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第二章 夏の段

第43話 地味ぽちゃ系アラサー女子の私がイケメン達と祭の最終局面に挑んだ件・その1

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 ――――数日後。
 日帰り研修を終え、通常業務に戻った私は祭開催前の準備に再び力を入れていた。
 またしばらく残業続きの日々であるが、気力体力共に充実した私にとって、恐るるべきものでは無い。


「あっ! 伊縄城いなわしろさーん!
 お疲れ様です。研修はいかがでしたか?」

 昼休憩になり食堂で惣菜を選んでいると、後ろから大都野おおみやのさんに声を掛けられた。

「……大都野さん……お疲れ様です。
 ……何だか、もう、凄く濃い一日でした……」

「あらら、伊縄城さんちょっとやつれましたか? とりあえず、席に着きましょ!」

 窓際のテーブルに移動し、向かい合わせに着席する。日差しが燦々と当たり、真っ青な空が清々しい。

「色々お話したい事だらけで、ちょうどご連絡しようと思ってました」

 お茶を一気に飲み、深く息を吐く。
 研修のあれこれを思い返し、表情筋が弛みっぱなしになっている私を見て、大都野さんが何かを察した。

「伊縄城さん……もしかして……
 ――――凄く、楽しかったみたいですね?」

「~~~~~~はい! それはもう!!」

 握り拳を前にして、力一杯返答する。
 あそこまで顔の良い男性達から代わる代わる存分に甘やかされたら、楽しくない訳が無い。
 今後しばらくはどんなに理不尽な仕事が来ても100%笑顔でこなせる自信がある。

 それぐらい、私にとってであった。

「良いなぁ~! 私も間近で拝見したかったです。伊縄城さんがお花のように皆さんから愛でられているお姿を」

「めでっ……! ゴホッ、ゴホッ!!
 そっ、そういえば、ワンピース、ご助言通り持っていって良かったです。何故か分からないのですが、好評でした。ありがとうございました」

「いえいえ~! だって、伊縄城さんにピッタリでしたもの! 今度は私と遊びに行く日に着てきてくださいね♪」

「はい! 是非!」

「あ、伊縄城さんにまだお話してなかったんですが、八百万祭のやぐらステージで舞を踊る事になりました。当日限定の和楽器部隊と演舞をやりますので、お手隙の時にでも是非ご覧ください♪」

「舞ですか……!? 大都野さん多才すぎませんか!?」

「いえいえ、他にも参加される方は大勢いらっしゃいますし、私なんて全然です。後は、神霊営業部の帆見ほみ主任も和太鼓で出られるみたいですよ」

「ええ~~! 帆見主任が和太鼓! 
 あっ、でもなんか似合うかも!」

「会社公式チャンネルにアップされたPVにちょっとだけ出演されてますから、伊縄城さんも見てみてください♪
 もう再生数が数百万超えしたらしく、今後の来場者数の見込みが鰻登りに跳ね上がっているみたいですよ。今年の八百万祭はいつにも増して大盛況になりそうですね」

種狛たねこまさんが作成していた動画だ。
 凄いな、もう出来たんだ)

 噂のPVをIDバングル上で視聴する。
 生き生きとした、職場の皆さんの表情がスタイリッシュなカメラワークで次々と映し出されていく。数秒ではあるが、見覚えのあるカットを幾つか見つけ思いの外嬉しくなった。これを観たら、祭への期待値は相当高まる事だろう。

「伊縄城さん、委員会のお仕事はそろそろ大詰めですか?」

「あ、はい……しばらくは確認作業などで定時上がりとは無縁の生活になりそうです……」

「そうなんですね……夏風邪などひいては大変ですから、あまり無茶はしないでくださいね。私も手伝いますので!」

「――――ありがとうございます!」


(大都野さんも舞のお稽古とかご自身の事でも大分荷が重いはずなのに……良い子過ぎるよ)


 私は大都野さんに最大限の感謝をし、残りのおかずをかき込んだのだった。




 * * *




 休憩時間になり、デスクで伸びていると私の部屋に向かってくる足音が聞こえた。


 《コンコンコン》


「あっ、はーい!」

 《ガチャリ》


「おつ。……お前、サボってただろ。
 顔がだらけてんぞ」

御影みかげさん! ち、違いますよ。
 ちょうど一区切りついたところだったんです!」

(相変わらず、痛い所を突くな……)

「まぁ良いけど。ほい、これ。お前の分な。
 八百万祭用の法被一式だとよ」

 単刀直入にバサッと紙袋を手渡される。
 中身を覗くと、白地に藍色の和柄が施された布類がぎっしり詰まっている。

「おお~~、何だか立派そうな服装ですね。
 お持ち頂いてありがとうございます」

「当日はそれ着て運営よろしくだと。
 有志サポーターのはまた違うデザインらしいけど、かなり目立つよな。社長直々の特注だっつーから、有り難く着とけ」

「特注! 承知しました……。
 御影さんの方は作業、もうそろそろラストスパートですか?」

「あ? んー……いや、まぁ、そうだな」

 バツが悪そうに頭を掻いている。
 何やら煮え切らない様子の御影さんが気になり、問いかけてみた。

「何か、問題でもありました?」

「――ステージ自体は組み終わって機材運びゃ完成なんだけどよ。

「えっ?!」

 まさかの名前が出て困惑する。
 衣吹戸いぶきど課長とトラブルでもあったのだろうか。

「言い方が悪かったな。別に何かやらかしたとかってワケじゃねぇよ。
 お前、『VJ』って知ってるか?」

「ぶいじぇー????」

 たくさんのクエスチョンマークが頭上に浮かぶ。ピンと来ないワードに、御影さんから助け舟が出た。

「そういう反応になるわな、フツー。
 俺も最近知ったんだが、『ビジュアルジョッキー』の略称らしい。舞台やステージ上の映像を流す奴を指すんだと」

「はぁ、なるほど。映像、ですか……」

「ああ。そんで、こないだの研修でそれの予行演習リハをしたんだが。衣吹戸課長、マジすげーのな。スクリーンの映像だけじゃなくて、カメラや照明もバシバシ並行して切り替えちまうから、超適任だなって話になったんだが。何つったと思う?」

「丁重にお断りされたんですね」

「当たり。『大勢の観客の前でそんな事するのは恥ずかしいし荷が重過ぎるから、御影くんやって』だとさ。俺は交通関連もやらねぇとだから、無理って話。
 お前からも言ってやってくれよ。女から聞いた方が絶対やるから」

 やれやれと言った調子で、御影さんがため息を吐く。


 私から頼んだ所で衣吹戸課長が果たして引き受けてくれるだろうか。


「……やるだけやってみますが、期待しないでください」

「おう。任せた」

 衣吹戸課長を説得するミッションを与えられた私は、未知数な難易度に頭を抱えつつも神霊情報管理課へと足を運ぶ事になったのだった。
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