26 / 37
二章
26話「ケルベロスと雷竜」
しおりを挟むご主人様は私を呼び出した後も、召喚の儀式を繰り返していた。
ご主人様のお目当ては雷竜らしい。
眠りこけてばかりいる電撃を放つしか能がない黄色い竜と間違えられて召喚されたのかと思うと、少しおもしろくない。
しかしそんなことは、コルト様に喉を撫でさせてもらうとどうでもよくなってしまう。
ご主人様は、私を呼び出した一か月後にケルベロスを召喚した。
ケルベロスはコルト様によくなつき、コルト様が作ったホットケーキ美味しそうに食べていた。
冥界の番犬を手懐けるとはさすがコルト様。
庭でコルト様とボール遊びをしているケルベロスは、その辺の犬とあまり変わらなかった。
ケルベロスは元の姿は巨大な犬だが、本来の姿では家の中に入れないので普段は大型犬ぐらいの大きさを保っている。
コルト様とボール遊びをするケルベロスを、ご主人様が羨ましそうに眺めている。
ご主人様のそんなお姿を見ていると、胸が切なくなる。
ご主人様は本来なら遊びたい盛りのお年頃。
ご主人様は遊びたい気持ちを抑え、リコ様を迎えに行くための研究に日夜励まれている。
さすかしお辛いことだろう。
ご主人様を癒すためにチョコレートケーキを作った。
そのケーキをご主人様に差し上げる前にケルベロスに食べられた時は、ケットシー族を招集し、ケルベロス族に戦争を仕掛けようかと思った。
コルト様の仲裁がなかったら、ケットシー族とケルベロス族の戦争が勃発するところだった。
ケルベロスを招集してから一か月が過ぎたある日、ご主人様が召喚の儀式を始めた。
そしてついに雷竜を呼び出すことに成功した。
雷竜と一緒にガーゴイルもくっついて来たが、奴はどこかに飛んで行ってしまった。
雷竜は基本的に寝てばかりいる。
ガーゴイルは時々帰って来てはガラク……何かの部品のような物を置いていく。
寝てばかりいる雷竜と、どこかを飛び回っているガーゴイル。
正反対のように見えて意外といいコンビなのかもしれない。
☆
雷竜から電気を、ガーゴイルから様々な部品を得られるようになったご主人様の研究は、飛躍的な速度で進んだ。
洗濯機、乾燥機、電気ポット、温度を感知して明かりがつく街灯などはご主人様が造られたものの一部だ。
どれもこの世界では見たこともないものばかりだった。
これらの物はリコ様のいた世界では、どこの家庭にもあり普通に使われていたらしい。
リコ様が住まわれていた世界は、かなり文明が進んでいたようだ。
このようなものがどこの家庭にもあり、日常的に使われている世界……私ごときではとても想像できない。
しかしここにきてご主人様の研究の手が止まった。
どうやらリコ様のいる世界に渡るための資料が不足しているらしい。
いかに天才でも資料不足では本来の力を発揮できない。
どこからか資料を調達してこなければ!
しかしどこに行けば異世界に渡る資料があるのか?
そういえば、王族は異世界から聖女を召喚していたな。
神の手助けがあったとはいえ独学で出来ることではない。
王宮に行けば、異世界召喚にまつわるそれなりの書物があるはずだ。
異世界から人を呼び出すのと、自らが異世界に行くのでは多少勝手は違うかもしれないが、何かの役には立つだろう。
そこで私はケットシーとともに王宮に乗り込み、門外不出の禁書を盗み出すことにした。
新入りの雷竜にばかりいい格好させておくわけにはいかない。
王族の図書館には結果が張られていたが、人間の施した結界の解除など、結界のプロであるケルベロスの手にかかれば造作もないこと。
結界を破った私たちは図書館の立ち入り禁止エリアに侵入し、人間たちに気取られることなく異世界召喚について記された禁書を持ち出すことに成功した。
ご主人様は我々が禁書を盗み出してきたことに、初めは驚いていた。
しかしすぐに「後で返せばいいか」とおっしゃられた。
ご主人様は頭の回転だけでなく気持ちの切り替えも早い。
御主人様は我々が持ち出した禁書から得た知識を元に、研究を重ね、次元を超える機械の開発に取り組まれた。
ご主人様の試行錯誤の末、ついに次元を超える機械は完成した。
リコ様が自称神により異世界に連れ去られてから、四年の月日が経過していた。
異世界には神話の生き物はいないそうなので、私とケルベロスと雷竜はお留守番となった。
ケルベロスと雷竜はコルト様に抱きつき、コルト様のお顔を舐め別れを惜しんでいる。
永遠の別れになるわけでもないのに、みっともない。
私もコルト様に抱っこされたいとか、コルト様に頭を撫でられたいとか、ケルベロスと雷竜だけズルいとか、そんな気持ちから言っているわけではない。
理知的な私は本能の赴くままにコルト様に抱きつき、コルト様のお顔を舐め、彼を困らせるわけにはいかないのだ。
それにご主人様を一人にするわけにはいかない。
留守の間にしておくことをご主人様に確認しておかなくては。
「ご主人様、留守の間にしておくことはございますか」
「そうだね。
母さんが帰ってきたとき気持ちよく過ごせるように大掃除をしておいて」
「大掃除ですね。
承知いたしました」
数ある家事の中で、私は掃除が一番得意だ。
ご主人様たちがお帰りになった時気持ちよく過ごせるように隅々まで掃除しておこう。
18
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~
咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」
卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。
しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。
「これで好きな料理が作れる!」
ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。
冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!?
レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。
「君の料理なしでは生きられない」
「一生そばにいてくれ」
と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……?
一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです!
美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる