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化身
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死に物狂い大慌てで逃げてきたこの若造、名を平五郎と申します。
その池に白い大蛇が現れたという話、この平五郎の口から瞬く間に里中に広まってまいります。話を聞いた里人はもう、その道を通ることなど出来やぁいたしません。ましてや黄昏時などに通ろうなど、誰一人思いも致しません。泣いている子供がいれば「泣ぐど、あの大蛇がこごさやってきて喰われっと!」といったようなことを申しますと、泣く子も黙るといった塩梅でございます。
人の噂も七十五日とはよく言ったもの、そんな恐ろしいい噂ばなしも、季節が夏から秋へ変わろうとしたそのころにはもう薄れ、人々の記憶から遠ざかってまいります。
とある日一組の男女が、隣部落に自分らでこしらえた籠などを持ち糧にでもしようと池の淵を歩いております。
「そうゆえばこの池にはえがい白蛇がいるそうな?」男は”おくに”に話しかけます。
「やだ九兵衛さん!そんなこと言ってあたいを脅がそうってのかい?」
「いやいや、噂だよ、噂・・」
そんなことを聞いたものですからこのおくにさん、気丈に振舞ってはおりますが生きた心地などしておりません。風が吹き木立が揺れただけでも、九兵衛のその腕をしっかりと掴み放そうとしない。すると・・
二羽の鴨が池から飛び立ちます。バサバサッと羽音をあたりに響かせる。驚く二人。すると、水際の水草が大きく揺れ出します。
「ガサガサーッ!」
そして現れたのはあの白い大蛇。飛び立とうとした鴨を目掛け大きな口を開けたかと思うと・・
「バクッッ!」
一羽の鴨をひと呑みにした!それを見ていたおくにと九兵衛、もう腰が抜けるほど仰天しております。しかし、怖いもの見たさも手伝ってか、その大蛇が姿を消した方へ。そろり、そろりと歩み寄る・・そしてそこで二人が目にしたものは、
そこには、色白で美しい女が座っているではありませんか。そして、その女の腹を見ると大きく膨らんでいる。赤子でも孕んでいるのだろうと思い、九兵衛が女に声をかける・・
「こんなどごでいったい何してんだ?こごはあぶねがら、さぁ!こっちさ!」手を伸ばす九兵衛。
そしてその女・・
「動けやしないよ・・たった今、呑んだとこなんだよ・・」
そう言って、赤い目を久兵衛に向けると、チロッと舌を出す。そしてなんと、その舌の先は二股に分かれているではありませんか!
九兵衛とおくに、サァーッと血の気が失せてゆく・・
「ぎゃぁー!」
血相を変え逃げてゆく、九兵衛とおくになのでありました。
その池に白い大蛇が現れたという話、この平五郎の口から瞬く間に里中に広まってまいります。話を聞いた里人はもう、その道を通ることなど出来やぁいたしません。ましてや黄昏時などに通ろうなど、誰一人思いも致しません。泣いている子供がいれば「泣ぐど、あの大蛇がこごさやってきて喰われっと!」といったようなことを申しますと、泣く子も黙るといった塩梅でございます。
人の噂も七十五日とはよく言ったもの、そんな恐ろしいい噂ばなしも、季節が夏から秋へ変わろうとしたそのころにはもう薄れ、人々の記憶から遠ざかってまいります。
とある日一組の男女が、隣部落に自分らでこしらえた籠などを持ち糧にでもしようと池の淵を歩いております。
「そうゆえばこの池にはえがい白蛇がいるそうな?」男は”おくに”に話しかけます。
「やだ九兵衛さん!そんなこと言ってあたいを脅がそうってのかい?」
「いやいや、噂だよ、噂・・」
そんなことを聞いたものですからこのおくにさん、気丈に振舞ってはおりますが生きた心地などしておりません。風が吹き木立が揺れただけでも、九兵衛のその腕をしっかりと掴み放そうとしない。すると・・
二羽の鴨が池から飛び立ちます。バサバサッと羽音をあたりに響かせる。驚く二人。すると、水際の水草が大きく揺れ出します。
「ガサガサーッ!」
そして現れたのはあの白い大蛇。飛び立とうとした鴨を目掛け大きな口を開けたかと思うと・・
「バクッッ!」
一羽の鴨をひと呑みにした!それを見ていたおくにと九兵衛、もう腰が抜けるほど仰天しております。しかし、怖いもの見たさも手伝ってか、その大蛇が姿を消した方へ。そろり、そろりと歩み寄る・・そしてそこで二人が目にしたものは、
そこには、色白で美しい女が座っているではありませんか。そして、その女の腹を見ると大きく膨らんでいる。赤子でも孕んでいるのだろうと思い、九兵衛が女に声をかける・・
「こんなどごでいったい何してんだ?こごはあぶねがら、さぁ!こっちさ!」手を伸ばす九兵衛。
そしてその女・・
「動けやしないよ・・たった今、呑んだとこなんだよ・・」
そう言って、赤い目を久兵衛に向けると、チロッと舌を出す。そしてなんと、その舌の先は二股に分かれているではありませんか!
九兵衛とおくに、サァーッと血の気が失せてゆく・・
「ぎゃぁー!」
血相を変え逃げてゆく、九兵衛とおくになのでありました。
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