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二章・25話「塔でのスローライフ、毒殺と王子様と間接キスと 12」シンデレラ視点
しおりを挟む「似合うよ」
王子がオレのドレス姿を見てふわりと笑う。
フィリップ王子の笑顔に、不覚にもときめいてしまった。
胸の奥がキュンキュンと音を立てる。
同時に、王子に誉められるとなぜか居心地が悪い。
王子との出会いが出会いなだけに、どうしても何か裏があるのでは? と疑ってしまう気持ちがぬぐえない。
「これは?」
フィリップ王子が床に落ちていた紙を拾う。
それは、ベレスフォード行きの乗船券だった。
私服のポケットに入れたままにしていた乗船券が、着替えた時に落ちたのだろう。
「これをどこで手に入れた?」
フィリップ王子が乗船券を一瞥(いちべつ)し、眉根を寄せる。
「知り合いのおじさんからだけど」
とっくに有効期限は切れている。
あの日、オレはこの乗船券を持って港に行き、ベレスフォード行きの船に乗るハズだった。
もし船に乗っていたらいまごろは、ベレスフォード国で服屋の下働きとして、楽しく働いていたのだろうか?
自分が送るはずだった幸せな人生を想像し、ため息をつく。
「にせ物だ」
フィリップ王子が顔をしかめる。
「えっ……?」
「本物のチケットには、王家の許可印が押してある、だがこの乗船券にはそれがない」
フィリップ王子が、オレに乗船券を返してくれた。
オレは乗船券をじっと見る。
裏にも表にも、王家の許可印らしきものは見当たらなかった。
マジかよ、パチもんをつかまされたのか!?
シンデレラの父親が外国の土産に買ってきてくれたネックレスとか、シンデレラの母親が誕生日プレゼントにくれたブレスレットとか、思いでのつまった大切な品を断腸(だんちょう)の思いで渡したのに……。
乗船券がにせ物だったなんて!
腰の力が抜け、ベッドの縁にへなへなと腰をかけた。
「舞踏会の日の深夜十二時に出港する予定だったのだな」
フィリップ王子が鋭い視線を向ける。
「そうだけど、それが何……?」
騙されたと分かったショックで、オレにはもう話す気力がない。
市場のおじさん。父親の代から屋敷に出入りしている商人で、屋敷に来るたびお菓子やオモチャをくれる、気のいいおじさんだった。
もしかして、おじさんも悪徳商人に騙されてにせ物の乗船券をつかまされたのかな?
きっとそうだよ、おじさんがオレを騙すハズがない!
「その乗船券を君に渡した人の、名前と職業は分かるか?」
「ロバートおじさんことか? 港の近くの市場で雑貨店をやってるよ。昔から家に出入りしてた商人で、すごくやさしい人だった。きっとロバートおじさんも悪徳商人に騙されたんだな」
フィリップ王子が眉をひそめ、ため息をつく。
「舞踏会の夜、船の出港は禁止されていた」
「……えっ?」
「舞踏会の日以外でも、夜十時以降の商船と客船の出港は禁じられている。市場で働く者ならみな知っていることだ」
フィリップ王子が鋭い視線でオレをにらむ。
「え~っと、つまり……」
「君は市場の商人に騙されたんだ」
フィリップ王子がクールに言い放つ。
まじかよ~~! 疑いたくなかったよ、ロバートおじさん!
「家出した少年や少女を港に集め、他国に売り飛ばす輩がいると聞く。見目のよいものは娼館(しょうかん)に売り、それ以外のものは奴隷(どれい)にするとか」
ヤバい、シンデレラちゃん見目が良いから、娼館(しょうかん)に売られちゃう!
男娼(だんしょう)にされて、監禁拘束されて、輪姦肉便器腹ボテエンド確定だ……!
うわぁ~~っ! それ選択肢の中で一番ひどくない?
あのいじわるな継母でさえ、オレを娼館(しょうかん)に売ろうとはしなかったぞ。
あの日港に行けなくて、結果的には良かったということか。
娼館に売られてキモいおじさんたちに輪姦されるよりは、イケメンドS王子に初めてを奪われた方が……断然いい。
いや……いくらかマシと言うだけで、やっぱりどちらもひどい結末には違いない。
せめてフィリップ王子がオレを愛してくれていたら……。
そうすれば、あいつがオレにしたことも多少は許せるのに。
「君は、舞踏会に来なければ娼館に売られていたんだぞ」
フィリップ王子が厳しい口調で言う。
「すみません」
オレはなぜ、フィリップ王子に叱(しか)られているんだろう?
オレが騙されて娼館に売られようが、奴隷にされようが、フィリップ王子には関係ないハズだ。
「親しい人間だからと、安易に信用する」
「はい、すみません」
「結果論だが、君を無理やり舞踏会に送った魔法使いに感謝すべきだな」
「はい……ってなんでオレ、フィリップ王子に怒られてるんだ? オレがどうなろうと、王子様には関係ないだろ!」
フィリップ王子に肩をつかまれ、険しい顔でにらまれた。
王子の顔が近い。オレの心臓がトクトクと音を立てる。
「君を心配してるからに決まっているだろう!」
フィリップ王子の真剣な瞳がオレを射抜く。
「関係ある、ボクは君を…………!」
フィリップ王子が何かを言いかけてやめた。
「……いや、なんでもない」
物憂げな顔で、フィリップ王子が肩から手をはなし視線を逸らす。
「……ごめん、気をつける」
よく分からないが、フィリップ王子はオレを心配してくれたようだ。
「君を一人でここから出していいか悩むよ、君は危なっかしいからね」
王子が苦笑する。
「いやそれは困る、約束通りここから逃がしてくれ」
王子がはなれた後も、オレの心臓はドキドキと音を立てていた。
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