短編集(恋愛)

柊原 ゆず

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愛の大きさ

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 ずっとずっと好きだった奈々ちゃんと付き合うことになった。真っ赤な顔で告白をする僕に、彼女は笑った。形のいい唇が弧を描き、僕の心臓はドキリと跳ねた。





 奈々ちゃんはとても美しい。黒く艶のある、彼女の性格を模したような真っ直ぐな髪も、硝子玉のような綺麗な瞳も、スレンダーな身体も、彼女を構成するもの全てが愛おしい。時間さえ合えば彼女とずっと一緒にいたい。そう思うのは可笑しなことなのだろうか。

「来週の土曜日?その日は友達と遊ぶから……ごめん」

 奈々ちゃんはスマートフォンをいじりながらそう言った。多分それは嘘だ。彼女は嘘を吐く時、決して僕と目を合わせない。久々のデートなのに買い物ばかりで、いや楽しそうに買い物をする彼女を見るのは嬉しいけれど、たまにはゆっくり彼女とお話がしたい。けれど今日のデートのタイムリミットは1時間。現在時刻は五時。ディナーに誘ったけれど断られてしまった。恋人のデートってこんなに短いものなのか?最近はどんどん会う時間が減っているように思うと胸がぎゅう、と締め付けられるように苦しい。

「じゃ、じゃあ、次はいつ会う?」
「……そうね、来月の二十八日はどう?」
「一か月後?」

 僕の言葉に奈々ちゃんが顔を顰めた。

「なに?駄目なの?」
「……いや、駄目じゃないけど……」

 僕はなんとか声を絞り出す。ねえ、僕達って本当に恋人なのかな。喉から出かかった言葉をココアで流し入れる。連絡をとっても返事が来るのは良くて三日後、一週間後だったりする。僕ばっかりが彼女を好きで、僕ばっかりがこうして悩んで傷付いて、僕ばっかりがこうして自己嫌悪に陥っている。奈々ちゃんは真面目で誠実な人だから浮気はない。仕事が激務で疲れているのも知ってる。だから時間を作って会ってくれるのは嬉しいけれど、でも。それでも。
 これじゃあ、片想いしていた時と一緒だ。いいや、今の方がもっと辛い。一度両想いになった後に再び片想いに戻る方が辛いに決まっている。
 ……そうか。そもそも、僕と彼女は両想いではないんだ。僕の彼女を想う気持ちは彼女が僕を想う気持ちよりもはるかに大きい。僕はずっとずっと片想いだったんだ。

「じゃあ、またね」

 タイムリミットがきたようだ。彼女は伝票をさっと奪って支払いに行く。僕が奢るよと言ったけれど、買い物に付き合ってもらったからと譲ってもらえなかった。時折見せる彼女の優しさが、今日も僕の心臓をぎゅうと掴んで離してくれない。

Fin.
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