27 / 34
二十七話「ぼくを好きにしてくれ!」
しおりを挟む「ラインハルト殿下は私の婚約者。勇者様とはいえおふざけがすぎますね」
フリード公子が勇者様をねめつける。勇者様にも服を着てもらいました。風邪をひいたら大変だからね。
あれ? フリード公子いまリヒトのことを「勇者様」って呼ばなかった? 聞き違いじゃないよね? ぼくフリード公子にリヒトが勇者様だって教えてないのにどうして知ってるんだろう?
「勇者? 誰の事を言ってるのかは知りませんが、ラインハルト王子はおれの婚約者です。証人もいます。フリード公子こそ引っ込んでいてください」
勇者様がフリード公子に刺すような視線を向ける。
えっ?! ちょっと待って!? ぼくいつ勇者様と婚約したの??
「リヒト、婚約者ってどういうこと?」
「モーントズィッヒェル公爵領へ向かう馬車の中でおれと結婚すると約束してくださったではありませんか。バルドリックが証人です。忘れてしまったのですか?」
勇者様がぼくの手を取り、悲しげに眉を下げる。
勇者様が世界一強くなったら身分の違いなど関係なく勇者様の好きな人と結婚出来るよとは言ったけど、勇者様と結婚するとは言ってない。
待てよ? 勇者様の好きな人の特徴って確か「高貴な身分で」「金髪で」「青い目」の人……ずっとフリード公子だと思っていた。
そういえば……ぼくの髪と目の色はフリード公子と同じ金色と青。
ええっ?! それじゃあもしかして……!
「あの時リヒトがいってた好きな人って……」
「あなたです。ラインハルト王子」
勇者様に真っすぐに見つめられ、ぼくの顔に急速に熱が集まる。
勇者様がぼくを……好き?
じゃあ今まで勇者様がぼくにキスしていたのは、フリード公子の代用としてではなく、ぼくが好きだから?
そうだと分かった途端、胸がドキドキして、勇者様から目を逸らせなくなってしまう。
勇者様の顔が近づいてきてあと一センチというところまで迫ったとき、フリード公子に抱き寄せられた。
「残念ですが勇者様、私と殿下の婚約は王命、覆すことはできません。あきらめてください」
フリード公子が勝ち誇った笑みを浮かべ、ぼくをお姫様抱っこした。
「王命……」
勇者様の目に闇が宿る。
ヤバイ! このままだと勇者様がヤンデレ化してしまう! 勇者様がヤンデレ化したら父上とフリード公子が殺される!
「落ち着いてリヒト! ヤンデレ化禁止!」
「ヤンデレ……?」
勇者様がキョトンとした顔で首をかしげる。その顔は無邪気な子供のもので、ぼくはホッと息をつく。
ぼくはフリード公子にお願いして床に下ろしてもらった。
「フリード公子、なぜリヒトが勇者様だと知っているのですか?」
婚約のことは置いといて、フリード公子がリヒトを勇者様と知っていた事が気になる。
フリード公子が意味ありげに笑う。
「殿下はベルナール男爵を覚えておいでですか?」
「ええ、先日玉座の間でフリード公子に断罪された小柄でひげ面の男ですよね」
「そのベルナール男爵なのですが、彼は国中の美人を買い集めはべらせていました」
あのスケベおやじ!
「男爵領には大した名産品や特産品がない、なのになぜかベルナール男爵の羽振りはよかった。その金がどこから入ってくるのか調べているうちに、ある者たちに行き着いたのです」
「ある者たち?」
「はい、表向き商人を装っていましたが、彼らの国も住まいも不明でした。ベルナール男爵は商人に領内の子供を売り金を作っていた」
正体不明の奴隷商人……まさか! ぼくの背中を嫌な汗が伝う。
「調べているうちに気づいたのです、どうやらその商人たちは人ではないと。そして表向きは奴隷として売られた子供たちは……」
フリード公子は最後まで言わず目を伏せた。
売られた子供たちは奴隷商人を装う魔族に食べられたか、破壊神復活の生贄にされた。
父上が治めるこのフォルモーントの国内で、子供狩りが行われていた……!
