17 / 85
攻略失敗
しおりを挟む沼の底から浮上するような感覚に襲われ、目が覚めた。
覚めたというのに心臓が早鐘を打ち、身体のあちこちに幻痛が走る。
最悪な気持ちで周りを見ると、甲冑に囲まれていた。
一瞬モンスターかと思い、ぎょっとしたがすぐにモンスターではないと理解する。
ここは迷宮の中ではなく、青空の下なのだから。
迷宮の外でモンスターが出るはずがない。
そう結論付けて落ち着くと、聞きなれたため息が聞こえた。
「はあ、やっと、目覚めましたか……」
アルテマイヤが実に忌々しそうにつぶやいた。
そちらを見ると甲冑に身を預けるアルテマイヤとトリシュ、仰向けに寝かされたダウニーがいた。
トリシュを見ると、あの化け物の台詞が思い出され、幻痛が増す。
笑い声と腐乱死体の顔がフラッシュバックした。
悪夢よりひどい内容だったのに、胸糞の悪い気持ちはそれよりもひどくない。
あれはリアルだったがどこか嘘くさかったのだ。
アイツは何だったのか?いきなり出て来て、超常を起こしたあれは。
「気分最悪……。何だったんだ、あれ?」
「何だったて、どっちのことですか? あなたの晒した失態のこと? それともあなたがやられたモンスターのこと?」
「……どっちもだよ」
アルテマイヤの舌鋒にやるせない気持ちで返事をする。
本当のところ、自分の失態など知りたくない。
だが正確に知らないままで済ませ、また同じ失敗を繰り返すのはごめんだ。
「しょうがないですね……。説明してあげましょう」
アルテマイヤの勿体ぶるいい方にやきもきするが、文句を言って腹を曲げられても面白くない。
ここは我慢して聞くしかないだろう。
トリシュに聞くという手もあるがあのエレベーターを見た後、接するのは精神的にダメージを負うのでできるだけ避けたい。
コホン。
わざとらしくアルテマイヤがしわぶきをして、脇に逸れた思考が止まる。
「まずあなたの失態は幻覚にかけられ、魔法を周りに乱れ打ちしたこと。そのおかげで危うく、けがをするところでした」
確かにあの時、死体共に噛みつかれ魔法を必死に乱打した覚えがある。
幻覚に囚われていたとは言え、えげつないことをした。
やられる方は溜ったものではあるまい。
だが腐乱死体が襲い掛かって来る状態で、抵抗をするなというのもなかなかに厳しいものがある気がする。
「次に、あなたが、情けない叫び声をあげて敗北したモンスターのことを説明します。先ほど、説明したように幻覚をかけるタイプのものです。トリシュと私の情報を共有した結果あれについて、わかったことは三つあります。
一つ目は、姿を視認しても、視認しなくとも幻覚にかけられること。
二つ目は、幻覚を解除できる者と、解除できない者がいること。
三つ目は、解除したものに共通していたことは、見せられた幻覚について、どうでもいいと思っていたこと。
情報を整理するために聞きますが、どうして幻覚を解くことができなかったのですか?」
アルテマイヤは責めるような口調で尋ねてくる。
責める口調になるのもしょうがないだろう。
足手纏いになった上、その理由がいまいち理解できないのだから。
解けなかった理由はわかっているし、説明もできる。だができれば、それはしたくない。
それをすればトリシュに自分がやらかしたことがバレ、俺の幻覚に対する攻略はさらに絶望的になる。
説明などしても何も改善されず、さらに悪くなるだけなのだ。
積んだ。俺はこれに対して、何も出来ない。
詰問するアルテマイヤに視線を返すだけで何もできない。
「うう……何が起きたんですか?」
俺とアルテマイヤが膠着した状態でいると、ダウニーが眼を覚ました。
アルテマイヤは俺を睨みつけると
「あなたのような役たたずに時間を割いても無駄だとわかりました。事情はダウニー様から聞きます。せいぜいそこで静かにしていなさい」
そういい捨てて、顔の青いダウニーに向き直る。
アルテマイヤがダウニーに向き直って状況を説明している間が、一瞬のように感じられた。
アルテマイヤが俺にした質問をダウニーにするときになって、時間の感覚が戻る。
「それは、僕が父上に失望されることを恐れている、からでしょう。父上に失望される場面見て、どうでもいい?そんな風に、割り切れるわけがありません。僕は父上に失望されれば、ただの殺人鬼なんですから……」
ダウニーはうめくような声でそう漏らす。
彼が何を言ってるのかはわからないが、声の調子と“殺人鬼”という単語から今ここで改善できるような代物ではないことは理解できた。
俺たちに《騎士の栄光》を攻略することは無理だろう。
あちらのモンスターは俺とダウニーとあまりにも相性が悪すぎる。
この少年もわかっただろう。
あれを克服するなど無理だと。
「明日、再度《騎士の栄光》に入ります」
少年は俺が想像したことと真逆の事を言った。
また入る?このざまなのに?
何を考えたらそんな結論に至るのだ。
また同じ結果になるのは目に見えているだろうが。
正気かと思い、ダウニーを見ると青い顔をしたまま口を動かし始めた。
「僕はそれまでにディンクス卿に頼んで集中的に稽古を行います。それでも幻覚を克服できる可能性は低いでしょう。
すみませんが、リード殿。迷宮攻略を辞退していただいてよろしいでしょうか?」
一瞬何を言ってるんだこいつはと思った。
だがすぐに奴が言わんとしていることを理解する。
ダウニーが幻覚にかかっても足手まといが一人減れば、トリシュとアルテマイヤでフォローできるということだ。
理にかなっている。その方法なら攻略もできないことはないだろう。
俺にはノーという理由も、資格もない。
「ああ、それがいい。俺はもう無理だ」
もうどうでもよくなった。
たったとこの胸糞の悪い場所から離れたい。
その一心で俺はその場からは離れた。
0
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる