あなたはヒーローです

柊原 ゆず

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あなたはヒーローです

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 僕はヒーローになりたい。困っている人がいたら真っ先に駆けて行って助けたい。僕がそう思うようになったのは、中学生の頃。本物のヒーローに出会ったからだ。僕が財布を落として困っていた時、道を通りがかった女性が一緒に探してくれたのだ。結局財布は河川敷にあった。どうぞ、と差し出した時の彼女の笑顔。眩しくてまともに見ることができなかった。僕も彼女のようになりたい。そう強く願ったのだった。





 生きる意味って何だろう。私はぐるぐると考えていた。けれどこういう哲学的なことって答えは出ないのだ。大昔から人類が考えていたことだもの。たかが二十数年の若造に分かるはずがないのだ。けれど、考える。考えずにはいられない。

「あっ!」

 前方で声がした。鞄を背負った男が私を見て目を輝かせている。これはよく分からないが関わらない方がいい。そう本能が告げていたが、男はずんずんと近付き私の手を取った。

「あ、あの!あの時は!どうもありがとうございました!」
「……は?」

 この男と私に接点はない。初対面だ。だが、男は構わずに私の手を取ってぶんぶんと振る。

「ほんっとうに助かりました!」
「えっと、一先ず落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか!僕のヒーローに再会したんですから!」
「……え?」

 ヒーローという聞き慣れない言葉に首を傾げた。男は更に熱を上げる。

「困っていた僕に、颯爽と現れて助けてくれた!あなたは僕のヒーローなんです!」

 鼻息荒い男に、やんわりと距離を取りつつ状況を整理する。

「ええっと……仮に私があなたを助けたとして、それはいつですか?」
「中学生の頃なので、五年前ですね!今は大学生です!」
「それは聞いてないです。五年前、ですか……。場所は?」
「神奈川です!大学に入る前は神奈川にある実家に住んでいたので」
「……やはり人違いですね」
「そんなことないです!」
「聞いてください。私、五年前は青森にいたんですよ。上京したのは去年。つまり、出会いようがないです。ヒーローではなくてごめんなさい」
「そんな……!そんなはずは!あなたの泣き黒子を忘れた日はありません!」

 曰く、そのヒーローにも泣き黒子があるらしい。男は諦めが悪く、否定するのが面倒になった私は彼のヒーローになってしまったのだった。





 あれから、ヒーローになりたい男、広田 修に付きまとわれるようになった。一人ぼっちのキャンパスライフが賑やかになっていく。私は次第に生きる意味など忘れて彼のヒーロー活動という名の人助けを手伝った。最初は嫌々手伝わされていたが、今では率先して人助けをするようになった。
 けれど修の最期は呆気なかった。彼は交通事故にあい帰らぬ人となった。ヒーローも車には勝てなかったのだ。私は茫然としたまま彼の亡骸を見つめていた。





 時は経ち、技術が進歩しタイムマシンの研究が進んだ。私は技術者の一人だ。修が死んでから、私はタイムマシンを作ろうと決めた。一人ぼっちでいると色々なことを考えてしまうから、研究者を募って研究に没頭した。それはもう、心が亡くなるくらいに。ようやく試作段階となり、私は危険を顧みず装置を起動させた。
 橙色の夕暮れ。途方に暮れて立ち尽くす少年がいる。私は彼を見て、亡くなっていた心が息を吹き返すのを感じた。修だ。幼いけれど、修がいる。私はあふれ出る涙を服の袖で拭って、彼に話しかけた。

「どうしたんですか?」
「あの、財布を無くしてしまって……」
「それはお困りですね。一緒に探しましょう」
「……!いいんですか?」
「ええ」

 ふと、既視感を覚える。どこかで聞いたことのある話だ。確か財布は河川敷に……。河川敷を探すと、そこに財布があった。……そうか。そういうことだったのか。私は潤む瞳で精一杯の笑みを浮かべる。

「どうぞ」

 財布を差し出すと、少年の瞳に光が宿り、キラキラと輝く。もっとよく見たいのに涙で視界がぼやけて、よく見えない。ありがとう、修。私を覚えていてくれて。私をヒーローだと言ってくれて。
 私に生きる意味を見出してくれたのはあなただった。あなたはとっくにヒーローだったのよ。

Fin.
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