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戦力増強
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右肩に鋭い痛みが走ったと思ったが、ルイナが見たところ、そこそこの重症であることが判明した。
骨が折れて、肉が抉れていた。
おそらく剣の斬撃の切断を透明マントが緩和し、衝撃のみがこちらにきた結果、このような感じになったらしい。
透明マントなしでそのまま斬られたら、肩は先は持っていかれていただろう。
「見えてたのか、見えていないのか、わからないけれど、あの一瞬ですぐに判断して、対応するなんてね」
「あの男はお前に焦点はあっていなかったから見えていなかったと思うが、姿が消えても迷わずに剣を振るっていたからな。まるでお前が何かしらの介入をすることを予期していたように」
「接触する回数が多かったからハロルドには私が何を考えているのか、ある程度わかるからね」
わかると言っても瞬時にあの場所で対応することが不可能なことを考えると、前もって私がクリスたちと関係があると警戒していたことになるが、タイミングはいつ頃だろう。
私とクリスが騎士団の前に現れたのは全滅させた白翼騎士団前だけなので、知るとすれば必然あの中にいたことになる。
おおよそ他の有力な貴族たちからあそこから逃れるための誘いが来たはずだとういうのに、それを蹴ってあそこに逗留したというのだろうか。
王位を引き継がなければならないという大義名分があるハロルドが残る理由などないのだが。
「前からの知り合いか。大の男のくせに、年端も行かない少女を警戒する奴とよく知り合えたものだな」
「魔王軍幹部のくせに年端の行かない少女に顎で使われてる人には言われたくないと思うよ」
「それはそれ。これはこれだ。私は第一お前に生殺与奪を握られているからな。それに比べて、あれはお前が非力な無職だという時点でビビっている」
「無職の時点でって。よくそんなことがわかるね」
「前もって警戒していなければあの一瞬は掴めんからな」
この戦端が開かれる前からずっと私を警戒していたか。
無職で最弱と言っても過言ではない私を恐れる理由などないはずなのだが。
だからこそ私を憐れんで、ハロルドは教えなどで施しをしたのだろうし。
どこか釈然としないことはあるが、今は事実の方を重視した方がいいので、対策を考えた方がいいか。
「確かにそうだね。できれば私に対して抱いている警戒を解除してくれればいいんだけど」
「無理だろ。一度抱いた恐れは決して消えないからな」
「じゃあ、ハロルドは打倒するしか選択肢はないのか。今は力をもっているから厄介なんだけどな」
戦力をぶつけて、どうにかするしかないだろうが、力をもってしまったぶん、ハロルドをどうにかできる人間が限られる。
今私の知っている人員としては目下のところはクリスしかいない。
あの技の威力の大きさを考えれば、万端の状態ではクリスでも敵わない可能性はあるが。
クリスで抑えられるようならば、できるだけ早くに収めるられるのがいい。
もし野放しにしていて冠斬を山ゴブリンの村に使われたと思うとヒヤヒヤする。
その場合、武器庫にある備蓄やルイナから下賜される形でもらっている寝床も全てを失う。
何に襲われるかわかったものでない野宿など正気の沙汰ではない。
勇者パーティーではそうするしか他に道がなかったから、仕方なくしたが、自由になった現在絶対にしたくない。
360°無防備な警戒を夜の間行うのだ。
交代制で回したとしても体力がどんどんと目減りしていくことは目に見えている。
「唯一いいことは大体ハロルドがどのあたりにいるということが把握できていることくらいだけど」
「そういえばお前は人族であるから、大隊の判別ができるのだったな」
まるで人族であることを忘れていたような言い草だ。
この世のほぼ最強格に近いこいつから見たら、羽虫に近いかもしれないが、そのまま口に出すとは。
正直が原因で魔王の反感を買ったりしなかったのだろうか。
