龍神  

cha

文字の大きさ
2 / 7

化身

しおりを挟む
 死に物狂い大慌てで逃げてきたこの若造、名を平五郎と申します。

 その池に白い大蛇が現れたという話、この平五郎の口から瞬く間に里中に広まってまいります。話を聞いた里人はもう、その道を通ることなど出来やぁいたしません。ましてや黄昏時などに通ろうなど、誰一人思いも致しません。泣いている子供がいれば「泣ぐど、あの大蛇がこごさやってきて喰われっと!」といったようなことを申しますと、泣く子も黙るといった塩梅でございます。

 人の噂も七十五日とはよく言ったもの、そんな恐ろしいい噂ばなしも、季節が夏から秋へ変わろうとしたそのころにはもう薄れ、人々の記憶から遠ざかってまいります。

 とある日一組の男女が、隣部落に自分らでこしらえたかごなどを持ちかてにでもしようと池の淵を歩いております。

「そうゆえばこの池には白蛇がいるそうな?」男は”おくに”に話しかけます。

「やだ九兵衛さん!そんなこと言ってあたいを脅がそうってのかい?」

「いやいや、噂だよ、噂・・」 

 そんなことを聞いたものですからこのおくにさん、気丈に振舞ってはおりますが生きた心地などしておりません。風が吹き木立が揺れただけでも、九兵衛のその腕をしっかりと掴み放そうとしない。すると・・ 

二羽の鴨が池から飛び立ちます。バサバサッと羽音をあたりに響かせる。驚く二人。すると、水際の水草が大きく揺れ出します。

「ガサガサーッ!」

そして現れたのはあの白い大蛇。飛び立とうとした鴨を目掛け大きな口を開けたかと思うと・・

「バクッッ!」

 一羽の鴨をひと呑みにした!それを見ていたおくにと九兵衛、もう腰が抜けるほど仰天しております。しかし、怖いもの見たさも手伝ってか、その大蛇が姿を消した方へ。そろり、そろりと歩み寄る・・そしてそこで二人が目にしたものは、


 そこには、色白で美しい女が座っているではありませんか。そして、その女の腹を見ると大きく膨らんでいる。赤子でも孕んでいるのだろうと思い、九兵衛が女に声をかける・・

「こんなどごでいったい何してんだ?こごはあぶねがら、さぁ!こっちさ!」手を伸ばす九兵衛。
 そしてその女・・



「動けやしないよ・・たった今、呑んだとこなんだよ・・」



 そう言って、赤い目を久兵衛に向けると、チロッと舌を出す。そしてなんと、その舌の先は二股に分かれているではありませんか!

 九兵衛とおくに、サァーッと血の気が失せてゆく・・

「ぎゃぁー!」
 
 血相を変え逃げてゆく、九兵衛とおくになのでありました。


  


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

処理中です...