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六話「ディアーナ・フォークト、十三歳の春」②
しおりを挟むふかふかのベッド、甘い香り、頭を撫でる大きな手……。
どこだろうここ……? 天国……?
「ディアーナ、気がついたかい?」
プラチナブロンドの髪、サファイアの瞳、白磁のようにきめ細やかな肌、神様に愛されて造形された美しい顔。
まだ幼さを残す整った顔、少年と青年の間の一番いい時期。
天使だ、天使がいる……やっぱり私死んでしまったのね。
「ディアーナ、僕が誰だか分かるかい?」
細くて形の良い眉、長くて綺麗なまつ毛、涼やかな目元、すっと通った鼻筋、ピンク色の唇、やや低めの美声。
どっかで見たことがあるような……ああそうだ、部屋に貼ってあったポスター。
「愛しのフリード様だぁぁ……ポスターから抜け出して来たの?」
私の言葉を聞いた天使が顔を赤らめる。
「愛しのフリード様……? ディアーナは僕をそんな風に思っていたのか? いや、それよりも呼び方……!」
天使が驚いた顔をしている。
美少年はびっくりした顔も絵になるなぁ。
というか、さっきからディアーナって呼ばれてるけど……ディアーナって誰?
聞いたことはあるんだよね、なにかの漫画に出てきたような?? なんだったかな??
思い出した! 少女漫画「クリンゲル学園の天使」の悪役、公爵令嬢のディアーナ・フォークト!
金髪碧眼の美少年がフリード公子で、私をディアーナって呼んでいる……?
んんんん??
「ちょっと待って、私ディアーナ・フォークトになっちゃったの!!」
かばっと上半身を起こすと、めまいがした。
「急に起き上がってはだめだよ、まだ横になっていないと」
ベッドの横に座る美少年が私の頭を撫でる。
やさしい手つきだなぁ、寝ているときに頭を撫でてこの手だった気がする。
じゃなくて……!
「フリード様……じゃない、お兄様、鏡、鏡ありますか?」
取り乱す私をキョトンとした顔で見ているフリード様。
「大丈夫、顔に傷は出来てないよ」
フリード様の手が私の頬に触れる。
距離が……! 漫画のイチ推しキャラとの距離が近い!
「そうかもしれないですが、鏡を今すぐ見て自分の目で確かめたいのです」
フリード様から顔をそむけ、手で顔を覆う。
きっと今真っ赤な顔をしている。義理とはいえ兄に顔を触られて赤面するとか……絶対変に思われた!
「少し待っていてくれ」
フリード公子が席を立ち、鏡台から手鏡を持ってきてくれた。
「ありがとうございます、お兄様」
「どういたしまして」
フリード様が笑顔で手鏡を手渡してくださる。
推しの笑顔が尊い……! 眼福、眼福!
喜んでいる場合ではない。フリード様から受け取った手鏡を覗き込む。
太陽のように輝く金色のウェーブのかかった髪、蒼玉色の瞳、ちょっとツリ目がちな大きな目、雪のように白くきめ細かな肌、桃色の唇。
勝ち気そうな美少女が困惑した表情をしている姿が写っていた……これが私!?
この顔間違いない、漫画より幼いけど、「クリンゲル学園の天使」の悪役令嬢、ディアーナ・フォークトだ!
嫌ーー! 少女漫画で断罪されて殺される悪役令嬢になってるーーーー!!
バタリ……!
私は鏡を持ったまま失神した。
「ディアーナ、しっかり!」
フリード様の美声が部屋の中に響いた。
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