バッドエンド・クレイジーナイト~Storia per dare a Giunone~

白井 雲

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真坂 深頼 2

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生徒会長 真坂 深頼とひょんな事から恋人役に任命された僕。
それは光栄な事だったが、何しろ彼女は学園でもトップクラスに人気が高い。
その美貌、その学力優秀さ、その雄弁さは他を圧倒するレベルである。ファンもいるらしい。
噂は学校中を駆け巡った。
お陰様で周りからの視線を痛いぐらいに感じる羽目になった。
と、僕のいる席に1人の男子生徒が近づいて来た。
稲築 レン(いなつき れん)だ。

「聞いたぜ?あの生徒会長と恋人になったんだって?おめでとうだな!大事にしろよー!」

誰のせいでこうなったと思ってやがる。
まあ、直接関係しているわけではないが。
そんなこんなで僕はいま大変気苦労していた。
正直言わせてもらえれば”一人ぼっちで過ごしていたあの日に戻りたい”。
あと、恋人ではない。恋人役だ。

「お困りみたいだね?助けてあげようか?」

と、僕の前に誰かが居る。
またレンの奴が冷やかしにでも来たのかと嫌そうな眼で僕は顔を上げ見上げた。
見ればそいつは女子生徒だった。
オレンジの髪が華やかに見え、サイドテールが特徴的な彼女は僕の顔をジッと見つめていた。

「えっと、な、何か?」
「困ってるんでしょ?」
「いや、別に困ってません。ありがとうございました」
「いや、君は困ってるね。見ていれば分かるよ」
「どこをどう見たらそう見えるんだよ?ただ疲れたように机にうつ伏せになってるだけだよ。」

すると彼女はいきなり笑い出した。
突然の奇行に僕は一瞬言葉を失った。
と、彼女は僕の耳にそっと口を近づけ、言った。

「久しぶりだね、四乃原 語。あたしだよ、黛 鳳夏(まゆずみ ほうか)。ほら、小学校のとき同じクラスメイトだったでしょ?」
「え?……………あ、ああ!鳳夏!」

僕の記憶に一つ、覚えがあった。
おてんばでいつもしっちゃかめっちゃかな言動や行動ばかりをして周囲を悩ませていたあの少女だ。
当時のクラスメイトとの感動の再会、かもしれないが実際の僕はと言ったらそこまで感動はしないし、かといっても驚きもない。

「あんた……今なんか失礼なこと考えてなかった?」
「全然。別に知られても大したことないことだよ。ホントにホント」
「あっそ、変わんないわねあんたは。」
「君が変わりすぎているだけだよ。」
「ところでさ」

いきなり話を転換された。

「あんた、今困ってんじゃない?しかもそれは彼女に関することで」

と、鳳夏は廊下の一点を指差した。
見ればそこにはただ1人廊下に佇み、窓を開けて外の景色を見ていた生徒会長ーーー真坂 深頼の姿があった。
だが彼女の華やかさが際立ってしまいかなり目立っている。
もう、すごい。何だか可哀想に思える位に彼女の存在感は目立っている。
現に通りかかる生徒たちはみんな彼女の背後を恐る恐る通りがかるぐらいに。
女子生徒たちは相変わらず熱視線を送っている。
百合はあまり好みではないからこのあたりの話はこれきりにする。

「当たった?」
「まあね。けど、一方的にだよ。僕はなんとなく彼女の偽物の彼氏になっちゃっただけ。だから、別にこれといって関係をこれ以上どうにかしたいとかさ、発展させたいとかそんなんこれっぽっちも考えてないよ」

まあ嘘だが。

「嘘だね。」

当てられた。

「な、なんで分かんの!?」
「分かるよ。だって四乃原ってバカだもん。」
「それ、理由になってないよ。単なる悪口でしか無いよ。」
「だから嘘が下手くそってこと。四乃原って昔からそうだけど誤魔化そうとして嘘つくじゃん?それさ、あたしらにしてみたらかなりバレバレだからね。」
「…………………。」
「要するに、バカってこと。分かった?」
「分からないよ!無理やり納得させんな!」

