バッドエンド・クレイジーナイト~Storia per dare a Giunone~

白井 雲

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四乃原 語 1

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この世界は異端だ。
目で見えなければ、触れなければ、理解できなければ、それはすべて現実じゃない。
見えているものすべてが正しいのか?
触って確かめなければそれは正しくないのか?
自分が理解できないものは全て正しくないのか?
それは単なる屁理屈に過ぎない。
そんな下らない言い訳なんて聴いてはくれない。


「な、何だよ。これ…………。」
僕は開いた口が塞がらなかった。
その光景は紛れもなく現実とはほど遠かったからだ。
いや、もはや現実ではないと言ったほうがいい。
同じ世界とは言い難い。

「俺も最初は何がどうなったのか全く分からなかった。けれど、どうやらその見えている光景ってのが手袋を着用している時だけらしいんだ。外せばいつもと変わらない光景が広がっているはずだ。多分、ゲームの空間と繋がっている…のかもな。」
「そ、そうなの?へぇ、よく出来てるな。」

今一、よく分からない。

「その、手紙に書いてあった先生が作ったらしい『ジュノの魔道図書館』なんだが、調べた感じどうやら仮想オンラインゲームらしいな。今現在でプレイしている数が2000万人。相当人気のあるゲームだ。だが、過去には何件かトラブルがあったのも事実だ。詳しくは分からなかったがな。」

更に黒川から聞いた情報をまとめれば、『ジュノの魔道図書館』は「ほのぼの系冒険RPG」というジャンルで売り出しているらしい。幾つかの物語の世界を旅して特定のキャラクターたちが出す難題をクリアしていくシナリオゲームとしての面。
それと、他のプレイヤーたちと協力して新しい物語の空間(せかい)を作ることができるクリエイターゲームとしての面。
遊び方が沢山あるという面がプレイヤーの心を掴み、現在にかけてそのプレイヤー数は遂に2000万人を突破したという。
そして、この手袋だが。
それに関してはそれこそ何も判然としていない。

「だけど、どうして先生は僕たちにこんな物を渡してきたんだろ。それに、βテスターって一体何なんだ?」
「それに関してはまだわからないことだらけだ。だが、問題は童夢だ。まだ逮捕されてないって点だと、俺らの命が危ない。その手袋をはめている時は奴から狙われる様な心配は無いだろうけどな。」

だからか。
先生がコレを渡した理由が今はっきりわかった。
だが、考えようによっては童夢もそれを所有している可能性も考えられるんじゃ無いか?
だけど。
だけど………。
そんな些細な事なんか。
そんな些細な事なんかどうだっていい。

僕は昔夢見ていた事が今、僕の目の前に開かれた事が堪らなく嬉しくて仕方がなかった。
手袋を着けてなければ見えない世界だったが、
見えていなければ単なるホログラムでしか無い世界だが、
僕はそれが嬉しかった。
ようやくカッコイイヒーローになれるって思った。
それが僕の憧れだったから。

「でも童夢には気をつけろよ。確かにその世界に居れば大丈夫かも知れないが、奴もそれを手にした可能性だって考えられる。俺は他の連中にも連絡取ってみるからそろそろ切るな。」
「うん。色々ありがとう。」
「…………生きろよ。」

そして。
電話は切れた。
最後の言葉は、一体………….?
僕はといえば手袋を着けていなければ見れない世界の余韻に浸っていた。







次の日になり、
僕は小学校時代の元担任の先生から貰った手袋をちょっと外したまま外を飛び出してみた。

見える景色はいつもと変わらない。
商店街のアーケードがまず目に飛び込み、人々が連休である今日を行き交っていた。
気づかなかったがシャッターが降りている店を何軒か見た。
長引く不況の影響だろうか。

そして肝心の手袋をはめてみる。

見えた景色はやはり完全なファンタジー世界だった。
さっきまで見えていた行き交う人達は皆、鎧や甲冑を着込んでいて、中にはRPGゲームでしか見た事がなかったオーグや人生で初めて、見てちょっとだけ自分が感動したエルフ達がいた。
目に映る景色全てがまるでゲームの世界だ。
いや、言い換えるならここは異世界なのかも知れない。
だが、ゲームのステータスのようなものは出てこない。
僕はオンラインゲームはした事がないため、こっから先は他人から聞いた話になる訳だが、何処かをダブルクリック、若しくはクリックすれば表示され、現在の自分の能力値や使う事ができる魔法とかのスキルが分かる、と。
後は基本的な「会話」「会得」「特訓」みたいなのが傍に出て来て、この世界では大事であろう「ライフ」も表示される。ライフは言うまでも無い。自分があとどれくらい生きられるかの指標だ。

僕は目で見るこの世界がまるで現実である様な錯覚を覚えていた。

「深頼ちゃんにも、見してあげたかったな……。」

彼女ならこの景色をなんていうんだろうか………。
ふと、僕の頭にそんな事が過ぎった。
彼女は側には居なかったが、きっといい感想を僕にくれたはずだ。
こんな景色を見せたかった。
それが今抱いた僕の心情だったーーーーーー。