「忘れるのが早いね。神灯騎士団ーー現在麓にいる4騎士団いるうちの山側から3番目の騎士団にいるから、襲撃を仕掛ける時には比較的にスムーズにできると思うけど」
「一番奥にある大隊が戦線を捲って、その神灯騎士団とやらが戦線を維持する役割で動かんから狙いやすいというわけか」
クリス自身が最前線に出るタイプだったので、軍略については門外漢だと思ったが、配置から役割を察して、私の言っていることに瞬時に理解した。
軍隊の動かし方には様々なものがあるが、一番使われているのは両端に攻めるのに強い部隊を配置して、両橋から敵の軍隊を押さえ込んで、そのまま押しつぶすように両端から攻めていくもので、私のように記録を見ていたものや、用兵術を学んでいるものでなければこの基本的な方ですら知る事はない。
力だけではなく、それなりに教養を持っていることを考えるとクリスは割と魔族の中でも名のある家のものなのかもしれない。
「その通り。だから基本的に敵をあそこで惹きつけているはずだから、まずあそこからは動く事はない。勇者の力で魔族を一瞬で消滅する力を持っていて、実際に消滅させているけれども、基本的に前もって決められてる指示は絶対だからそこから一気呵成に西へ東へみたいな感じで破竹の勢いの活躍をするために動き回ることはない。そうすると前もって指示を出していた軍師は面白くないし、うまく行かなかった場合は厳しい処罰があるから」
「人族はメンツばかり気にして本当にしょうもないな。実力があるものが行けると判断したらそのまま動かした方がいいというのに」
「軍師も女神から与えられた職業だから、そんなことしたら、軍師含めて女神を否定したことになって異端審問にかけられるよ」
「そういえばただ気まぐれに祝福を与える女神に人族は絶対服従だったな。別段崇めたところで特別に何かをよこすわけでもないというのに」
「神様を本当に崇めているていうより、王族の絶対性を維持するための大義名分に近いから、聖職者類縁以外のほとんどのものは周りのものを警戒して従っているだけだよ」
私は生まれてこの方騎士団でずっと管理されていたので、平民の実際の生活については知るべくもないが、王族本人のハロルドが話していたことなので、間違いはないはずだ。
「ほう、女神自身を崇めとらんか。今はあの女神はもう王都には君臨しておらんのか」
今まで黙々と薬草と神聖術を合わせて、私の肩の治療をしていたルイナが声を上げた。
どうやらルイナが人族領にまだいたころーー300年以上前には女神がそっくりそのまま王都にいたようだ。
王都には女神がいた形跡などは一切なかったが、ダンジョンの奥に封じられていたアミーの話によると信仰が神にとっては大事だと言っていたので、理にそぐわない気がする。
王都に居たと言うのならば、王都を聖地にして君臨すれば、信仰も集められるというのに、わざわざ何もせずに放置するとは。
「いないね。逆に居たことさえ知らなかったよ」
「当時はよく祭りや大会などに顔を出しておったが、流石にどこぞに引っ込んだのかの。まるで自分がこの場の顔みたいな感じで偉ぶっておったのにけったいな奴じゃ」
「ダンジョンの奥で自称神様に会ったけど、信仰が大事って言ってたから、おかしいんだよね、それ。冗談で言ってるわけじゃなくて、事実だよね、それって」
「ダンジョンの奥底で神にあった!? お主の方こそ冗談を言うでない。確かに与太話にはそう言ったものがあるが、なにが楽しくてダンジョンの奥で燻っとるんじゃ」
「そうだ。お前が最下層まで言ってダンジョンを攻略したのは知っているが、ダンジョンの奥底に神がいるなど聞いたこともないぞ」
こっちが冗談ではないかと確認したら、逆にこちらが冗談を言ったと思われた。
こっちとしては嘘ではないので、否定をされても困るのだが、確かにダンジョンに神様が居たという話は聞いたことがない。
「魔族領にあるダンジョンも奥底に神様が居たことはないんだ」
「ない。魔族領にあるダンジョンで攻略済みのダンジョンは三つあるが、そのどれも奥には広大な最終層に幾つかのとんでもない性能の遺物と外に出るための転移陣があるだけで神などいるとは聞いたことがない」
