短編集

柊原 ゆず

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根暗天使ちゃんは今日も便所メシ

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 天使という言葉を聞いた時、頭に浮かぶのは金髪のパーマに真っ白い羽を生やした赤ん坊だろうか。それとも、白いワンピースを着た美しい女性だろうか。私は何を隠そう、天使様だ。重苦しい長髪の黒髪を生やした、白いズボンに、少しよれたYシャツを着た冴えない女でも天使なのだから笑える。人間達の天使への妄想に近い想いは私を見れば粉々に砕かれてしまうだろう。
 天使の仕事は多岐に渡るが、一番は恋愛成就だ。人間が絶滅してしまわないように、天使がサポートしている。しかし、恋愛成就が専門の恋愛課に所属しているのは人間の世界で言う『陽キャ』が多い。ウェーイ!という謎の掛け声を出し、自慢の矢で人間を射抜く。射抜かれた人間は近くにいる人間を運命の相手だと思い込んでしまう。一人が射抜かれたのを確認し、近くにいるもう一人を射抜けば、強引ではあるが恋愛に発展する。陽キャの天使はそれを見届けて仕事完了だ。さて、そんなスバラシイお仕事に何故か私が配属されてしまった。陽キャだらけの部署に、根暗の私が。最悪だった。私は腹いせに、仕事をこっそりと妨害することにした。陽キャの天使の中には、矢を放ち、その先を見届けることなく仕事を終わらせてしまうやる気のない天使がいる。私はそいつを狙う。射抜いた矢を弾くように、私は矢を放つ。こうしてしまえば、矢は人間に刺さることなく消える。恋愛成就できず、彼らの評価は落ちるだろう。
 今日も私はサボりがちな天使の矢を弾く。これで奴も評価が落ちるだろう。それもこれも、夜な夜な遊んでばかりいるからだ。ざまあみろ。私は心の中でほくそ笑んだ。





 あり得ない。私は愕然とした表情で職場に展示されている成績表を見た。成績表の一位には私の名前が書かれていた。

「いやあ、素晴らしい!君の矢のコントロールには目を見張るものがあるね」

 上司が褒めるのを、私はどこか他人事のように聞いていた。いやいや、私は毎日妨害していたのであって、恋愛成就なんかさせていない筈だ。

「彼女の見事な弓さばきを見て参考にしなさい」

 そう言って上司はスクリーンに映像を映した。低血圧で酷い顔をしている私が映っている。え、何これ私?そもそもこんなものいつ撮ってたんだ。やばい。このままだと妨害行為が公になる……。けれど上司に口を出して睨まれるのも怖くて、私は結局何も言い出せなかった。スクリーンには、酷い顔をした私が弓を構えて、矢を放つ。矢はもう一つの矢を弾く。しかし矢の威力は弱まらず、人間の左胸に突き刺さった。

「おお……!」

 映像を見ていた天使達が声を上げる。

「彼女の矢は、他の矢が当たったのにも関わらず、見事心臓に刺さった。彼女の矢のほとんどが心臓を射抜いている。これは脅威のコントロール力だろう」

 ど、どうやら妨害行為とは見なされなかったようだ。私はひとまず胸を撫で下ろしたが、私は恋愛成就を妨害していたようできっちりと仕事をしていたらしい。複雑な気分だ。

「君の活躍には期待しているよ」

 上司は私の肩を叩いた。期待が私の肩に重くのしかかる。ああ、やはり邪な考えは自滅を導くのか。失敗した。私は他の天使の羨望の眼差しに耐えきれず、トイレに逃げ込んだ。これからどうするかはお昼ご飯を食べながら考えることにしよう。私は深い深いため息を吐いた。

Fin.
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