「にしても、凄い。多分、ヴァーチャルなんだろうけど、目の前にするとRPGのモンスターってのはデカイんだな。」

ありきたりな感想しか出てこなかったが、
初めて見た感情なんてのは大抵はありきたりなものじゃ無いかと思う。
たとえを挙げるならキリがないがさっきから見ている街の景観について言えばレンガ調で壁面はカラフルに着色されてあり、規則正しく僕の両脇を彩っている。
昔に見たヨーロッパの、それも中世のような街並みの景色に似ていた。
そして、次に挙げるならさっきから僕の後ろをなぜか付いてきている目がおかしくなるくらい派手な色合いをしたピエロ。
思わず目を反らしたくなるくらいの色の暴力にも関わらず、その景観を決して崩して無かったのには驚いた。
だが、ストーカーかと思うくらいにピッタリと付いてくる。
試しに手袋を外してみるが、そこはいつもの住宅街の簡素な景色が広がるばかりで、改めて”先生”の技術に驚愕せざるを得なかった。

そこに、あのピエロの姿はない。

だが、嵌めてみれば。

またあのピエロはそこにいる。

「スゲー。凄すぎるよ………。まるで違う世界に来たみたいだ…………。」

気のせいか、自分が吸う空気でさえ違う感覚があった。

「ようにいちゃん………この武器買ってかないか?今なら特別安くしといてやるよ?」
「あ、いや大丈夫です。友人からタダで譲り受けた”トウヤコ”って聖剣(ぼくとう)を持ってるんで………。」

妙なボロマントを身につけた武器商人に声がけされたが、何とか切り抜けることに成功したようだ。
断れない性格だから、変に買ってしまって無駄に浪費してしまうのは流石にまずい。
あの木刀だってあいつが、紅魔の奴が強引に僕に渡してきたものだったし……………。

というか、ヴァーチャルの世界にもお金の概念はあるのか?

いや、あるかな…………?

あるか。

僕は名残惜しげに手袋を外すと、大事そうにポケットの中へと入れた。
と。

「あれ?カタリじゃない。」
「?」

聞き憶えのある声がした。
振り向けば、そこにはクラスメイト「黛  鳳華」の姿があった。
見たところ、部活帰りだろうか?
肩にエナメルバッグを掛けている。

「部活?」
「ううん、ちょっと野暮用。そんなことよりあんた、こんなところで何してんの?」
「いや、こっちもちょっとした野暮用だよ。」
「ふーん。まあ、あたしにはどうだって良いけどね。」

ならなぜ聞いたんだ?

「ところでさ、真坂さんとはその後どうなってんの?」
「いきなりその話題か。大して変わらずって感じだよ。大きな進展はない。」
「でも昨日行ったんでしょ?彼女の家。」
「いや、まあ確かに行ったよ………。行ったけどさ。」
「焦れったいわね。濁していないで早く言いなさいよ。」
「行って彼女の手料理を食べた。それだけだったよ。」
「それだけ!?キスとかしなかったの?」
「バ、バカ!!いきなりそんな発展できないよ!まだようやく手をつないだレベルの間柄なんだぞ!そんな中でようやく彼女の家に上がらせてもらうとこまで行ったんだから。その部分を評価しろよ。」
「ハッ、甘いわね四乃原 語(しのはら かたり)。言わせてもらうけど、それは言うならば恋愛漫画の最初の10ページの中(うち)の出来事でしか無いわ。甘々よ。」

何か癪にさわるし、その例え(?)もどうかと思ったが、割と的を得ていた為に僕は何も言い返す事ができなかった。
確かに、ファーストコンタクトの通過儀礼でしか無かったかも知れない。
だけどまぁ、奥手な僕にはそれが一大イベントだった訳だが。


と。

何処からか電話が鳴り響いた。

彼女はおもむろにエナメルバッグからスマートフォンを取り出し着信を切った。

「…………出ないの?」
「良いの。大した事じゃ無いから。………どうせいつもと同じ事しか言わないだろうし。」
「え?」

今の聴き取れなかった最後の言葉を放った彼女の顔がどうしてか僕には暗く映って見えた。
何か悲しい、辛い事から目を背けようとしているような。

「そんな事より、あんたよあんた。頑張りなさいよ。青春なんてのは一時(いっとき)しか無いんだから。今、彼女を振り向かせないと後がツラくなるわよ。」
「まるで母親みたいなことを言うんだな。」
「え?あんたの母親もそんなこと言うの?」
「いや言わないけどさ。なんとなーく。何となくだよ。」

彼女はクスッと小さく笑った。
僕はそれを見てなんとも言えない気持ちになった。

彼女の後ろの太陽の陽ですら、僕の瞳には映らない。

(あれ………何だこの気持ち……………。)
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