幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで・BL・完結・第9回ＢＬ小説大賞、奨励賞受賞作品

六十一話「下山と毒消し草①」

帰り道もノヴァさんが俺を背負ってくれた。

「ノヴァさん、俺自分で歩けますよ」

「山は体力を消耗し注意力が散漫になる下山時の方が転倒や滑落の危険が高くなる。魔法の光ツァウバー・リヒトで照らしているとはいえ、夜の山道は危険だ」

素人の俺が歩くより、ノヴァさんが背負って歩いた方が早いし安全ってことかな。

体力もないしノヴァさんの足を引っ張ってしまうから、ここはおとなしくノヴァさんの言うことを聞いておこう。

「ノヴァさん、ありがとう」

「礼には及ばない、シエルは大事な体だからな」

大事な体？　どういう意味だろう？

ノヴァさんは時々襲ってくるコボルトを、俺を背負ったまま魔法で退治して進んでいく。

ノヴァさんが行きに攻撃魔法を使わなかったのは、キメラに気づかれて逃げられてしまったり、逆に奇襲されたりするのを防ぐためだ。

行きに攻撃魔法を使わないというノヴァさんの選択は正しかったと思う。

山頂に着いたときキメラのうち一匹は眠っていて、奇襲攻撃に成功した。一匹ずつなので割と楽に倒せた。二匹を同時に相手にするのは楽ではなかっただろう。

もし行きの山道で魔法を使ってキメラに存在を気づかれ奇襲されていたら……考えただけで恐ろしい。

逆に山頂まで行ったのにキメラがいないのも悲しい。なんのために行ったんだよって感じになる。一時的に逃げただけだから、何日かしたら戻ってくるだろうし……その間山頂でキャンプするのは辛い。


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