奇天烈な服を着た人たちが、何かに追われるように早足で歩いている。
木に無駄に電球がついていたり、ひときわ大きな木に星型の飾りがついていたりするが、あれはいったいなんなのだろう?
時々真っ赤な服を着た白いひげを生やした男が、大きな白い袋を背負って歩いていく。この世界で流行っているファッションだろうか?
そのうちの一人、立派な白髭を蓄えたおじいさんが、こちらに向かって手を振り片目をつぶっていった。
俺は思わず手を振り返してしまった。
「これがリコの住んでいる世界……?」
それにしても人が多い。
村の祭りにだってこんなに人が集まったりしないぞ。
リコの住んでいる街の名前を聞いておくべきだった。
日本……としか聞いてない。
それは街の名前ではなく、おそらくリコが住んでいる国の名前だ。
こんなにたくさんの人の中からリコを見つけるのは、砂漠に落ちた針を探すようなものだろう。
見つけられるのだろうか? いやまだこの世界に来たばかりだ! リコを見つけるまで諦める訳にはいかない!
アビーの為にも、絶対にリコを見つけ出す!
「父さん!
母さんを見つけたよ!」
アビーが俺の服を引っ張る。
「えっ? もう?!」
こんなに早く見つかると思っていなかったから、まだ心の準備が出来てないのだが。
息子の手を引かれ、連れて行かれた先に……懐かしい顔があった。
サラサラと流れる烏の濡れ羽色の髪、黒檀のような瞳、年よりも幼く見える顔、小柄で華奢な体。
厚手のコートに帽子とマフラーを身に着けているが、四年経過しても全然変わっていない。
「リコ……」
「母さん……!」
リコの瞳が驚きに見開かれる。
突然見知らぬ親子が目の前に現れて、「母さん」なんて言われたら誰だって困惑する。
「あの、ごめん。
初対面でこんなこと言われても面食らうと思いますが……俺たちはその決してあやしい者では……!」
俺たちの世界の服は、リコがいる世界で何百年か昔に、異国で着られていた服に似ているらしいから……。
なので俺もアビーもそんなに変な格好をしていない……と思いたい。
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