人族側から遠征に行くたびにダンジョンを発見されているのだが、攻略されているものは三つしかないのか。
二桁は超えていると踏んでいたが、これほど少ないとほ思ってもいなかった。
遺物の存在を知っているなら多少の犠牲を払ってでも、攻略しに行くと思うのだが。
「遺物があるのに、なんでそんなに少ないの?」
「旨みがないからだ。進める層はすでに遺物のない空き箱だらけな上、下に行けるのはよりにもよって国の宝とされる強者のみ。ほとんど有用なものが手に入らない場所に、替えの効かない人材をほぼ高確率で死なせに行かせるわけがない。ダンジョンのことはいいだろう。つまらん冗談を言った弁解をしてくれ」
割に合わないか。
精強なものが多いと言われる魔族においても、ダンジョンの攻略は容易なものではないのか。
そういえば今まで圧倒的な力を見せつけてきたクリスであっても、ダンジョンから這い出してきた時は途中の層であってもかなり疲弊していた。
魔族の最高の実力者である魔王の次点である魔王軍幹部でさえ、攻略途中で力尽きかけることを考えれば、確かにダンジョン攻略をしてもほとんどのものは命を散らせるだけで終わる。
そう思うと、今回転移罠にかかって、途中の凶悪な魔物たちをショートカットして最終層まで行けたことは、死にかけはしたが幸運だったかもしれない。
まず順当にクリスたちと共に行ったとしても時間的にも実力的にも不可能なことだったのだから。
「神様にあった証明になるかはわからないけれど。マジックバッグの遺物を発見して、膨大な量の遺物を持ってくるのは流石に、そうでないとできないんじゃない」
「膨大な量? そのマジックバッグには大量に遺物が詰まってるのか?」
「こ、小娘!! それを早く言わんか! ほれ、今全快したから出してみろ」
クリスたちが知らない情報について、知っていると思って喋るうっかりをしてしまい、しまったと思うとクリスたちはびっくりした顔をして、遺物を見せるように促してきた。
肩の調子を確認しながら、ルイナの部屋の壁に立てかけてあるマジックバッグを持ち上げる。
まだ私自体把握しきれてないので、後日把握してから今回の件で必要な分だけ出そうと思っていたが、隠し立てして、不信感を抱かれてもしょうがないので素直に取り出すことにする。
「じゃあ、出すね」
マジックバッグを開けると、手を入れる。
全部出すのにどれだけの時間がかかるかと思うと、マジックバッグの口から手を押しのけて、一人でに遺物が溢れ始めた。
遺物の数が膨大すぎるせいか、勢いは止まらずに、部屋の中を圧迫し始めた。
「家が弾けるぞい! カバンから出すのをやめるんじゃ!」
「なんだこの量は!」
遺物の波に半ば飲み込まれたルイナが悲鳴を上げ、クリスが量の多さに驚愕する。
二人の反応から私の先ほどの話を裏付けるのには十分な量だと確信したので、遺物を戻す。
「これで私の言葉は信じてくれたかな」
「現物を見た今でも信じられないが、確かにあれは遺物だった。信じるより他にないだろう」
「長い人生の中でこんなけったいな光景を見る日があるとは想像もしておらんかったわ。神がお主に手を貸したおいうのは本当らしい」
「その神が信仰がないと地上に出られないって言ってたのに、女神がわざわざそれに反するような態度をとっているのが不気味なんだよね」
「単なる気まぐれかと思ったが、確かにそうなれば。今お主らの元におる女神はとても奇妙なことをしておるな。普通に考えれば自傷行為をしているのに等しい」
ルイナはかなり長い年月を生きているので、女神の奇行のことに何か情報を引き出せるかと思っていたが、流石に王国を離れていた時間の方が長いため、難しいようだ。
不気味ではなあるが、神のことについては一度置いといて、見せた遺物についてどう取り扱うか、話をした方がいいか。
「情報がない今、神についてはこれ以上はわかりそうはないし、大量に手に入れた遺物の取り扱いについて相談した方が良さそうだね」
「それが建設的だろう。夕暮れごろに出会ったあいつらは私が万全な状態であろうと難しいからな。できれば確実に仕留めるためには遺物によるサポートがいる」
