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32話「人の恋路を邪魔する奴はグーで殴られてしまえ!!」
しおりを挟む「ディアーナにはすでに婚約者がいる……? でも、俺は……今まで欲しいものは……全て手に入れてきた……」
コーエン王子がぶつぶつと何か言っている。
背筋がひやりとする、嫌な予感がします。
「ディアーナに一目惚れした! ディアーナが欲しい! フリード公子、ディアーナと別れてくれ! ディアーナ・フォークト、俺の婚やく…………ぐへぶぅっっ!!」
コーエン王子の頬に拳がめり込み、三秒後コーエン王子の顔半分が地面に埋まっていた。
「やぁ来てたんだね、フリード、ディアーナ嬢」
にこやかに挨拶をする美少年には見覚えがあった。
「王太子殿下!」
「アーサー!」
コーエン王子をぶん殴ったのは、第一王子のアーサー様だった。
コーエン王子は白目をむき口から泡を吹いている。どうやら気を失っているようだ。
「ああこれ、コーエンの顔に大きな虫が止まっていたから刺されないうちに弟ごと殴ったんだよ。どうやらその衝撃でコーエンは気を失ってしまったようだね」
王太子殿下がコーエン王子を指差しくすりと笑う。
「それは惜しいことをした、その虫は僕が仕留めたかったのに」
フリード様が胸の前で右手を握りしめ、左手に打ち付ける。
フリード様のまだ怒りが収まってないようで、コーエン王子を見る目つきが死ぬ歩度冷たい。
「そう言うと思った。だからボクが殴ったんだよ。君が殴ると虫が止まっていた対象ごと壊してしまいそうだからね」
王太子殿下がニコニコと笑いながら物騒なことを話す。
私も出来ればコーエン王子に平手打ちをお見舞いしてやりたかったです。
「第一王子が第二王子を殴っても兄弟喧嘩で済まされるけど、公爵令息が第二王子を殴ったら面倒なことになるからね」
王太子殿下はもしかしてフリード様を守って下さったのでしょうか? だからフリード様の代わりにコーエン様を殴った?
「僕はこいつを殴って、ディアーナと義理の両親を連れてフォークト公爵領に戻っても良かったのだが。そうなればルーデンドルフ伯爵家の人間もルーデンドルフ領に戻ることになるが」
コーエン王子を殴ってフォークト公爵家の人間とルーデンドルフ伯爵家の人間が領地に戻る? フリード様、王家と戦争をなさるおつもりですか?
「それを回避するためにボクが愚弟を殴ったんだよ。コーエンのせいで親友とその婚約者と優秀な二家の貴族を失うなんて嫌だからね」
王太子殿下がコーエン王子を冷酷な目で睨む。
「フリード、ディアーナ嬢、愚弟の非礼はボクが詫びる。コーエンはボクが躾けるから、チャンスをくれないかな?」
王太子殿下の提案に驚く。
「愚弟をきちんと調教すると誓うよ。今日はボクの顔に免じて許してくれないかな?」
王太子殿下はフリード様の親友。出来るなら二人の友情を壊したくない。
「フリード様、今日は王太子殿下の顔を立てましょう」
フリード様のジュストコールの裾を引っ張り、お願いする。
「いいのかい? ディアーナ」
フリード様が驚いた顔で私を見る。
「はい、王太子殿下が第二王子をちゃんと調教……教育して下さるなら」
うっかり調教といいかけて慌てて言い直す。
「ありがとうディアーナ嬢、約束するよ。ボクもコーエンに二度目のチャンスを与えるほど寛容じゃない。コーエンが変われなかったときは、王家の仕来りに乗っ取り適切に処分をするよ」
まるでゴミか何かを処理するように、王太子殿下が淡々と話します。コーエン王子に兄弟の情はないようです。
「はっきり言っておく、二度目はない! 親友の弟でも容赦はしない!」
フリード様が王太子殿下を真っ直ぐに見据え冷たく言い放つ。
「また僕の婚約者を自分の婚約者にするなんてふざけたことを言うようなら、今度こそ容赦しない! 次は僕が第二王子を殴る!」
フリード様が冷たい視線を王太子殿下とコーエン王子に向ける。
「それは困るね、君がコーエンを殴ったら、フォークト公爵家とルーデンドルフ伯爵家はグランツ王国を見捨てて他国に行ってしまう。
【コーエン】と【フォークトと公爵家+ルーデンドルフ伯爵家】では天秤にかけるまでもない。
ボクもやっと見つけた唯一無二の親友を失いたくないしね。
そのときはボクが責任を持って弟を処分すると誓うよ」
王太子殿下の中でのコーエン王子の価値は、そのへんの石ころより低いらしい。
「ディアーナ嬢、愚弟が迷惑をかけてすまなかった、怖くなかったかい?」
王太子殿下からの謝罪に戸惑う。身分が上の人に頭を下げられてしまった。
「頭を上げてください、私なら大丈夫です。フリード様が守ってくださいましたから」
フリード様の袖をキュッと掴むと、フリード様に抱きしめられた。
「ディアーナすまなかった! 僕がディアーナの手を離したばかりにディアーナを危険な目に合わせた!」
フリード様のサファイア色の瞳が悲し気に揺れる。フリード様はご自分を責めているようです。
「フリード様のせいではありません」
きっとこれは漫画の強制力だ。
漫画と同じピンクのドレスと赤いリボンを身につけてお茶会に参加することになったのも、フリード様とはぐれたのも、薔薇のアーチでコーエン王子に出会ったのも。
漫画の強制力は思っていたよりも手強い。
ですがフリード様と王太子殿下のおかげで、コーエン王子に薔薇のアーチでプロポーズされるフラグをへし折ることが出来ました。
漫画のストーリーは変えられる。コーエン王子の婚約者になる未来も、卒業パーティーで断罪され殺される未来も変えられる。
私には頼りになる味方がいます。強制力にだって打ち勝ってみせます。
今日のことで未来に希望が持てました。
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