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二章
19話「ケルベロスと雷竜」
しおりを挟む一か月後、今度こそ雷竜を呼び出そうと再び庭に魔法陣を描き召喚の儀式を行う。
今度は漆黒の髪に鋭い牙を持つ巨大な犬……ケルベロスが現れた。
ケルベロスと言ったら冥界の番犬じゃないか!
大変な生き物を呼び出してしまった!
なんとかこちらの言うことを聞かせないと大変なことになる……!
「アビーご飯だぞ。
今日のご飯はハチミツたっぷりのホットケーキだ。
庭で食べよう」
運悪く父さんが家から出てきてしまった!
「父さん逃げて!」
僕が叫んだ時には、ケルベロスは父さんに向かって走っていた。
どうしよう……! 父さんが死んじゃう!
……と思ったらケルベロスは大型犬ぐらいの大きさに縮み、父さんが持っていたホットケーキに飛びついていた。
「見ないけどどこの犬だろう?
お腹が空いてるみたいだな?
お代わり食べるか?」
「ワン!」
ケルベロスが父さんに向かって尻尾を振っている。
ご飯を食べ終わったケルベロスは、庭で父さんとボール遊びをしていた。
父さんと庭でボール遊びするのは僕だけだったのに……。
これも召喚に伴う代償なのかな?
そのことはひとまずおいといて、神話に出てくる冥界の番犬ってこんな人懐っこい犬だったのかな?
もしかして父さんにも特殊スキルがあるのかも?
父さんの特殊スキルはおそらく、伝説上の生き物を手懐ける能力……。
父さんはよく、
「元聖女のリコや優秀なアビーに比べたら、俺はなんか能力もない平凡な木こりだよ」
と言っていたがとんでもない。
僕に言わせれば父さんも十分凄いよ。
すっかり父さんに懐いたケルベロスは家に住むことになった。
先住のケットシーがケルベロスをいじめることもなく、二匹(?)はとても仲良く暮らしている。
ケルベロスは結界を張るのが得意で、家の周りに結界を張ってくれた。
ケルベロスへの報酬はホットケーキとチーズでいいらしい。
僕が呼び出した二匹の眷属は二か月もする頃には、家にすっかり馴染んでいた。
☆
ケルベロスを召喚した一か月後……僕は懲りずにまた召喚の儀式を行っている。
母さんのいる世界にいるにはどうしても雷竜の力が必要なんだ!
庭に今までよりも大きな魔法陣を描く。
今度こそ雷竜を呼び出して見せる!
召喚の呪文を唱え終えると魔法陣の中に黄色い鱗を持つ美しい竜がいた!
やった! ついに雷竜の呼び出しに成功したぞ!
ケルベロスのように凶暴だったらどうしようかと思ったが、雷竜は大人しい生き物だった。
……というか彼は一日のほとんど寝て過ごしている。
僕は地下室に雷竜の寝床を作り、彼の寝てる間に電気をもらうことにした。
初めて、父さんがいなくても召喚した生き物を従えることができた!
だけど雷竜が起きてるときは、僕よりも父さんに尻尾を振ってることが多いので、雷竜が僕より父さんに懐いているのは確かだ。
悲しくないし、父さんに嫉妬なんかしてないからね!
余談だが雷竜を呼び出すとき、雷竜の手下と思われるガーゴイルも一緒にくっついてきた。
……彼はすぐにどこかに飛んで行ってしまったので、父さんには紹介できていない。
雷竜曰く「ガーゴイルは人に危害を加える生き物ではない」そうなので、放っておいても大丈夫だろう。
ガーゴイルは時々帰ってきては、機械の部品に使えそうな物を置いていってくれる。
彼はすぐに飛び去ってしまうから、父さんには紹介できずにいる。
眷属たちにはそれとなくガーゴイルのことを話しておいた。
僕のいないときにガーゴイルが現れて、ケットシーやケルベロスと喧嘩になっても困るからね。
ガーゴイルのおかげで洗濯機、乾燥機、電気ポット、温度を感知して明かりがつく街灯などを創ることができた。
電気は雷竜が提供してくれた。
ガーゴイルが煉瓦を沢山持ってきてくれたので、父さんが歩きやすいように山道を煉瓦で舗装した。
ついでに父さんの帰りが遅くなっても、安全に帰宅できるように、温度を感知して明かりがつく街灯を設置しておいた。
ケルベロスが結界で隠してくれているから、煉瓦で舗装された道や、温度を感知して明かりがつく街灯が誰かに見られる心配はない。
ガーゴイルがどこから煉瓦を持ってきたのかは、聞かないでおく。
かなり上等な煉瓦だったから、どこかのお屋敷に使われていたものだと思う。
もしかして王宮の壁に使われている煉瓦だったりして? まさかね。
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