こいつこそ、全く変わりばえしない。
その性格や話し口調ですら、あの頃のままだ。

「昔のよしみだしね、どう?私が手助けしてあげようか?安くしときますよ!」
「金取るのかよ!人の悩みで商売するなよ!」
「その冗談が通用しないところも昔から変わんないよね」
「変わらない人は、一切変わることを知らないんだよ」
「まあ、任しておいてよ私が上手くいくように手助けしてあげるから。」
「仮にも僕と彼女は仮の関係だからね。そこからどう進展するかによって僕の青春は変化していくんだから。頼んだよ!」
「大袈裟な物言いも相変わらずだね。」

いささか不安だった。
何せ彼女に任せて上手くいった試しがなかったからだ。
小学校の頃はその所為もあってか、あまり良い思い出がなかった。
彼女だけのせいでもないが大抵は彼女が関連しているのもまた事実だった。
それに僕の眼の前で嬉々としている姿を目にしたら、僕のこの感情が不安に変わるのも当然だろう。

「任せといて。必ず幸せにするから!」

その日から、僕は彼女からアドバイスという名の授業を受ける羽目になってしまった………。












「ねえ、カタリくん。一緒に帰らない?」

それは放課後のことだった。
夕陽が街一体を優しく包み込み、僕と彼女をもその夕陽の赤に包んでいた。
今日1日の授業が全て終わり、僕は帰る身支度をしていた矢先の事だった。
僕の前に一人の女の子が立っていた。深頼ちゃんだ。
僕が「あっ………」と何かを口にしようとしたとき。
彼女は僕にそう告げた。
この場合だと、大抵の健全な男子はみんな「はい!喜んで!」とか「僕がエスコートしますよ、お嬢さん?」みたいな言葉を発するんだろうが実際の僕はといえば、

「え、僕と………ですか?」

こんな感じに妙に慎重になる。
しかも、いきなり言われた為に敬語になった。
相手が相手だからといえばそれは単なる言い訳にしかならないが、僕はとりあえずあいつに言われた、というかレクチャーされたことを思い出す。
いや、止めておこう。ちょっと危険すぎる。

「う、うん。」

「じゃ、行きましょうか?」

と、彼女はおもむろに片手を差し出した。
僕は一瞬何の通過儀式かと思わず考えたが、それがいわゆる手を繋ぐというカップル特有の現象である事に気付いた時には既に彼女の手を握っていた。
途端に僕は顔が真っ赤になる。
彼女はといえば、こちらはこちらでかなりドライな反応だ。
ちなみに、この辺りの手を繋ぐまでのくだりは彼女のアドバイスの中身そのままだった。
要するに彼女が僕にしたアドバイスというのが、「どうすれば自然な流れで自分の部屋に連れ込めるか」といった明らかに僕の思っていたものとは違ったアドバイスだった。
彼女が話したアドバイスの内容で唯一使えるのは「もし、一緒に帰ることを勧められたら必ずOKと返事し、出来るなら彼女の手を繋げるよう努力する事」だった。
僕でも考えられそうなアドバイスだったが彼女なりに考えてくれたプランなんだと思うとちょっと有難く思う気がする。

「となりにこんな美少女が居るのに、考え事するなんて良い度胸してるわね」

深頼ちゃんが僕の顔を覗き込む。
あ、ちなみに僕はまだ彼女のことを名前で呼んだ事はない。
だから、この語りの部分だけは彼女のことは名前で呼びたいと思う。
それは僕のささやかな愉悦なんだ。

「それ、自分で言うのってどうなの?」
「自分で言うから良いんじゃない?それとも君はそうは思わないって言いたいの?」
「そんなの言わないよ。」
「よろしい。」

彼女が静かに微笑んだ。
僕は、自分の頬が赤らむのを何とか隠すのに必死だった。
彼女が美少女であるのは納得している。
それを自分で言ってしまうあたり彼女の性格なのかも知れないが。

「あ、あのさ。」
「どうかした?」
「い、いやどうして僕と帰りたかったのかなって気になってさ。」
「”仮の彼氏だから”って理由だけじゃダメ?」
「別にそれでもいいけど、友達とか顔見知りの女子とか僕以外にも一緒に帰るべき人が居るんじゃないかなって思うとちょっとね。」
「……………いない。」
「え?」
「私が帰りたかったのはあなただけ。それだけよ。だから誰でもよかった訳じゃなかったの。迷惑だった?」
「ううん、全然!」
「なら良かった。」