疲弊していなかっとしてもクリスが圧倒するのは難しいと予想するとは、かなり相性が悪かったようだ。
不遇な王子と言うこともあり、一部の者からは気に入られていないこともあり、ハロルドは割と心を開いている人間が少ないので、それの関係でクリスのスキルに乗るバフの量が制限されていると言う感じだろうか。
「キック力増強とか、そういう類のサポート?」
「遺物がどれだけ上げられるか、わからんからな。それよりもある程度相手の動きを抑えられるものが欲しい」
クリスが攻め手にかけるというよりもは、ハロルドの防御が固い感じか。
だからできるだけ隙を作れるようにして、攻めるタイミングを設けることが大事ということだろう。
「動きを抑えられるものか。あるかどうかは、まだ確認したことはないからわからないけど、あったらそっちによこすよ」
「一見したところそれらしいものはなかったが、ダンジョンでは武器にしか用途を見出せん遺物ばかり出てくるところや、逆に武器以外にしか使い道がないところもある。お主の方は武器以外の方というところか?」
「そうじゃないね。今のところ武器も豊富にあるし、武器以外のものも豊富にある。ただ移動系や転移系の遺物は退散するときに使ったヤツくらいでかなり少ないかな。おおよそ、それ以外は割となんでもあるような気がするけど」
「ふむ。では儂のところは、槍、剣、弓の遺物を貸してもらえるかの。あれば今ある兵力が大幅に増強できる」
武器系の遺物の貸し出しか。
私が今、保持したままままにしておいても、特段上手く使えるわけでもないので、職業で補正があるものや技術があるものが使った方がいいので理にかなっているだろう。
こっちも鼻からその気だったし、断る理由もない。
「いいよ。多分武器の方はこの村で使える人よりも数が多いだろうから。使いやすいものを厳選してから渡すことにするよ」
「おお、厳選までしてくれるか。助かるの」
ルイナが目を細めてニコニコすると、私の治療の際に手持ち無沙汰にしていたついでに行われていた遺物についての話はお開きになった。
骨が折れて、肉が抉れていた。
おそらく剣の斬撃の切断を透明マントが緩和し、衝撃のみがこちらにきた結果、このような感じになったらしい。
透明マントなしでそのまま斬られたら、肩は先は持っていかれていただろう。
「見えてたのか、見えていないのか、わからないけれど、あの一瞬ですぐに判断して、対応するなんてね」
「あの男はお前に焦点はあっていなかったから見えていなかったと思うが、姿が消えても迷わずに剣を振るっていたからな。まるでお前が何かしらの介入をすることを予期していたように」
「接触する回数が多かったからハロルドには私が何を考えているのか、ある程度わかるからね」
わかると言っても瞬時にあの場所で対応することが不可能なことを考えると、前もって私がクリスたちと関係があると警戒していたことになるが、タイミングはいつ頃だろう。
私とクリスが騎士団の前に現れたのは全滅させた白翼騎士団前だけなので、知るとすれば必然あの中にいたことになる。
おおよそ他の有力な貴族たちからあそこから逃れるための誘いが来たはずだとういうのに、それを蹴ってあそこに逗留したというのだろうか。
王位を引き継がなければならないという大義名分があるハロルドが残る理由などないのだが。
「前からの知り合いか。大の男のくせに、年端も行かない少女を警戒する奴とよく知り合えたものだな」
「魔王軍幹部のくせに年端の行かない少女に顎で使われてる人には言われたくないと思うよ」
「それはそれ。これはこれだ。私は第一お前に生殺与奪を握られているからな。それに比べて、あれはお前が非力な無職だという時点でビビっている」
「無職の時点でって。よくそんなことがわかるね」
「前もって警戒していなければあの一瞬は掴めんからな」
この戦端が開かれる前からずっと私を警戒していたか。
無職で最弱と言っても過言ではない私を恐れる理由などないはずなのだが。
だからこそ私を憐れんで、ハロルドは教えなどで施しをしたのだろうし。
どこか釈然としないことはあるが、今は事実の方を重視した方がいいので、対策を考えた方がいいか。
