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騎士団長
しおりを挟む全ての準備が整った。
ハロルドは万全とはいえないが、今回のことでの第一目標は必ず実行できると自負している。
朝日を浴びて馬を走らせ、合流した団長たちに今回の狙いを伝える。
本来計画されていた作戦内容を変更することでなるので、団長達は色のいい返事は返さなかったが。
二人の団長ともに渋々ながらそれに答えた。
一重にハロルドが次期国王であるため、心象を悪くしたいという打算もあったが、何よりも無策で勇者を圧倒し続ける魔王軍幹部を打ち倒せるビジョンが見えなかったこともあった。
それだけこの戦いに置いて、騎士団に2人の魔王軍幹部が見せつけた力量の大きさがあまりにも大きかったという証拠でもある。
大隊を壊滅させられ、さらには2度にわたって、勇者を圧倒している状態を、人族は経験をしたことがなかったのだ。
流石に面の皮の厚い上級貴族の出のものが多い団長達ともいえども、このことでも強硬な態度を示すことができるわけもなく、危険性の大きさからハロルドに追従するを得なかった。
それでも唯一抱いている野心といえば、もし魔王幹部を仕留められなかった時にハロルドを強請り、なんらかの形で口止め料をもらうことくらいのものだ。
「おのれ、魔王軍幹部!」
魔王軍幹部のせいで、もしかしたら自分にデガン山を管理する権利が転がり込んでくるかもしれないと思っていたのに、その権利が不意になってしまった聖血騎士団団長ゴドンは不服そうに吐き捨てる。
侯爵家の血筋であり、戦場にいれば、勝手に他の騎士の手柄が、自分の手柄になる立場にいた彼にとって、一番避けたい事態だと言うのに、魔王軍幹部という邪魔者のせいで回避することができないのが非常に腹立たしい。
近くに抱えている奴隷がいれば、腹いせに頭を握りつぶしているところだ。
「ゴドン侯爵、急がれるな。将とは後方にて対局を常に見極めるものです」
ゴドンが苛立ち紛れに後ろを振り返ると、馬上にありながらも気品のある佇まいを保っている老紳士の姿が見えた。
「バジルか。ふん! まだ村までは距離がある。こんなところでやや先行しようが気にすることではないわ!」
老紳士ーー蒼炎騎士団団長バジルに対して、悪態をつきつつも、実質トップとも言える実力を持った彼の忠告に従いつつゴドンは馬の走るスピードを落として、後方に下がっていく。
「これだから戦場は嫌いなのだ。どうでもいいことを守らねば、命を容易く落とす危険性が爆発的に上がる上、卑賎な身分のものらの言うことを聞かねばならん」
嫌味を言ってもニコニコしているバジルの様子に苛立ちを感じつつ、騒ぎを起こしてハロルドの心象を悪くてもことなので、抑えて大人しくしつつ進軍する。
ハロルドはその様子を見つつ、聖血騎士団は軍事的な行動については不向きであると悟り、戦略的に動かずとも盾として役に立てる最前線に配置することを決定した。
最前線というのは忌み嫌われるものであるし、生存率も低くはあるが、初めから勝算が低い戦いの場合ーー全滅する可能性のある戦いに置いては、それほど優れたものでなくとも犬死を避けることができ、一つの救いとなる。
ハロルドなりの慈しみの心ゆえの決断だった。
「負傷兵は何人まで戦える状態に持っていける?」
「全員戦える状態に仕上げられますぞ陛下」
マスキオは途方もなく多い千近くの負傷兵がいるというのに、あっけからんとそう答え。
流石のハロルドもその言葉に驚かされる。
数もさることながら、負傷の程度も足や手が欠損しているものや、骨が折れているものなど、それなりに重症のものもいるというのに、それを完全に全員復帰させられるという事実などもはや神所業と言っても遜色ない。
前から腕は高いとは思っていたが、これほどまでの高みにマスキオがいるとは思っても見なかった。
戦に置いて、ここまでずば抜けたスキル持ちがいるということは何にも変え難いアドバンテージだ。
常であればマスキオがいれば、かなり楽に戦を展開させられる。
一つ不穏なこととしては、なぜそれほどの力がありながらも、今まで力を示されなかったのか、気になるが、野暮なことを聞いて、マスキオの協力を得られない方が悪手だと悟り、そのことについては一旦伏せることにした。
「さすがだな。お前と組めることを誇りに思う」
「私のような生臭坊主には勿体無いお言葉。さらなる期待に応えられるように精進したいと思います」
マスキオは殊勝な言葉を吐きながらも、頭の中ではどうやってノインを奪取できるかを模索していた。
とりあえずの策としては負傷兵を復活させて、兵のかさ増しをして、その中に混じり、混乱の中で彼女の元を目指すというようなものくらいだ。
マスキオは基本後方で負傷者を治療しているため具体的な前線がどのようなものであるか、イメージが曖昧であるため、現実に即した作戦が練れなかった。
一番最善であるのは、ハロルドに対して兵法の手解きを受けることだが、目的があまりにも不順であるため、その手段は使えなった。
「見えてきたぞ。あれがゴブリンの村だ」
そう計画を練っていると、目的地が見え、ハロルドが大きな門を指差した。
少し離れた位置で総員が降りて、ハロルドが剣を構えて冠斬を飛ばす準備に入った。
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