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同乗者
しおりを挟むレッドは目をギラギラさせて、まるで刃のように眼光を尖らせる。
そして、さらに目を細めて、どこかを睨みつけた。
父の視線の先には何もないが、確かにその目は何かを捉えていた。
レッドの何か抑圧された憎しみのようなものが伝わって来る。
しばらくすると、レッドは自らを落ち着けるように目を伏せた。
「……わが国に侵攻してきた魔王が原因なのです。奴は我が軍を蹴散らすと、国王を見せしめに殺し、王の遺体を弄んで、罪人を処刑しなければ虐殺を行うと宣言させました。国民たちは国王の無残な亡骸と深淵の異形を見せつけられることで恐怖に震え、罪人たちを処刑することに躍起に……」
レッドは開かない口から無理やり言葉をひねり出すようにそう告げる。
まだ皆まで行ってないが途中で口は閉じられた。
だが、もう十分だった。
それを語る父の様子はあまりにも痛々しくみていられない。
だというのにレッドは歯を軋ませると、それが責務だと言わんばかりに、口をひらいた。
「……そこから我が国の崩壊が始まりました。国民たちは牢屋に閉じ込められた罪人の処刑を要求し、それが叶うと、魔王が蘇らせた罪人たちに誑かされ、自分たちの中で罪人と思うものを処刑し始めました。
魔王の侵攻で壊滅状態だった我が軍でしたが、無法状態になった国民を放置するわけにいかず、暴動を止めに入りましたが、国民たちは我々を『戦争を理由に人を殺める人殺し』と罵り罪人認定し、我々の処刑に取り掛かりました。こちらに襲い掛かてくる国民に我々は対処することができず、情けなくも国の外に撤退し、今の状況となっています」
経緯を語り終えると、レッドは顔を上げ、再びどこかを睨みつけた。
これだけの目に会って、それを語るのはかなり堪えただろう。
おそらくかなり消耗していると思うが、尋ねなければいけないことがあるのでレッドにはもう少し我慢してもらう。
「申し訳ないですけど、罪人が蘇ったというところが気になったので詳しく聞かせてもらえませんか?」
顔色を窺いながら尋ねると、眉間に力入れて耐えるようにしてレッドは口を開いた。
「罪人たちは確かに処刑人によって処刑されたあと地中に埋められたはずですが、突如深淵の方から歩いてきて、『罪あるものはまだいるはずだ』という言葉を吐き、国民たちを焚きつけていきました。おそらくそんな奇妙なことができるのは魔王しかいないので魔王の術か何かだと思われます」
魔王の術か……。蘇生かどうかはわからないがそれに類するものかもしれない。
魔王とはできれば、接触をすることは避けたかったが、接触する必要ができてしまった。
「死者を弄ぶのは教会の人間として許せませんね。レッドさん、ロース村にはまた戻るのでしょうか。是非とも戻るのであれば力添えさせてもいらいたい」
おそらく話の口調からロース村を奪還しようとしているレッドに同行を申し出る。
レッドはこちらの真意を推し量るように瞳を覗き込んできた。
「神父様、生きて帰れるかはわかりません。それでも我らについていくというのですか?」
そして、低い厳しい声音でレッドは尋ねてきた。
「ええ、もちろん。覚悟は決まってます。私はロース村に縁のあるものといったでしょう。このまま見捨てることは私自身も遠く離れた同士も許すことはできません」
俺がそう言うと、こちらに焦点を当て続けていた目をレッドは閉じた。
「覚悟は本物のようですな。神父様、奪還作戦の途中は私の指示に従ってもらいます。約束できますかな?」
「約束できます」
こちらの返事を聞くとレッドは大きく頷いた。
「いい返事です。そういえば、お名前を聞いてしませんでしたな。名前は何と申されます?」
「リードといいます。家名は在りません」
そういうとレッドは少し虚を突かれたような顔をしたが、すぐにいつも通りのいかめしい表情に戻った。
「リード様ですか。ではそう呼ばせもらいましょう」
リード様か……。実の父に様付けで呼ばせるというのは罪悪感が強すぎる。
「これからはロース村を奪還するための同志なのです。お互いに敬語をやめてタメ口で呼び合いましょう」
「神父様がそうお言いになさるならそうしましょう。じゃあ、早速。よろしくな、リード」
「ああ、よろしく頼む。レッド」
タメ口を使って、初めてレッドと本物の会話したような気がした。
昔のように父上と呼ぶまではいけていないが。
それはロース村を奪還した後にしよう。
「お前のおかげで俺の傷も回復したし、もう準備は十分だろう。あそこの馬車に乗っている餓鬼族の方々に準備ができたと伝えてくる」
レッドはそういうと俺に背を向けて、テントの幌を開けようとした。すると、レッドが引いた幌は逆側に開かれ、テントの中に男が入って来た。
身長の高い男で、腰に差した見ればわかるほど禍々しい剣と爽やかな顔が、対照的だ。
そこまでなら、ちょっと変な剣を持ったイケメンのお兄さんで終わるのだが。
マナが可視化されているせいで、俺には目の前にいる男に膨大なマナが吸収され、規格外の練気が形成されている様が見えてしまった。
目の前に立っているのは人の形をとった化け物だということがすぐに分かった。
俺は奴の表情から敵意がないとわかっていたが、思わず立ち上がって身構えってしまう。
男は身構える俺と近くにいるレッドを交互に見て、口を開いた。
「どうも、共に同乗させていただくこととなった、流浪の者のホットと申します。よろしくおねがいします」
それは荒れ狂うような練気とは裏腹に、礼儀正しい挨拶だった。
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