怒りで全身の毛が逆立つのを感じた。
「ラインハルト王子……!」
「殿下……血が!」
握っていた拳から血が一筋流れ床に染みを作る。
「大丈夫だよ」
回復魔法をかけようとする勇者様とフリード公子を制する。
ぼくの痛みなど売られた子供たちの痛みに比べれば、どうということはない。
国内でかかる不正がまかり通っていたことも知らず、今日まで安穏(あんのん)と暮らしてきたとは……! 悔しさと恥ずかしさで、胸がつぶれる思いだ。
「フリード公子、話の続きを聞かせてください」
フリード公子はぼくに軽く一礼し、話を続けた。
「時を同じくして殿下のお人柄が急に変わられ、孤児院の保護に乗り出されたという知らせを受けました」
隠しているつもりだったが、見る人が見たらバレバレだったんだ。
「孤児院の子供たちの中でも、取り分けリヒトという少年を気にかけていると」
フリード公子が勇者様に突き刺すような視線を向ける。勇者様はその視線に臆せず、ぼくの腕に自身の腕をからめ、フリード公子に鋭いまなざしを向ける。
二メートルを超す大男も、食わせ者の貴族もすくませたフリード公子の視線にひるまないなんて、勇者様はすごいな。
「それで気づいたのです、殿下は曾祖父アルドリック国王同様、勇者様を保護せよと神の啓示を受けたのではないかと」
フリード公子が膝をつきぼくに目線を合わせた。ぼくに向けるフリード公子の目は、いつもと同じ温かななものだった。
「うん、だいたいそんなところかな」
まさか七歳の誕生日に前世でプレイしたゲームの悪役王子に転生したと気づいたとは言えない。
ぼくは勇者様の腕をほどき、床に膝をついた。
「リヒト、いえ勇者様。今まで隠していてすみません。あなたは曾祖父の代から伝わる伝説の勇者で、魔王を倒せる唯一の存在なのです」
勇者様の顔を見る、勇者様はぼんやりとぼくの顔を見ていた。
それはそうだ、勇者様はまだ七歳の無垢な子供、いきなり伝説の勇者様とか言われても困るよね。
「おれが勇者……」
「はい、そうです勇者様」
「勇者になったら……」
「えっ?」
「おれが勇者になったら、ラインハルト王子と結婚できますか?」
「はっ……?」
勇者様がぼくの手を取る。
「おれが世界一強くなったら結婚してくれると約束してくれましたよね!」
「それは……」
結局そこに行き着くのか。ぼくは深く息を吐いた。
「勇者様、伝説の勇者だからといってあまり調子に乗らないでくださいね」
フリード公子が勇者様の手を払った。フリード公子は穏やかにほほ笑んでいるが、目は笑っていなかった。
一流の氷魔法の使い手は目から「吹雪(ジェネーシュトゥルム)」を出せるらしい。
この部屋の温度が一気に下がり、ぼくは身震いした。
「おれは世界を救う勇者なんでしょう! だったらラインハルト王子と結婚しても問題ないハズです! ラインハルト王子だっておれとの結婚を承諾してくれました!」
「いやあれは……」
まさか勇者様の好きな人がぼくだとは思わず、つい約束してしまったとは言えない。
「私は陛下らから正式に結婚の承諾を得ています。私こそラインハルト殿下の正当な婚約者です!」
ぼくはまだ承諾してないけどね。
「国王陛下は勇者(おれ)の存在を知らないから、フリード公子とそんな約束をしたんです!」
「仮に陛下が勇者の存在を知っていたとしても、君のような子供にラインハルト殿下を任せたとは思えないが!」
フリード公子がぼくの左腕を、勇者様がぼくの右腕を掴み、互いに自分の方に引っ張りだした。
両方から引っ張られ、ぼくは痛みで泣きそうになる。
ぼくは二人の手を同時に払い、床に頭を付けた。
「すみません!」
日本風の土下座だ。
「ラインハルト王子……!」
「殿下なにを……!」
二人の声は動揺しているように聞こえた。
「二人と結婚の約束をしたのはぼくだ! 国政のためにフリード公子を利用し、世界平和のために勇者様を利用した!」
ぼくは酷い人間だ二人の人間をいいようにもてあそんだ。でも時間を巻き戻せたとしても同じことをするだろう。
国政にはフリード公子が必要で、魔王討伐には勇者様が必要なんだ。
ぼくは頭を上げ二人の顔を見る。
「ぼくとセックスしたいならぼくの体を好きにすればいい! 殺したいなら殺せばいい!」
「王子様なにを……!」
「殿下そのようなことはおっしゃらないでください!」
「その代わり約束してほしい! フリード公子は王佐として政に携わり民を幸せにすると! 勇者様は世界一強くなって魔王を倒し世界を平和にすると!」
二人は目を見開いてぼくを見ていた。
◇◇◇◇◇
16
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
婚約破棄されて追放された僕、実は森羅万象に愛される【寵愛者】でした。冷酷なはずの公爵様から、身も心も蕩けるほど溺愛されています
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男アレンは、「魔力なし」を理由に婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡され、社交界の笑い者となる。家族からも見放され、全てを失った彼の元に舞い込んだのは、王国最強と謳われる『氷の貴公子』ルシウス公爵からの縁談だった。
「政略結婚」――そう割り切っていたアレンを待っていたのは、噂とはかけ離れたルシウスの異常なまでの甘やかしと、執着に満ちた熱い眼差しだった。
「君は私の至宝だ。誰にも傷つけさせはしない」
戸惑いながらも、その不器用で真っ直ぐな愛情に、アレンの凍てついた心は少しずつ溶かされていく。
そんな中、領地を襲った魔物の大群を前に、アレンは己に秘められた本当の力を解放する。それは、森羅万象の精霊に愛される【全属性の寵愛者】という、規格外のチート能力。
なぜ彼は、自分にこれほど執着するのか?
その答えは、二人の魂を繋ぐ、遥か古代からの約束にあった――。
これは、どん底に突き落とされた心優しき少年が、魂の番である最強の騎士に見出され、世界一の愛と最強の力を手に入れる、甘く劇的なシンデレラストーリー。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる