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肉の壁の向こう側
しおりを挟む流動する肉の渦の中に飲み込まれていくと、突然目に光が差し込んだ。
眩しい光に目が慣れてくると、いつぞや見た魔王の間にいることがわかった。
壁には本棚など存在せず、多少様相は異なっている。だ玉座とそこに座る魔王自身を見せつけられ、そう理解せざるをえなかった。
一日ぶりに見る魔王は変わり果てていた。
頬はコケ、目は猛禽類のように鋭くなり、服は薄汚れていた。
あの健康で溌剌とした雰囲気は感じられない。
かろうじて、奴が同じ人物だと分かったのは金髪と青い瞳のおかげだ。
それ以外はすべてが一日前とは異なっている。目つき、雰囲気、姿勢、態度……あますところなく全て。
俺に背を向けた奴はこんなものではなかった。一体何があったというのか。
「見られていますよ」
魔王の異様に目を奪われていると、スリートがそう耳元で囁いてきた。
見られている。お互いに見ているのではなくて一方的に見られているということ。
ここには、俺と魔王以外にも第三者がいるという事だ。不安をあおるような事実だ。
ショットならばいいが、学園の面々であれば最悪だ。俺が逃げられないよう、包囲網を形成していることになる。
俺が第三者への不安に駆られていると魔王が口を開けた。
「リーデンブルク、君は一体どうしてこんなことをするんだ? どうして僕たちの平穏を壊そうとするんだ……。僕たちがなにをして、なにをやって、何を引き起こした? 僕たちは何もやっていないはずだ!なのにどうして!」
質問調ではあるが、それは質問ではなかった。嘆きと怒号だ。
悲しみと怒りが溢れんばかりにその言葉の端々にはうかがえた。
シェイムの感情が決壊しているのだと分かった。それほどまでに追い込まれているのだろうこの男は。
あの時見せた背中は最後のやせ我慢だったのかもしれない。
「僕と同じように力のない君なら僕の気持ちが分かったはずだ。魔王の前で戦うことがどれだけ恐ろしいか? いつ魔王が侵攻してくることがそれだけの不安をあおるのか? ……全部分かったはずだ。なのになんでこんな仕打ちをする!? 君が案内などしなければ、魔王が来るまでまだ余裕あったはずだ! なぜここまでの道程を魔王に教え、あまつさえ共に侵攻してきた!?」
シェイムはまるで叫ばなければやっていられないように激しくまくしたてる。奴が言っている事は至極当然だというのに怒りが込み上げてきた。
もとはといえば、誰のせいで俺がこんなことする羽目になった? 全部力があるお前が無力だと勘違いし、恐れたことが原因だ!
恐れの余り、未来で契約を迫り、殺し、挙句の果てに深淵の化け者にかえた。
お前に俺をなじる権利などない。
「お前のすることがすべて気に食わないからだ。俺はお前が作るもの、積み上げるものすべてを壊さないと、逆にすべてを失う……。だから俺はお前のすべてを壊す。それしか他に道がないんだよ」
気づけばそう口走っていた。魔王は強い眼光で睨みつけてくる。
俺はそれにこたえるようにその目を睨み返した。
「君は狂っている。あの最悪の魔王、ラルフ・フリッシュと同じだ。始神にかかわったものをすべて虐殺するあの女に! お前らこそ殺されるべきだ。すべての平穏を食い殺す化け物共が!」
絶叫と共に、魔王は玉座から立ち上がった。
奴は我慢の限界らしい。俺もこいつには憎しみしか湧いてこなかったところだ。
ちょうどいいだろう。
こいつは生きていてはいけない。
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