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二章
25話「ご主人様は天才少年」
しおりを挟むこの家にいて分かった事がいくつかある。
ご主人様が稀代の天才少年であること。
彼はおそらくあらゆる言語を理解できるスキルと、速読のスキルと、一度読んだ本の内容を完璧に覚えてしまうスキルと、あらゆる魔法陣を使用できる特殊スキルを持っている。
そしてご主人様の父親であるコルト様は、あらゆる神話の生き物を従える特殊なスキルを持っている。
なぜこのような特殊スキル持ちの天才親子が、人里離れた山奥でひっそりと暮らしているのか、最初はとても不思議だった。
ご主人様ほどの才能があれば街で暮らして大金を稼ぐことや、王族に仕えることも夢ではないだろうに。
しかしこの親子が山奥で暮らすにはそれなりの理由があった。
ご主人様の母親は異世界から召喚された聖女だった。
御母堂様は王族にいいようにこき使われ、ようが済んだら不細工な五十過ぎの辺境伯に売られそうになったそうだ。
御母堂様はそれが嫌で王宮を抜け出した。
御母堂様は、王族から逃げている途中でコルト様に出会い恋に落ちた。
彼らが人目を避けるように山奥でひっそりと暮らしている理由にも合点がいった。
元聖女と神話の生き物を従える能力を持った木こり、この二人の間に生まれたのがご主人様だ。
この二人から生まれたご主人様に、特殊なスキルがいくつもあっても不思議ではない。
☆
ご主人様は親子三人で慎ましやかだが幸せに暮らしていた。
しかしご主人様が三歳になったある日、自称神が三人の前に現れた。
ご主人様の母親であるリコ様は、自称神の手によって元の世界に連れ去られてしまった。
この地方を司る神の噂は聞いたことがある。
創造神の五番目の息子で名前はヴェルター。
奴は兄弟の中で一番見目が良く、末っ子であったため母親に甘やかされて育った。
奴を端的に言い表せば、女遊びと贅沢な暮らしが好きな仕事嫌いのクズだ。
奴にも浄化の力は備わっている。
極度の仕事嫌いの奴のことだ、自分で国中の瘴気を浄化して回るのがめんどくさかったのだろう。
これは私の推敲だが、奴は瘴気の件で王族から助けを求められても瘴気の浄化を行わなかったのだろう。
奴は王族に異世界から聖女を召喚するように助言した。聖女に仕事を押し付け、自分が楽をするために。
欲深い奴のことだ。聖女の召喚に手を貸した見返りとして、王族に高価な供物を要求したはず。
供物は美女と金銀財宝といったところか?
奴にとって瘴気がこの世界に広がるのは、決して悪いことではないのだろう。
瘴気が発生する度に奴は王族に恩が売れるのだからな。
前回召喚された哀れな聖女が、ご主人様のご母堂であるリコ様だった。
ヴェルターめ、聖女に仕事を丸投げにしたのならそのまま放っておけば良いものを……。
奴はリコ様を召喚した何年後かに彼女のことを何らかの理由で思い出し、状況の確認もせずに、リコ様の記憶を消し彼女を元の世界に戻した。
奴はご主人様とコルト様のもとからリコ様を奪っ大罪人。
奴にはそれなりの罰が必要だ。
後で創造神に苦情の手紙を送っておくことにしよう。
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