「確かにそうだね。できれば私に対して抱いている警戒を解除してくれればいいんだけど」
「無理だろ。一度抱いた恐れは決して消えないからな」
「じゃあ、ハロルドは打倒するしか選択肢はないのか。今は力をもっているから厄介なんだけどな」
戦力をぶつけて、どうにかするしかないだろうが、力をもってしまったぶん、ハロルドをどうにかできる人間が限られる。
今私の知っている人員としては目下のところはクリスしかいない。
あの技の威力の大きさを考えれば、万端の状態ではクリスでも敵わない可能性はあるが。
クリスで抑えられるようならば、できるだけ早くに収めるられるのがいい。
もし野放しにしていて冠斬を山ゴブリンの村に使われたと思うとヒヤヒヤする。
その場合、武器庫にある備蓄やルイナから下賜される形でもらっている寝床も全てを失う。
何に襲われるかわかったものでない野宿など正気の沙汰ではない。
勇者パーティーではそうするしか他に道がなかったから、仕方なくしたが、自由になった現在絶対にしたくない。
360°無防備な警戒を夜の間行うのだ。
交代制で回したとしても体力がどんどんと目減りしていくことは目に見えている。
「唯一いいことは大体ハロルドがどのあたりにいるということが把握できていることくらいだけど」
「そういえばお前は人族であるから、大隊の判別ができるのだったな」
まるで人族であることを忘れていたような言い草だ。
この世のほぼ最強格に近いこいつから見たら、羽虫に近いかもしれないが、そのまま口に出すとは。
正直が原因で魔王の反感を買ったりしなかったのだろうか。
「忘れるのが早いね。神灯騎士団ーー現在麓にいる4騎士団いるうちの山側から3番目の騎士団にいるから、襲撃を仕掛ける時には比較的にスムーズにできると思うけど」
「一番奥にある大隊が戦線を捲って、その神灯騎士団とやらが戦線を維持する役割で動かんから狙いやすいというわけか」
クリス自身が最前線に出るタイプだったので、軍略については門外漢だと思ったが、配置から役割を察して、私の言っていることに瞬時に理解した。
軍隊の動かし方には様々なものがあるが、一番使われているのは両端に攻めるのに強い部隊を配置して、両橋から敵の軍隊を押さえ込んで、そのまま押しつぶすように両端から攻めていくもので、私のように記録を見ていたものや、用兵術を学んでいるものでなければこの基本的な方ですら知る事はない。
力だけではなく、それなりに教養を持っていることを考えるとクリスは割と魔族の中でも名のある家のものなのかもしれない。
「その通り。だから基本的に敵をあそこで惹きつけているはずだから、まずあそこからは動く事はない。勇者の力で魔族を一瞬で消滅する力を持っていて、実際に消滅させているけれども、基本的に前もって決められてる指示は絶対だからそこから一気呵成に西へ東へみたいな感じで破竹の勢いの活躍をするために動き回ることはない。そうすると前もって指示を出していた軍師は面白くないし、うまく行かなかった場合は厳しい処罰があるから」
「人族はメンツばかり気にして本当にしょうもないな。実力があるものが行けると判断したらそのまま動かした方がいいというのに」
「軍師も女神から与えられた職業だから、そんなことしたら、軍師含めて女神を否定したことになって異端審問にかけられるよ」
「そういえばただ気まぐれに祝福を与える女神に人族は絶対服従だったな。別段崇めたところで特別に何かをよこすわけでもないというのに」
「神様を本当に崇めているていうより、王族の絶対性を維持するための大義名分に近いから、聖職者類縁以外のほとんどのものは周りのものを警戒して従っているだけだよ」
私は生まれてこの方騎士団でずっと管理されていたので、平民の実際の生活については知るべくもないが、王族本人のハロルドが話していたことなので、間違いはないはずだ。
「ほう、女神自身を崇めとらんか。今はあの女神はもう王都には君臨しておらんのか」
今まで黙々と薬草と神聖術を合わせて、私の肩の治療をしていたルイナが声を上げた。
