復讐の慰術師

紅蓮の焔

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6章 喜びの楽園

60話 着任式

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コンコン

「んん…?」
目を擦ってベッドから降りてドアを開けるとそこには長袖長ズボンを着ていて、通気性の良さそうな手袋を嵌めたレンゼと(身長的に)同じ位の少女がいて、突然手を上下に振られた
「新人くん! 早く起きるんだよ!」
「ん~…起きてる起きてる…」

カチャ

突然、目の前に銃口を向けられてレンゼは理解が追い付かなかった
「はぇ?」
「起きるんだよぉ!」

ダンダンダン!

「ぐぉわ!」
音に驚いて上半身が後ろに倒れ、額と頭蓋骨が少し抉られる程度で済んだ
「うぉぉ…?」

ゴツッ!

「っつ~…」
「あれ? おお! すごい! すごいんだよ新人くん!」
レンゼは壁に凭れ掛かると額から流れ出る血に指を付けて魔術式を画いた
両手をその魔術式に置いて魔力を通すと魔力を自然治癒力の代わりにして額の傷を一気に治した
「おお!」
アイシスは目をキラキラさせてパチパチと手を叩いた
「あぁ? どうした? うるせぇぞ…」
グリードが欠伸を掻いて部屋から出てくるとアイシスは楽しそうにグリードに話し出した
(あぶなかったぁ…次からはちゃんと返事しよ…)

ゴツンッ!

「いったぁぁい!」
「あほかお前は! 何度も勝手に撃つなって言ったろうが!」
アイシスは頭を押さえしゃがみ込み目をうるうるさせてレンゼの方をチラリと見る
(お、俺に弁解しろって事か? い、いやしかし…)
そして今度はジワッと涙を溜め始めた
「あ~…グリード? 何もそこまでしなくても…」
「お前いつか殺されるぞ…」
グリードは溜め息を吐いてアイシスの頭をわしゃわしゃと撫でた
そして皆が起きて来るとグリードは1回手を叩いて大きく話した
「それじゃあ解散! また夜にな」
皆は一旦エレベーターに乗り込み上階へ上がると酒場の方から外に出て行った
「さて…俺も出よ…いい加減顔出さないと不味いしな…」
頭を掻きながら外に出るとどこかの路地裏だった
「ここどこだよ…」
辺りを見回しながら路地裏を右に進む事にした


数分後…
(ここはさっき通ったからさっきの所を左に曲がれば行った事の無い所に行くよな…)
レンゼは少し戻って左に曲がると頭の中に地図の様に暗記していく
「あ…」
そして漸くうす暗い路地裏から出られた
路地裏から出るとそこは見覚えのある場所に出た
(ここってあの噴水広場!?)
驚きつつもボーッと歩いていると突然少し遠くでファンファーレの様な音楽が鳴り始めた
(これってたしか着任式…だったか?)
レンゼは興味本位でその音が鳴る方へ足を進めた
(やっぱりか…)
最終的に辿り着いた場所は軍本部の塀の前だった
(誰が着いたんだ?)
見張りのいない門から顔を少し出して中を見た
「レンゼ様!?」
名前を呼ばれた事に驚いて振り返って拳を構えた
「…2号?」
「なんでここにいるのですか?」
「いやだって誰が着任式に出てるのかな~って」
「それならアベル様です」
レンゼは中を再び見ると確かにアベルの様な後ろ姿の少年が両脇で音楽を演奏している人達の中心を通っていた
(あれって本当にアベルか?)
ジーッと見ていると誰かに持ち上げられた
(誰だ!?)
振り返るとそこには宿で泊まった時に迎えに来たあの金髪の男の顔があった
「あんたは確か…あの人だ…あの時の…」
「ああ、名前言ってませんでした? 俺、ロンって名前です」
「それはそうと…なんで持ち上げてんだよ?」
「いや~、つい持ち上げたグフッ!」
突然の股間に走る激痛に顔が青くなっていきレンゼを持ち上げる力が弱まりレンゼは着地した
レンゼが着地すると同時に膝から崩れ落ちて倒れた
「あれ? 確か貴方…レンゼさん? でしたっけ?」
横から聞こえてきた言葉に驚いて身構えるとそこにはこの前、ロンと共にレンゼとアベルを迎えに来た女性が半袖の私服姿で立っていた
「あんたはこいつと俺らを迎えに来た奴だよな?」
「え? はい、そうですけど……あ、まだ名乗ってませんでしたね…私の名前はレジ=メルクです」
「あんたはなんでここに?」
「いや、そこに倒れてる男、ロンって言うんですけどロンがいきなり走り出したので歩いて来たんですけど…こんな状況になってて…」
レジはペコリとお辞儀をしてロンを引き摺って街の中へ戻って行った
「一体何しに来たんだ?」
「さあ…私には分かりません…」
2人が話していると突然レンゼは台衿を掴んで引き摺られて行った
「誰だ?」
「よぉレンゼ…お前もとっとと行くぞ」
台衿を掴んでいたのはアベルだった
(いつの間に…)
アベルはレンゼを引き摺って行き、段差を1段登った
「いてっ!」
レンゼの声と同時にファンファーレが鳴り終わった
(ほら立て、着任式だぞ)
(へいへい)
レンゼは立ち上がってアベルの隣に移動した
そして前を見ると笑顔の左目に縦に傷が入っていて、鼻の下に髭が生え、目を凝らすと見える目元のシワは優しい親戚の様な感覚に陥る
(誰? このおじさん)
(この人はこの国最強の軍人だぞ!? 名前は知らないけど役職は大頭領だ)
アベルの言葉を聞いて驚いた
(って事はこの国は軍事国家か? 最強の軍人が最上級役人って事はそうなんだろう)
レンゼが考えていると大頭領が口を開いた
「ぅおっほん! 先日はこちらの不手際があり、誠にすまなかった。心から謝罪をしよう」
大頭領がレンゼ達に頭を下げると周りがザワザワし出した。それを察したのか大頭領はすぐに頭を上げて、学校の表彰式みたいな感じで何かを読み始めた
「アベル=ディスペアー。今回の試験合格ご苦労。太陽暦1903年5月13日」
(太陽暦!? やっぱり異世界感…転生すれば剣と魔法のファンタジーじゃ無かったのか…実際に転生してもそれ程良い物じゃ無いな…)
レンゼがそんな事を考えていると大頭領は紙の上からバッチを取り、アベルに渡した
「ありがとうございます」
アベルはお辞儀をしてそれを受け取ると左胸にそれを付けた
「レンゼ=カイス。以下同文」
レンゼにもそれを渡し、レンゼはそれを受け取ると左胸に付けた
「これにて着任式を終わります。礼」
大頭領含めた他の者もレンゼ達に頭を下げた
「解散!」
そう叫ぶと周りの人々は散々になって行った
「さて、今日は帰ると良い。明日もここに集合して欲しい。それまでに君達の上司となる者を決めておこう」
大頭領はレンゼ達にそう言うとどこかに去って行った
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