またいじらしく彼女が笑った。
それが可愛らしくて僕はいつまでも見ていたいと思った。
手を繋いでいる状況すらも忘れてしまいそうになる。

「彼ってさ、何を渡したら喜ぶかな?」
「え?うーん…ベタに手料理とか?ベタ過ぎるか。」
「………それも悪くないアイデアね。君にしてはいいアドバイスだ!」
「え、そう?」
「うん。あ、でも私あまり料理を誰かに食べさせた事が無かったから上手くいくかは分かんないなぁ。」

ん?これってまさかフラグか?
もしかしたら「誰かに試食とかしてくれたら嬉しいんだけどなぁ?」って感じでもって、そこですかさず僕が「なら僕が試食してあげようか?」といった感じで話は進み、彼女が喜び、彼女の自宅に行き、彼女の手料理を頂く。
そして、ここですかさず味のアドバイスとか適当にあいつの好きな味の事を話す。
又もや彼女は大喜び!
って感じで僕にかなり尊敬の眼差しを送るあのフラグか?
「やっぱりあなたは頼りになるわね~!」的な事を言われて僕の信頼度を上げるチャンスなんだな!
なるほどな。あいつから聞いたこのアドバイスも中々使えるな。やるな、黛 鳳華。

「何、読んでるの?」
「うえっ!?い、いや何でもないよ?うん、本当何でもないから。」

僕は急いでメモ帳をズボンのポケットに押し込んだ。

「あ、あのさ。僕で良かったら、手料理。食べさせてくれないかな?」
「えっ?」
「ああ、いや、ほら今”料理を誰かに食べさせた事が無かった”って言ってたでしょ?だから僕を練習台にして食べさせてくれたら本番で失敗することも無くなるでしょ?………どうかな?」

彼女はじっと僕を見つめて、少し考えていた。

「……………良いの?」
「う、うん。」
「本当に?毒が混入されていても?」
「毒!?まさか………?」
「いやいやそれは冗談。でも本当に良いのね?」
「うん。任せて!」
「分かった!なら日曜日、空けておいてね。時間とかはまた決まったら教えるから。」

僕は自分でも分かるくらいに顔を輝かせた。
まるで、子供みたいだ。

「じゃ、また明日ね。」
「うん、また明日!」

彼女の自宅の近くに差し掛かり、彼女はそう言った。
彼女は手を振り、そう言った。
僕もそれに合わせる訳じゃないけど手を振り返した。
そして段々と彼女の姿が小さくなっていくのを見送った後、僕はようやく元の自分の帰路につく。
僕は彼女が握ってくれた片手を見つめながら、自分の胸がまだドキドキと高らかに音を立てているのに気付いた。
深い進展は無かったし、大した会話もしなかったが、僕にしては上出来だった。
それ以上に僕は満足していたんだ。
彼女とのフラグが成立した現実に。

「帰って、あいつに報告しなくっちゃな。」



その夜。
僕はまた黒川に連絡した。
彼女と手を繋ぎ、一緒に帰った事。
後は日曜日に彼女の自宅で手料理を食べさせてもらうって事。

「なるほどな。お前にしては良くやったな。」
「まあ、これも全部、鳳華の奴のおかげなんだけどな。」
「鳳華?あいつ、お前と同じ学校だったのか?」
「ああ。僕もビックリしたよ。かなりあいつ感じが変わっていた。雰囲気っていうか、見た目というか、その他諸々全部昔とは違ってた。」
「へぇ、昔は物静かなキャラだったけどな。時間ってのは人を変えるんだな。」
「そういう事だな。まあそれで、あいつが色々なアドバイスしてくれたから、不本意だけどそのおかげで彼女と約束をする事ができたんだ。後で感謝と手厚いプレゼントをしてやらないとな(意味深)。」
「最後の(意味深)が気になるけど、あえて聞かない事にする。けど、良かったな。かなりの進歩だぜ?」
「そうなんだよな。」

僕は空を見つめながらずっと考えていた。
これから、彼女と、真坂 深頼ちゃんとちゃんとしたお付き合いが出来れば良いなって。
いつかじゃなくて、近いうちにでもなくて、
必ず、そうさせたい。
これは、僕の決意の表れだった。

「大切にしてやれよ。仮だけど、お前の努力で幾らでも未来は変えられるんだからな。」
「分かってるよ。最初からそのつもりさ。」

僕はそう告げた後に、黒川との通話を終えた。

5月の風は少し冷たかった。
僕はそっと、窓の扉を閉めた。



 
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