どうやらルイナが人族領にまだいたころーー300年以上前には女神がそっくりそのまま王都にいたようだ。
王都には女神がいた形跡などは一切なかったが、ダンジョンの奥に封じられていたアミーの話によると信仰が神にとっては大事だと言っていたので、理にそぐわない気がする。
王都に居たと言うのならば、王都を聖地にして君臨すれば、信仰も集められるというのに、わざわざ何もせずに放置するとは。
「いないね。逆に居たことさえ知らなかったよ」
「当時はよく祭りや大会などに顔を出しておったが、流石にどこぞに引っ込んだのかの。まるで自分がこの場の顔みたいな感じで偉ぶっておったのにけったいな奴じゃ」
「ダンジョンの奥で自称神様に会ったけど、信仰が大事って言ってたから、おかしいんだよね、それ。冗談で言ってるわけじゃなくて、事実だよね、それって」
「ダンジョンの奥底で神にあった!? お主の方こそ冗談を言うでない。確かに与太話にはそう言ったものがあるが、なにが楽しくてダンジョンの奥で燻っとるんじゃ」
「そうだ。お前が最下層まで言ってダンジョンを攻略したのは知っているが、ダンジョンの奥底に神がいるなど聞いたこともないぞ」
こっちが冗談ではないかと確認したら、逆にこちらが冗談を言ったと思われた。
こっちとしては嘘ではないので、否定をされても困るのだが、確かにダンジョンに神様が居たという話は聞いたことがない。
「魔族領にあるダンジョンも奥底に神様が居たことはないんだ」
「ない。魔族領にあるダンジョンで攻略済みのダンジョンは三つあるが、そのどれも奥には広大な最終層に幾つかのとんでもない性能の遺物と外に出るための転移陣があるだけで神などいるとは聞いたことがない」
人族側から遠征に行くたびにダンジョンを発見されているのだが、攻略されているものは三つしかないのか。
二桁は超えていると踏んでいたが、これほど少ないとほ思ってもいなかった。
遺物の存在を知っているなら多少の犠牲を払ってでも、攻略しに行くと思うのだが。
「遺物があるのに、なんでそんなに少ないの?」
「旨みがないからだ。進める層はすでに遺物のない空き箱だらけな上、下に行けるのはよりにもよって国の宝とされる強者のみ。ほとんど有用なものが手に入らない場所に、替えの効かない人材をほぼ高確率で死なせに行かせるわけがない。ダンジョンのことはいいだろう。つまらん冗談を言った弁解をしてくれ」
割に合わないか。
精強なものが多いと言われる魔族においても、ダンジョンの攻略は容易なものではないのか。
そういえば今まで圧倒的な力を見せつけてきたクリスであっても、ダンジョンから這い出してきた時は途中の層であってもかなり疲弊していた。
魔族の最高の実力者である魔王の次点である魔王軍幹部でさえ、攻略途中で力尽きかけることを考えれば、確かにダンジョン攻略をしてもほとんどのものは命を散らせるだけで終わる。
そう思うと、今回転移罠にかかって、途中の凶悪な魔物たちをショートカットして最終層まで行けたことは、死にかけはしたが幸運だったかもしれない。
まず順当にクリスたちと共に行ったとしても時間的にも実力的にも不可能なことだったのだから。
「神様にあった証明になるかはわからないけれど。マジックバッグの遺物を発見して、膨大な量の遺物を持ってくるのは流石に、そうでないとできないんじゃない」
「膨大な量? そのマジックバッグには大量に遺物が詰まってるのか?」
「こ、小娘!! それを早く言わんか! ほれ、今全快したから出してみろ」
クリスたちが知らない情報について、知っていると思って喋るうっかりをしてしまい、しまったと思うとクリスたちはびっくりした顔をして、遺物を見せるように促してきた。
肩の調子を確認しながら、ルイナの部屋の壁に立てかけてあるマジックバッグを持ち上げる。
まだ私自体把握しきれてないので、後日把握してから今回の件で必要な分だけ出そうと思っていたが、隠し立てして、不信感を抱かれてもしょうがないので素直に取り出すことにする。
「じゃあ、出すね」
マジックバッグを開けると、手を入れる。
全部出すのにどれだけの時間がかかるかと思うと、マジックバッグの口から手を押しのけて、一人でに遺物が溢れ始めた。
