シロツメグサの花輪

柊原 ゆず

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シロツメグサの花輪

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「おにーちゃん、みてみて!」

 僕の作った花輪を頭に乗せて笑う妹の琴は花の精のように可憐で汚れがない。

「かわいい?」

 あどけない笑顔で首を傾げる姿に、僕まで笑みがこぼれてしまう。僕は琴の頭を優しく撫でた。

「ああ、とっても似合っているよ」

 僕の言葉に、琴は嬉しそうに飛び跳ねる。その可愛さと言ったら筆舌につくしがたいほど尊い。僕はその尊さを残しておきたくて、カメラで彼女を収めていく。
 いつか、彼女は大人になってしまう。成長の途中で傷付いてふさぎ込んでしまうことがあるかもしれない。そうならないように、妹の笑顔が翳ることのないように、僕が守ってあげないと。僕はあどけない笑顔を見つめて心に誓うのだった。





 私の兄は過保護だ。十ほど歳の離れた兄は、どんなに忙しくても通学の時には必ず付き添ってくれたし、お弁当も作ってくれた。普通は母親が作るんじゃないの?という友人の疑問に、初めてこれは少しおかしいのかなと気が付いた。後日、母親に聞いてみると、兄が作りたいと言い出したのだと言っていた。けれど兄に直接聞くのは気まずくてできず、私は結局高校を卒業するまで兄にお弁当を作らせてしまっていた。
 大学生になり、お酒を飲めるようになってから、兄は少し変わった。飲み会の後、必ず迎えに来るようになった。兄に連絡した覚えはない飲み会の時でもそれは変わらなかった。

「琴ちゃんのお兄さん、ちょっと怖いよ」

 友人の言葉に、兄は過保護の域を超えているとようやく理解した。私は兄に内緒で、就職活動を始めた。実家から遠く離れた場所にある勤め先。そこならば、過保護の兄と離れられるだろう。
 私は大学を卒業してすぐに家を出た。荷造りをしたら気付かれると思ったので、身一つで電車に乗った。兄は最後まで気付くことなく、私が家を出る時も普段と変わりない声で見送ってくれた。





 土地勘のない場所での生活は想像以上に大変だった。新社会人としての疲労も加わり、休日は専ら寝てばかりの怠惰な生活を送っていた。
 ピンポーン、とインターホンの音が鳴った。宅急便は頼んでないし、友人との予定もない。不思議に思い、インターホンの画面を見て、私は小さく悲鳴を上げた。

「な……なんで……」

 そこには、兄がいた。兄はニコニコと笑みを浮かべて、インターホンを見つめている。

「水臭いじゃないか、琴。お兄ちゃんに引っ越しのことを言わないなんて。お兄ちゃん、寂しかったよ」
「ど、どうして……?!」
「僕は琴のお兄ちゃんだよ?琴の考えてることは手に取るように分かるんだ」

 兄の優しい声は普段と変わらない。それが何よりも怖い。

「いつまでもお兄ちゃんに頼るのは忍びないと思ったんだろう?琴は優しい子だからね。でも、お兄ちゃんに頼っていいんだよ。お兄ちゃんはいつでも琴の味方だからね」

 だから、ここを開けて。
 インターホンの音が何度も何度も部屋に響く。兄はきっと、怒っているのだ。優しい声はそのままでも、目が冷え冷えとしている。私は耳を塞いだ。どうか夢であってくれ、と願いながら。

Fin.
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