カラクリ少女

白井 雲

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部活

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身体が長年のブランクで鈍っていた。

ダンクを決めようにも、何かのテクニックを決めて女子の視線を鷲掴みにしようにも身体が上手く動いてくれないせいで、僕はガタガタなバスケスタイルを披露してしまった。
いっそ、名前を桜○○道にすれば多少なりマシになったりするんだろうか?
そんなときは誰か名コーチが名言吐いて僕を救って貰えたら願ったり叶ったりな訳だが。

「いやいや、初心者にしたらよく出来ていたよ」

いや。 
そもそも僕は小中やってきたんだから今更初心者な訳無かろうがと文句が思いついたが喉を通る前に押し殺した。
さも、僕はそうであるべきだ。
孤独は何より辛いから。
孤独は何より苦しいから。
なら、誰かと一緒なら。
僕はさも初心者であるように、そう振る舞った。
理由なんか、たいしてない。
笑うだろ? 君らなら。
笑うに決まってるなら自分が笑えばいいなんて、つまらない理屈なんか吐いても僕は変わらないだろ。

「軸足はこうだ。本来ピボットフットは軸足を起点にしてパスを交わすんだからな」
「はい、ありがとうございます」

自分を作るのはもうやめだ。
そんな事、どうせくだらない。



ーーーーーーーーーー


熱が入りすぎたのか、時刻は既に18時を回っていた。
どうせ残って練習、とかいってまた一人になったんだろう。
やっぱり、孤独は逃げれないのか。

片付けをした後、体育館の電気を消灯し、僕は鞄を取った後、校舎を後にした。
と、校門で人だかりが出来ていた。
見ればパトカーが数台止まっている。
傍らには警察に事情徴収されている教師数人。
何があったかと、群衆の中掻き分け覗き見る。
それは…………。

「……………先輩………?」

数時間前、僕を相手にし意味不明な勧誘をしたあのメガネの演劇部の先輩がそこに横たわっていた。
背中にはナイフが突き刺さり、
メガネには薄っすらヒビが入っていた。
目は血走り、
口元は自分の血で綺麗に染まっていた。
僕は、喉元まで湧き上がる熱を抑えられず群衆から離れた雑草に吐き散らかした。
一体何があったのか。
分かるのは、誰かに殺されたかもしれないその死体だけだった。
惨たらしく、さもその血は光に照らされ紅く輝きを放っている。
鮮やかとは違った、妙にリアリティに彩られた血。
僕はその生々しさが、余りにもリアル過ぎてその場から逃げるように去った。
道中に、誰かとすれ違った気もしたがそれどころじゃなかった。

寝よう。
忘れるんだ。
また明日からは普通の1日が来る。


「あなたは、” 逃げる。逃げて長い時間が過ぎてやっぱり私を求める。それが答えに一番近いから” さようなら」


それを認めない自分には、辟易している。
けど、仕方ないと割り切る。
それがこの壊れた世界と付き合う上手な ”やり方” 
だってずっと教わってきていたから。
帰り、玄関の鍵を閉めたのを確認した僕はその場に力無く崩れた。
あそこまでの恐怖心なんて感じたことがなかったからだ。
あれは、僕の知らない世界だ。
明日にはただ、夢だったと誰かが教えてくれる。
そんな気がした。



ーーーーーーーーーー


翌朝、僕が見たのは昨日の死体を連想させる最悪のニュースだった。

僕は窓を開け、詰まった息を吐き捨てた。
そうしてやはり、あれは紛れもなく現実であることを改めて痛感し、それを最悪と捉えた。
当然、胃に何か入る余裕なんかあるわけはなく。
僕は空になった体を持ち応えながら若干にフラついた足をなんとか立て直しながら平常を保ったままドアを開けた。


目に映るのはやっぱり、いつもの光景だった。


「おはようさん!」

横に目をやれば隣のおばさんだ。
僕の家はマンションだ。だから、僕は否応なしに誰かと会話せざる得ない。
いや、それは構わない。構わないんだ。
孤独なんか僕には合わないんだから。

「おはよう、ございます」
「昨日は大変だったんだね? 大丈夫だったかい?」
「…………えっ?」
「あんたの学校なんだろ? アレ」
「な、何がですか?」
「何がって。 死体だろ? 上級生、あんたの先輩だってね」
「……………あ」

やっぱり、あれは現実だ。

「気をつけなよ」

ふと、後ろを向いたおばさんの首筋にやはりあの数字が印字されていた。
今度は番号が違っていた。
僕は堪らなく怖くなった。
まるで幽霊だとか、呪いだとか、そんなものを見るかの様に。
だから、あぁ…と。
その場から一目散に駆け出した。
無我夢中だった。
形振りなんか構っていられない。

ーーーーーーーー関われば、多分ヤバイ………!

そんな危険信号が僕の目の横を駆け巡った。
エレベーター待ちの僕の耳には、おばさんの悲痛な悲鳴がこだましていた。
背筋に悪寒が走り、現実であり現実でない今をただ怖がるしかなかった。
夢だと思えば思うほど堪らなく一人になりたがる。
けど、実際、僕は孤独は嫌いだ。
ひとりぼっちはもう嫌だった。
だけど、それなのに僕は孤独であろうとしていた。
2度目の悲鳴が、 またこだました。
耳にこびりついて離れない。

「なんなんだ…なんだよ。 あの番号」

ふと、昨日出会ったあの少女が頭を過ぎった。
妙に落ち着いていて、まるで会う前から僕を知っていたかの様だった。
なら、番号。僕のまわりの恐怖が何かを知っているはずなんだ。
まるで、それを知っていて当たり前の様だった。
初めて見た彼女にすがろうとしていた。
我ながら馬鹿らしい。



「知らないことは罪じゃない。 罪なのは、罪であることをそうであると認めないこと。それがあなたにとっても私にとっても、最悪の罪」


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