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荒野の中に一人でいるのはつらい
しおりを挟むシェイムが怒鳴って、睨みつけるのもしょうがない。
千載一遇のチャンスで敵をかばう。どう考えてもふざけた行為だ。
それをするのはこちら側でなく、敵側だろう。
俺はかばった以外にも、学園側の人間が知らないはずのショットの名前を呼んだこともある。
内通者が馬脚を露したと思ってもなんの不思議はない。
シェイムが何を考えているかなどわからないが、その態度はこちらの行為を責めているだけではなさそうだ。
「もう少しで、もう少しで……! こんなバカげた侵略が終わったというのに! なぜ魔王をかばった!?」
困惑、怒り、悲しみ。その声はそれらすべてを内包していた。
だから俺は誤魔化しなど一切通じないと理解した。
こいつらに俺が言える言葉は限られている。
「死んでほしくなかったからだ」
それが、俺が応えられる一番誠実な言葉だった。
だがそんなもので相手が満足できるわけもない。シェイムは眉間を歪ませ、さらに怒りを募らせた。
「くだらねえ……。とんだ茶番だ……」
シェイムの怒号が飛ぶかと思っていると、苦し気なショットの声が耳を打った。
ショットの方をむくと奴は背を向けて、こちらから遠ざかって行っていた。
シェイムはショットを止めるためか、『メテオ』を発動しかけたが、悔しそうに歯噛みすると途中で放棄した。
シェイムは何かを抑え込むように俯くと口を開いた。
「リーデンブルク、あんたは信用できない。僕たちとはもうかかわらないでくれ」
そのままよろよろと立ち上がると少し離れたところから見ていた師匠の元に向かった。
それから、風魔法の応用か。師匠を抱えると風の奔流を纏って飛んでいた。
飛んでいくときに俺を見る師匠の表情は悲しそうだった。
俺は荒野に一人残された。
―|―|―
さてここからどうしたものか?
学園には帰れないし、近くの街に行くにしてもどっちに行けば街があるかもわからない。
「はあ……どうしたらいいとおもう?」
「情けない声で聴かないでくださいよ。自分がやった事でしょ」
スリートはこちらの質問に答えず、俺の態度をなじる。
至極真っ当だが、こんな時くらい励ましてくれてもいいじゃないだろうか。
「そうだな。自分でやらかしたんだから方針くらい自分で決めなきゃな」
ない頭で愚考する。
当初の予定ではシェイムをできるだけ魔王と接触をさせないようにしていた訳だが、今の状況ではそれは無理だ。
魔王に接触をさせないなど、シェイムに近づけない俺ができるわけがないし、できたとしても信用を失っているので奴が俺の言うことに耳を傾けるわけもない。
じゃあどうすればいいていうんだ。このままほっといて、今の学園の状況では魔王が侵攻してきたら、シェイムが出張るしかない都合上、確実に狂う。
今回だけでも、シェイムはかなり精神的に応えていたし、これから何度も侵攻されて持つとは思えない。
逃げられない状況で、何度も死に目に会わされて平気の奴の方がおかしいだろう。
そんな拷問みたいな目にあわされれば、俺だったらすぐ狂う自信がある。
一度だってトラウマものなのだ。耐えられて二回が限度だ。
手が打てないからといって、このままほっておくわけにはいかない。それはトリシュ、アルテマイヤ、エラーを見捨てるのと同義だ。
考えろ。何かあるはずだ。
何か手が。
学園に近づけない俺にとれる手は何だ。
今からショットを屈服させに行く。
ダメだ。練気を解除できたとしても、一瞬。
その隙を俺の魔法が捕らえることはかなり怪しい上、当てたとしても手加減ができずに殺してしまう可能性が高い。
ショットを説得する。
今の奴は見ただけで、荒れているとわかるくらいに危うい。説得途中に殺される可能性があるし、とてもじゃないが、俺の言葉を聞かない可能性もある。
これもダメだ。
くそ!頭がポンコツなせいでもう焼きが回ってきた。
魔王とショットを接触させないことは不可能としか考えられない。
どうにもならない事態に苛立ちが募る。
一度冷静になった方がいいだろう。熱くなった頭からではいいアイデアが出てくるわけもない。
何もない青空を見て心を落ち着かせる。
もう一度目的を確認しよう。
俺の目的は、シェイムが発狂した挙句、深淵を暴走させることをふせぐこと。
目的を確認することで自分の視野が狭まっていたことに気づいた。
俺の目的はシェイムを発狂させないだけでなく、深淵を暴走させないことでも達成できる。
深淵を暴走させないことは簡単だ。ダンジョンコアを破壊して、深淵そのものをなくせばいい。
その場合、確実にシェイムは狂う。だが、俺が助けたいのはエラー達であって、奴ではない。
深淵を破壊するという目的は理にかなっているような気がした。
それに今とれる手段で一番目が在るのはこれしかない。
早速、行動を開始しよう。
先ず、ショットを見つけなければならない。
「スリート、今からショットと手を組みに行く。奴の位置を探る事は出来ないか」
「そうですね。魔力が半月分溜ればできますが、今は無理ですね。さっき、練気を飛ばしたことで全部使いましたし。それにしても、シェイムに入れ込んでいたようですけど、そんなことをして本当にいいんですか?」
「別にあいつに入れ込んでいた訳じゃない。日本人の精神として何かが死ぬていうことに抵抗があるだけだ」
「そうですか」
スリートの声を聴くと、俺はショットが向かった方向に歩き始めた。
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