26 / 50
26話「王室主催のお茶会前夜」王太子視点
しおりを挟むお茶会前夜、深夜の王宮。
玉座の間は人払がされていた。
国王と王太子の影がろうそくの明かりに揺れる。
「アーサー、その書類は……そなた父である余を脅す気か……?」
動揺を隠せない国王とは対照的に、王太子アーサーの声は落ち着いていた。
「欲しいもの……いえ守りたいものが二つありまして」
王太子が美しい顔を綻ばせにこりと笑う。
その妖美なまでの美しさに、国王は背筋が凍る思いがした。
今までわがまま一つ言わず、三歳下の弟に「兄上の持ってるものが欲しい!」と言われれば、文句も言わず何でも与えてきた出来の良い兄。
国王も王妃も王太子が物分りが良いのをいいことに「アーサーはいずれ国王の座という唯一無二のものを得るのだから、他のものはコーエンに譲って上げなさい」と言いアーサーの物を取り上げ次男のコーエンに与えててきた。
特に王妃は乳母に育てられた父親似のアーサーより、自分の手で育てた自分と同じ栗色の髪と黒い瞳を持つ出来の悪いコーエンを可愛がっていた。
「アーサーは私を【母】としてではなく【王妃】としてしか見ないのです、その点コーエンは私を母として見て慕っくれます」が王妃の口ぐせであった。
アーサーは頭脳明晰、容姿端麗、武芸にも秀でた完璧な王太子。光の神バルドルの再来のような人格者で公明正大で誰からも好かれていた。アーサーを神や精霊のように崇拝するものもいた。アーサーが王になったら歴史に名を残す聖君になると誰もが信じていた。
国王もその一人であった、まさか神のように崇拝される王太子の裏の顔が悪魔であったとは……夢にも考えたことがない。
「ではいいですね父上、弟のコーエンの生殺与奪権はボクがいただきました」
国王はコクリと力なく頷いた、頷くしか選択肢はなかった。
王太子が国王に突きつけたのは、三百年続くグランツ王国を、根幹から揺るがす、王族の不正の証拠であった。
グランツ王国の王族が建国から数百年の間に行ってきた不正の数々。
民の虐殺、近親相姦、王太子のすり替え、国王の暗殺、貴族の粛清、人体実験、悪魔の召喚……数百年前のものから現在に至るまであらゆる犯行の数々が王太子の手により調べ上げられていた。
犯行から数百年経過していようとも公に出来るものではなかった。
王太子が調べ上げた事の中には国王の知らない事まで混ざっていた。王太子がいつの間に調べたのかは分からないが、国王には王太子に従う以外の道はなかった。
「ではボクはこれで。夜分に失礼いたしました」
王太子はうやうやしく礼をして、玉座の間をあとにした。
「息子が天才すぎるのも考えものかもしれん……」
誰もいなくなった玉座の間で、国王は独り言をつぶやいた。
国の命運を握る天才の長男、甘えるのが得意なだけの愚かな次男。国王にはどちらか片方を選択する権利すら残されていなかった。
「アーサーは【弟のコーエンの生殺与奪権をくれ】と言ったが、アーサーに生殺与奪権を握られたのは余も同じか……」
生かすも殺すも王太子の気分次第。王太子がその気になれば明日にでも国王の交代が実現する。その事実に気づき国王は身震いした。
「アーサーがあんなことを言い出したのは、もうすぐ王室主催のお茶会が催されるからか?」
そのお茶会は第二王子コーエンの婚約者候補と側近候補を選ぶためのものなのは公然の秘密だった。
「よほどコーエンに取られたくない人物がいるらしい」
王太子は物分りの良い兄などではない。国王と王妃と第二王子の行動から、今後必要な人材かどうか見定めていたのだ、必要ないと判断すれば切るつもりで。
そんな冷酷な王太子が人生で唯一関心を持った相手がフリード・フォークトとその伴侶になるディアーナ・フォークト。
王太子はこの二人を守るためなら手段を選ばないだろう、アーサーのそんな一面を知り国王は恐怖した。
「コーエンが美しいと評判のディアーナ・フォークトを婚約者に選び、剣神の才があるフリード・フォークトを第二王子の側近にしようと考えたら、コーエンを切り捨てるつもりか……?」
おそらくコーエンの教育に失敗した余も切られるであろうな。
「コーエンがアーサーの思惑に気づきわがままを止められればよいのだが……」
コーエンは阿呆なので無理だろうなと呟き、国王は首を横に振った。
「……余が隠居する日は近そうだな」
国王は深夜の王宮で大きなため息をついた。
90
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
ルンルン気分な悪役令嬢、パンをくわえた騎士と曲がり角でぶつかる。
待鳥園子
恋愛
婚約者である王太子デニスから聖女エリカに嫌がらせした悪事で婚約破棄され、それを粛々と受け入れたスカーレット公爵令嬢アンジェラ。
しかし、アンジェラは既にデニスの両親と自分の両親へすべての事情を説明済で、これから罰せられるのはデニス側となった。
アンジェラはルンルン気分で卒業式会場から出て、パンをくわえた騎士リアムと曲がり角でぶつかって!?
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる