カラクリ少女

白井 雲

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嘲笑

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勧誘なんてのはしょっちゅうあるものだ。

例えば、表参道なんていつもは歩かない洒落た道を選んで歩けば、妙な服を召しらう明らかな変人を前にして萎縮するのは当然な摂理だが、それが実は凄い有名な芸能事務所のプロデューサーで序でに何の気なしに「スカウトの真似事なんかしてます」なんて言われた暁には片手にしていたスマホの110をすぐに自撮りの写真が壁紙のホームに戻すだろう。

その辺で草野球を嗜むその辺の会社員が、
明日にはプロ野球選手、果てはメジャーリーガー、盗塁王になっていても何ら不思議ではない。

果ては、今まで小中と運動部にいた人間がいきなり劇の真似事なんかする部に強制的に勧誘されたとしても何ら不思議なことはないのだ。

………………

…………ぼくだ。

てっきりずっとやってきたバスケ部から勧誘されるのかと期待に胸を躍らせていたが、予想だにして無かった。
そもそもメガネでガリガリな先輩を見て早い段階からその現実を知るべきなんだった。
なんか首筋に番号書いてあるし、妙ったらありゃしない。
そうして連れてこられた先にあったのは、カビ臭い資料庫だった。
これが演劇部なのか?
と恐怖に胸を躍らせて、じゃないな。
とにかく、僕は踵を返してそのままバスケ部に仮入部届けでもしようかと考えていた。
けれど、それは難しそうだ。
まず、目の前でよく分からない力説を見せつける語り部メガネ先輩を出し抜くことは不可能だろう。
目線はこちらを向いてないが、後からの仕打ちが怖い。
「これは君を模した人形だよ?」
なんて言って目の前で錆びた釘を打ち付けられた暁には次の日には僕の机には僕の代わりの花束が添えられていることだろう。
得体の知れなさがある。
この人物をダンクシュートでゴールに放り込みたい気分だ。
もっともあの頃の跳躍力が戻っているかは些か不明瞭なところはあるが。

「聴いてるかい?」
「あ、いや。ちゃんと聞いてました」
「とにかく、我々としてはこの街で演劇の良さをもっとよりよくみんなに伝えたいんだ! それには君の力がいる」
「いま、初めてあったばかりなのに…ですか?」
「時間なんて関係ないだろう?」
「あります。大問題です」
「君って人間はそんな事をいちいち気にするのか?クリエイティブ精神を大いに損失しているんじゃないか?」

何でそんな事を指摘されなければならないのか?

「けど、それは魅力でもある」
「は?」
「そうだろ?」
「知りません」
「……………」
しかしめげず彼はまた言葉を紡ぐ。

だれかメンタリスト呼んで彼の中身を引き出してほしい。

多分、あれは屈強だとか図太いだとかを超越しているレベルだ。

「と、とりあえず入部おめでとう」
「入るとは言ってません」
「あ、あれ? 言ってない?だって君が…………」
「先輩が勝手に連れてきたんじゃないですか。確かに首を縦に振ったのは僕でしたが、それは肯定の意味じゃない。ラチがあかないからです」
「き、キミ遠慮を忘れてるのかい?」
「これは拉致です。強制的にきて、更には入部を推し進めるなんて新手のキャッチも大概にしやがれデス」
「い、いや、確かに聞いたんだ…」
「だから言ってないって言ってるじゃないですか」

僕を口説きたいのか?
それとも部員稼ぎの口説き文句か…?
いづれにせよ、口説きたいなら他にしてくれ。
…………男子相手に口説き文句とかやめて欲しい。
とりあえず、ホントにラチがあきそうにない。

「とにかく、僕は用事がありますから失礼します」
「あ、うん。時間取らせてすまなかった …」

ん? やけに素直に引き下がったな。
これは先輩勘違い説も証明終了しないとな…。
僕は足早にその場を後にした。
一刻も早く帰りたかったからだ。
にしても、どこか様子が…。

「あ、先輩!」
「ん? どうかしたかい?」
「その ……。” なんで、首に数字があるんですか? ”」
「数字……? なんの話だい? 」
「……わから、ないんですか?首筋ですよ、見てないんですか?」
「知らないよ。見えたのかい? 」
「はい、後で確認した方がいいですよ? 刺青みたいで生徒指導にとっちめられますよ」
「そうか。ありがとう」

先輩はそのまま真っ暗な中へ消えていった。
僕はといえばそんな背中を見る気すらなく、職員室の方まで廊下を進んでいた。
今日は朝から妙な1日だった。
だからこそ、 だから僕は学生時代ってのが嫌いなんだ。
早く終わって、よく分かんない大学行って、よく分かんない会社入って、よく分かんない先輩とつるみ、よく分かんない朝を迎えて、よく分かんない老後を迎えて、よく分かんない場所へとやはり向かわないといけないんだ。
それで、ようやくああ、やっぱりつまらないな。
そんな事を考えて当たり前の死を迎えるんだ。
そんなときは「やっぱり死なんて見たくなかった」なんてセリフを残して世を立つんだろうな。
やっぱり、酷くつまらない人間みたいだ僕は。
職員室に入った僕を見た先生は開口一番に言い放つ。


「なんだ、その顔? まるですべて疲れたみたいだな?」





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