龍神  

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龍神池

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 夕暮れが迫り不気味な気配を醸し出すこの池。これまで名前などございませんでしたが、誰が名付けるわけでもなく、”龍神池”と呼ばれるようになっております。

 肝を冷やした九兵衛とおくにでしたが、この夫婦めおと、売り物の籠に”龍神籠”などと名付け始めております。昔から白蛇は縁起が良いとされており、その伝えと相まってこの籠、飛ぶように売れてまいります。しかも、龍神池の葦などを使っているという触れ込みでございます。この夫婦の繁盛ぶりを真似ようと、龍神池には多くの里人がその葦やらを採りに大勢詰めかけたということでございます。

 やがて龍神池の水辺の葦は徐々に少なくなりそのせいか、龍神池は年々その姿を小さくしていったということでございます。この界隈を里人は長田おさだと呼んでおりました。



 それから40余年の歳月が経ったころ、龍神池はもうすっかり姿を変え、すすきなどの生い茂る湿地と化しております。そして、湿気しっけ部落という部落の里人たちが、田畑でんぱたを広げるがため、長田を開墾しようと一決したのでありました。

 天保三年(1832)今から190年ほど前のおはなしでございます。

 里人は大蛇の棲むという龍神池辺を恐る恐る開墾いたします。やがて開墾され現れし土地坪。しかし、大蛇の姿などはどこにも見当たらないのでありました。

 そのころの長田の東北一面には大きな松が密生しております。昼なお暗く、それは薄気味の悪い松の林。

 ある日その松林で一人、平五郎地坪ひごろじ(方言)の市次郎というまだ年のころ三十路みそじほどでございましょうか、薪割をしております。すると、藪の中から大きな低い”いびき”にも似た音がしてまいります。・・

「ブッグゥー・ブッグゥー・・」

「いったい、こんなどごで誰が寝でんだ?」と不思議に市次郎。その音のする藪の方に近寄ってゆく。抜き足、差し足・そろり・そろり・・ するとそこには、そうあの白い大蛇が蜷局とぐろを巻いて眠っているではありませんか!

それを見た市次郎、驚いて・・

「ドスーンッ」

しりもちをつくと腰を抜かしてしまいます。大蛇はその物音に気付き目を覚まし、赤く冷たい目でその様子を見つめると、市次郎を気にすることもなく、また寝息を立てて寝てしまったそうな。

その隙に市次郎、両手を後ろにつきつき、必死にあとずさる。

そこへちょうど、軍次という一人の男が通りかかります。

「どしたぁ?」








   
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