龍神  

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白蛇の水呑み

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 時は寛政二年、今から二百有余年前の奇妙なお話でございます。

 とある村より隣村へ通ずる一本の道すがら。鬱蒼とした林を抜けると、湿地でありましょうかよしあしたぐい生い茂る開けた処に出てまいります。足元は沼地ゆえ、うっかりと人が入り込もうものなら、命を落とすか、はたまた何かに喰われるかといった不吉を感ずる土地処でございます。あたりは静まり返り、突如として飛び立つがんや鴨、その羽音に肝を冷やすのでありました。

「バサバサバサバサぁー」

 この荒地には一匹の白い大蛇が棲んでいるという噂が、誰が言うわけでもなく広まっておりました。恐らくはその佇まいがゆえ、そんな噂を生み出し人々の関心を引いていたのでございましょう。

 里の人々はこの大蛇を”池主ちぬしの神”と呼んでおります。

 その荒地には20坪ほどでありましょうか、池がございます。多くの魚がその池を住処としておりますが、その魚を捕らえるものは誰一人としておりません。そう、あの噂の白い大蛇が恐ろしく、近寄ることすらできないのでありました。

 
 とある日、里人の一人、それはそれはそれは血気盛ん、威勢の良い若者がその池で魚を捕まえると申しております。

「俺ぁ魚釣りだったら誰にも負げねぇ!あの池にはうじゃうじゃ魚がおるわ!行って捕まえできてやる!」

そしてこの血の気の多い若者その池に、一人釣りに出かけることにあいなりました。すると、

釣れるわ、釣れる。無理もございません。これまで誰も寄り付かなかった大蛇の出るであろうこの池、魚など入れ喰いでございます。面白くてしょうがありません。

「ああ、に釣れんのに、なんでみんながってんだ?・・ハハハァー」

上機嫌に若造はそんなことを申しております。時が過ぎるのも忘れ釣りに没頭する。その時、一陣の生ぬる~い風が、その若造の頬を撫で吹き去ってゆく。
「ガサガサガサッ!」

よしが大きくなびいたかと思うと、あの白い大蛇が現れたではありませんか。そしてその大きな頭を池に垂らすと、舌を伸ばし池の水を、チロチロと飲み始めております。

これにはさすがのこの若造、顔面は血の気が失せ真っ青に、捕った魚など放り出し一目散に四つん這いで逃げ出します。

「あぁー!おっかねぇ~」

逃げるその若造の後姿を白い大蛇がチラっと見る。

すると、何事もなかったようにまた、その舌をチロチロと池に伸ばすのでありました。

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