龍神  

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大蛇の祟り

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 ただものならぬことが起こったのだと瞬時に察した、軍次。

「おめ、だいじょぶが?」市次郎に近寄ると、その顔色は屍の如く血の気が失せております。

「あぁ!こりゃてえへんだぁ。しっかりしろ!いったいどしたんだ」
市次郎、ようやくの思いで藪の方を指さします。すると、あの音が軍次の耳にも聞こえてまいります。恐る恐る、藪をかき分け歩み寄る、そしてそこで見たものは・・

「ひゃぁ~!」

軍次、全身の身の毛がよだち、サーッと血の気が引いてゆく。慌てふためき、持っていたものなど構わず投げ捨てると、市次郎を肩に担ぎ一目散にその場から逃げ出したぁー!

どこをどう逃げたのか、どれぐらいの時が経ったのか。気が付くと一面に罌粟けしの花が咲き誇る草原の只中に。そして、市次郎をそっと横たえる。

「はぁはぁ、はぁ~・・もうだいじぶだぞ・・」

すると市次郎、今にも死にそうなか細い声で何か言っております。「なにぃ?」

「し・白い蛇女が・・」

 白い蛇女と訊いて軍次、またサァーと青ざめる。そう、あのとき軍次が見たのも白い女、腹が異様に大きく膨れた女。そして軍次にこう言ったのです。

「お前も、呑んでやろうか・・」

 
 軍次は市次郎の家を聞き出すと、肩を貸し引きずるように歩き出します。

「いち!どしたんだぁ!」

 父であろうその男は、市次郎の変わり果てた姿を見て叫びます。

「化け物に逢って、たまげでしまったよだ!さ、早く寝床を!」  

市次郎は謎の高熱に三日三晩うなされ、とうとう数日後、その息を引き取ってしまったということでございます。

 この噂は瞬く間に里人に広まります。


「大蛇の祟りだ!」

  ・・誰知れず言い出すのでありました。



 やがて時が過ぎ、龍神池周辺の荒れ地も開墾され姿を変えてまいります。住処を奪われてしまったこの大蛇、知らぬ間にその姿をどこかへくらましてしまったということでございます。

 そのころからでしょうか、里には凶作が続き、加えて大火やら地震などが起きると、これはあの大蛇の祟りだと言い始めるものちらほらと。そして、一人の湿気部落の若者がこう言い出します。

「大蛇を祀って、お宮をつくっぺ!」

 そしてお宮が祀られることにあいなりました。場所はかつて竜神池のあった池のほとり、見晴らしの良い小高い丘の上に決まります。お宮の名を”龍神宮”と称し、その大蛇をご神体としてあい唱え、祭日は師走の初巳の日と定め、大蛇を祀りたてまつったのであります。

時は天保五年(1834)今から180年ほど前の出来事でございます。

































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