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七十四話「立花葵①」
しおりを挟むーー水の神子視点ーー
「ひまわりちゃん、金出して」
「もう、またなの」
「パチンコですっちゃって、競馬で当てて倍にして返すから」
「しょうがないわね」
日常の光景、違うのは母の相手の男の顔と名前が都度変わること。
どいつもこいつも母親の金を当てにするクズだということに変わりはない。
「お母さんはバカなの? このおじさん前にもこうやってお金を持っていって返しに来なかったよね?」
いつだったかそう口にしてみたことがあった。
きっと目を釣り上げた母親と、チッと舌打ちした男。
次の瞬間には男の拳が飛んできて、ボクは壁に背中をぶつけていた。
「うっ、ゲホッ……!」
「ガキがうるせえんだよ!」
腹を抱えうずくまるボクに男の蹴りが飛ぶ。
「ガキのしつけぐらいちゃんとしとけ!」
「貴ちゃんゴメンネ!」
母に悪態をつく男、ボクのことなど見向きもせず男に媚を売る母。
「お金出すからさ、また来て」
「もう来ねぇよ!」
母が財布から出したお金をむしり取り、男は乱暴に扉を閉めた。
「あんたのせいで男に逃げられたじゃないのさ!!」
横たわるボクの胸ぐらを掴み、母が指輪のついた指でボクの頬を叩く。頬が赤くなりヒリヒリと痛む。
嘘つき、男に逃げられるのはボクのせいじゃないだろ? あんたが間抜けだからさ。
母は水商売をしながら、たまに男を家に連れ込んではセックスして、その男に逃げられないように金を渡していた。
バカな女、どうせセックスするなら貢ぐんじゃなくて、男に貢がせればいいのに。
ボクはまだ八歳だったが、母の愚かさに辟易していた。
◇◇◇◇◇
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