君と世界にたった1杯の珈琲を

にもの

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1章・箱庭

1.ベガとアルタイル

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12年前、第3次魔境戦争の渦中、1人の魔剣士の核融合魔法により街がひとつ消えた。
魔剣士は姿を消し、戦争は終わらないままなんの手がかりもなく、ただ街がひとつ消えたという事実だけが残った。

街の人口約135,700人
この魔法による即死者約22,300人、
負傷者約45,200人
行方不明者(当時)約5,420人
負傷後1日以降の死亡確認者21,400人

総死者数約43,700人
街の消失以降の生存者人口約86,580人

約36%も人口が激減する結果となり、行き場を無くした難民が国中に溢れかえった。

人々は、街の名をとってこれを「イリスの悲劇」と呼び、歴史の1ページとなった。



「はぁ……痛い……辛い……寒い……苦しい……」
荒れた焼け野原の中で1本の剣が少女の腹を貫き、地面に仰向けになっていた。
「また……私は…………」
連邦国との国境付近、戦火の渦巻く激戦区のひとつだった。

足音が聞こえた。
厚いブーツの音。誰かが近づいてくる。
たぶん連邦国の奴がとどめでも刺しに来たのだろうと少女は腹を括った。

「生きろ。君はまだ死ぬべきじゃない」
視界が黒くぼやけてままならない少女の目に映ったのは、軍服を着た長い赤髪の女の人だった。
女の人は少女の腹の剣を抜き止血した後、背負って歩き出した。

その1連の出来事は少女にとって考える暇を与えず、彼女が敵でないことは分かった。
厚いブーツに腰に下げた大きな魔剣。その煉獄のように赤い瞳と髪が強さを象徴しているようだった。


「帰還した。この子を医務室へ頼む」
赤髪の女は王国の城内へと少女を担いでいき、中の入口付近で1人の兵士に少女を預けた。
「アルタイル騎士団長、この子は?」
「偶然拾った。恐らく民間兵だろう。」
「こんなに小さな女の子が……ですか…」
「あぁ。近頃、連邦国と共和国が条約を結んだ。ざっくり言えば『お互いさっさと王国消して力付けようぜ』って感じの条約だ。そのせいでこっちは二国との国境を同時相手だし、王国も満身創痍ってことだろう。」
兵士はその言葉を聞き険しい表情を見せ歯を食いばった。
「悔しいか。」
「はい」
「なら強くなるんだな。さっさと終わらせよう、この馬鹿げた戦争を。」
「はい…!」
「それと、私はこれから報告に行く。あの子が目を覚ましたら構わず知らせてくれ。」
「は、はぁ、、、。」
兵士は、なぜ団長はそんなにあの女の子に執着するんだ?とでも言いたげな顔であった。


アルタイルは3階の奥の扉ノックを3回鳴らした。
「入れ」
野太い声が部屋の向こうから響く。
「失礼します。」
「ノアール元帥殿、報告へ参りました。」
「で、どうだった?」
「はい。まず共和国国境付近において、共和国軍の根城を抑え、殲滅致しました。連邦国国境付近におきましては、敵に突破を許してしまったようです。敵は市街地へは攻めず国境付近に居座っていることから、戦いに勝って優勢に事を進めること以外の別の目的があると考えております。報告は以上です。」
「ほう。別の目的と。ちなみに君の騎士団長としての意見を聞いてもいいかな。」
「はい。私の見解では、連邦国は『イリスの箱庭』を探していると考えております。」
「やはりか。我々にですら何処にあるのか、そもそも存在するのかもわからないものだというのに……まぁいい。ありがとう。」
「滅相も御座いません。」

そんな時、突如ドアが開き、1人の兵士が敬礼で伝えにやってきた。
「失礼します。クロード・F・アルタイル騎士団長殿。医務室のルナさんより少女が目を覚ましたとの報告です。」
「っ…!わかった。すぐに行こう。ノアール元帥、失礼致します。」
「あぁ。いいよ。ご苦労。」

アルタイルが医務室へ到着すると、少女がベッドの上で上体を起こしていた。少女は歳は10歳くらいで白髪で瞳は紅く、恐ろしいほどやせ細っていた。
「目を覚ましたようだな。声はわかるか?」
「はい」
少女はカサカサの唇とガラガラの声で小さなか細い声を出した
「ふむ、声の出し方がぎこちないな。」
アルタイルがそう言うと、横にいた医務室長のルナが口を挟んだ。
「そうね。声帯はガッツリやられてたから修復はしたけど、まだちゃんと話せるわけじゃないわよ。あと目も見えてないわ。毒系の魔法をモロに受けたんでしょうね。残念だけど、もう見えるようになることは無いでしょう。あとお腹の穴は塞いだけど、跡は残ると思うわよ。そのくらいかな。あとは至って健康よ。」
「お前はこれのどこを見て健康と言っとるんだか……」
「もう、アルちゃんはお堅いんだから。コーヒーいる?」
「頼む。」


「さぁ、ゆっくりでいい。話したくないことは話すな。声を出したくなければ首を振るだけでいい。少し話そう。」
コーヒーを片手にアルタイルがそう言うと、少女はゆっくり頷いた。
「名前は言えるか?」
「ベガ」
少女の声は今にも消えてしまいそうなほど小さかった。
「うん。いい名前だ。じゃあベガ。なんであんな戦いに参加したんだ?」
「…………」
少し黙り、ベガは首を横に振った。
「わかった。ベガっていい名前だね。お母さんが付けてくれたの?」
ベガは頷いた。
「家系の名前は言えるかな?」
「わからない。」
「お母さんの名前は?」
「お母さん……守れなかった……私……お母さんを……」
そう小さな声で繰り返し、ベガは大粒の涙を流し、声を出して泣いた。
「わかった。もういいよ。君はよく頑張った。頑張ったから。」
アルタイルはそう言ってベガを胸に抱き寄せ、頭を優しく撫でた。
「そうだベガ、家系の名前はわからないと言っていたな。君にとっておきのいい名前をあげよう。」
「名前…?」
「あぁ。クロードだ。クロード・F・ベガ。私とお揃いだ!」
アルタイルはそう言って思いっきりニッコリと笑った。

「ルナ、ベガは私が育てる!今決めた!」
「アルちゃんならそう言うと思ってたわよ。好きにしなさい。」
ルナは、(オフの時はあんなに笑ってて可愛いのに、アルちゃんったら残念な子。)とかこっそり思っていた。
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