遺物の数が膨大すぎるせいか、勢いは止まらずに、部屋の中を圧迫し始めた。
「家が弾けるぞい! カバンから出すのをやめるんじゃ!」
「なんだこの量は!」
遺物の波に半ば飲み込まれたルイナが悲鳴を上げ、クリスが量の多さに驚愕する。
二人の反応から私の先ほどの話を裏付けるのには十分な量だと確信したので、遺物を戻す。
「これで私の言葉は信じてくれたかな」
「現物を見た今でも信じられないが、確かにあれは遺物だった。信じるより他にないだろう」
「長い人生の中でこんなけったいな光景を見る日があるとは想像もしておらんかったわ。神がお主に手を貸したおいうのは本当らしい」
「その神が信仰がないと地上に出られないって言ってたのに、女神がわざわざそれに反するような態度をとっているのが不気味なんだよね」
「単なる気まぐれかと思ったが、確かにそうなれば。今お主らの元におる女神はとても奇妙なことをしておるな。普通に考えれば自傷行為をしているのに等しい」
ルイナはかなり長い年月を生きているので、女神の奇行のことに何か情報を引き出せるかと思っていたが、流石に王国を離れていた時間の方が長いため、難しいようだ。
不気味ではなあるが、神のことについては一度置いといて、見せた遺物についてどう取り扱うか、話をした方がいいか。
「情報がない今、神についてはこれ以上はわかりそうはないし、大量に手に入れた遺物の取り扱いについて相談した方が良さそうだね」
「それが建設的だろう。夕暮れごろに出会ったあいつらは私が万全な状態であろうと難しいからな。できれば確実に仕留めるためには遺物によるサポートがいる」
疲弊していなかっとしてもクリスが圧倒するのは難しいと予想するとは、かなり相性が悪かったようだ。
不遇な王子と言うこともあり、一部の者からは気に入られていないこともあり、ハロルドは割と心を開いている人間が少ないので、それの関係でクリスのスキルに乗るバフの量が制限されていると言う感じだろうか。
「キック力増強とか、そういう類のサポート?」
「遺物がどれだけ上げられるか、わからんからな。それよりもある程度相手の動きを抑えられるものが欲しい」
クリスが攻め手にかけるというよりもは、ハロルドの防御が固い感じか。
だからできるだけ隙を作れるようにして、攻めるタイミングを設けることが大事ということだろう。
「動きを抑えられるものか。あるかどうかは、まだ確認したことはないからわからないけど、あったらそっちによこすよ」
「一見したところそれらしいものはなかったが、ダンジョンでは武器にしか用途を見出せん遺物ばかり出てくるところや、逆に武器以外にしか使い道がないところもある。お主の方は武器以外の方というところか?」
「そうじゃないね。今のところ武器も豊富にあるし、武器以外のものも豊富にある。ただ移動系や転移系の遺物は退散するときに使ったヤツくらいでかなり少ないかな。おおよそ、それ以外は割となんでもあるような気がするけど」
「ふむ。では儂のところは、槍、剣、弓の遺物を貸してもらえるかの。あれば今ある兵力が大幅に増強できる」
武器系の遺物の貸し出しか。
私が今、保持したままままにしておいても、特段上手く使えるわけでもないので、職業で補正があるものや技術があるものが使った方がいいので理にかなっているだろう。
こっちも鼻からその気だったし、断る理由もない。
「いいよ。多分武器の方はこの村で使える人よりも数が多いだろうから。使いやすいものを厳選してから渡すことにするよ」
「おお、厳選までしてくれるか。助かるの」
ルイナが目を細めてニコニコすると、私の治療の際に手持ち無沙汰にしていたついでに行われていた遺物についての話はお開きになった。
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勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
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