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四章 進む道の先に映るもの
194話 『君の下へ4』
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朝。夏のような日差しが差し込む日の事だった。
一つの部屋の前、その扉の前に男性が立っている。その表情は険しく、これから戦場にでも行くかのような、そんな覚悟の据えた眼差しを扉へと向けていた。
「二弥」
扉越しに、こわごわとした、固く、緊張した声をかけた男性は、それだけを言って、部屋の中に引きこもってしまった娘からの返事を静かに待った。
しかし、その返事はいつになっても返っては来ない。
「父さんはな、二弥の事が心配で……」
そこまで言いかけて、はたと彼は思い出す。
例え、どれだけ心配していたとしても、あの時、母親のせいで受けた心の傷を癒やす事はできないと。だからこそ、期待していた。
あの子達と打ち解け合う二弥の日々の話を聞いて、安心していたのだろう。
もう大丈夫なのだと、心のどこかでそう思っていたんだろう。そんな安堵が無かったと、そうは言い切れなかった。だからこそ、もしかしたら、と思ってしまう。
だから、二弥が抱えていたものに気づかず、責めるような事を。あの子達と引き離してしまうような事を……。
『貴方には分からないわよ!』
半ば逃げるように二弥と出て行く日の前日。いつもより早く仕事を終わらせて帰って来た日の夜。彼女が叫んでいた言葉を思い出して息を飲んだ。
『この子がいつ虐められるか、もしかしたら差別や、そんな被害に遭うのかもしれないって……幸せになんてなれないんじゃないかって……そう思うと怖くて怖くて堪らない……。仕事ばかりしていた貴方にはこの気持ち、分からないでしょう!?』
──そんなものは言い訳だと、その時は切り捨ててしまった。
けれど、今なら分かる気がする。この子の心の支えを奪ってしまったから。もし、あの時、彼らを遠ざけないでいたら、どうなっていたのだろう。学校へ行かなかった事が悪い事だと、彼らのせいだと、年上の子だから、中学生だから。
だから、彼らに何か悪い事を吹き込まれたのだと、そう思ってしまった。
怖かったんだと、そう思う。
あの子が幸せになれるように、ちゃんと、正しい道を歩けるように。そんな風に思って、彼らを遠ざけたのは、私があの子の事を何も知らなかったからなのだろう。
今なら彼女の気持ちが、少し──いや、たぶん、ほとんど同じ気持ちなのだろう。
あの子が明るく、元気で、幸せな未来へと歩けるように。そんな気持ちが、悪い方へと向いてしまった結果が、これだったのだ。
──あの子の親として、失格だ。
「……すまなかった、二弥」
その謝罪は、濡れてしまっていた。泣いたのは、いつぶりだろうと、そんな事を考えながら、彼は扉に、その向こうにいる少女へと語りかける。
「私は、何も分かってはいなかった。それなのに、分かった風に口を聞いて……」
返事は無く、それは、少女への懺悔にも近しい形で続けられる。
「私には、何がどうなっているのか、分かってはいなかった。二弥を傷つけてしまった事を、謝りたい……。だから、出て来てくれないか、二弥? 父さんと、話をしよう」
──そんな懇願めいた言葉に、扉の向こうからは何の応酬もなかった。
「……今日は、仕事を休むよ。仲直りしよう。もっと、もっと話そう」
涙を拭い、男性は扉の先を見据えるように、その一枚の壁を眺める。その先で、少女が自分の話を聞いてくれていると信じて。作った笑みが、引き攣るのが分かった。
どれだけ話しかけても返事は無く、男性は落胆に顔を伏せ、黙り込んでしまう。それからは、ただただ沈黙がその場を支配した。外で鳴く鳥の囀りが、沈黙が支配するその廊下へと響いていった。
※※※
その廊下は、不気味な静寂に満ちていた。
白い、無機質な光景が広がるそこを歩く数人の男女の姿があった。
どうにも落ち着かない。
そう口中で呟いた夕は辺りを見渡す。白い壁が、長く、果ての見えない向こう側へと続いている。この屋敷はこんなにも広かっただろうかと、そう口に手を当てて思考にのめり込みながら歩いていた。
時折、脈を打つように光の線が壁を駆けて向かう先へと伸びていくのを見届けながら、夕は大きなため息を吐いた。
「どうしたの……?」
「こんな所があるなんて、私、知らなかったから。ずっと住んでたのに」
落胆のような、失望のような、もしくは、怒りのような。そんな当てる的もないものを胸に抱え込み、夕は少しぎこちない笑顔を浮かべる。
「──ちょっと驚いてるだけだよ。だから、うん。気にしないで」
「ダメだよ」
「えっ……?」
「ちゃんと言わないと……。じゃないと、苦しいから……」
夕は何度か瞬きをした。口が呆けてしまっている。手を握っていたその少女を見つめて立ち止まった。その少女は、ナツミはこわごわと窺うような目を向けながらも、確かな光をその目に宿して、夕を見つめていた。
その目に、顔に、驚きを示して、二の句が継げなかった。
「えっと、その……」
言いづらそうに目を背けた夕から一つも目線を彷徨わせず、一心に視線を注いでいるナツミに申し訳の無い気持ちが込み上げ、夕は顔を伏せて黙り込む。
「着いたみたいですよ」
唐突に聞こえてきた静寂の終わりの時を知らせる報告に、夕は弾かれるように顔を上げて、声のした方を、正面を見た。そこでは、かなり遠くではあるものの、ウィル達が立ち止まって二人を待っているのが見て取れた。
「い、行こっ。皆が待ってるし」
まだぎこちなさが消えていない、少し焦ったような声で夕はウィル達を指差し、急ぐように歩き始める。また、それに続いて、返答を待っていたせいか、自分の足につまずいてこけそうになったものの、ナツミもおっかなびっくり歩いて行ったのだった。
──けれど、小さい子に心配させるなんて、ダメよね。
「──大丈夫だよ」
「えっ……?」
「心配してくれて、ありがと」
にこりと笑う彼女の顔に、ナツミはきょとんと目を丸くする。その瞳は、走って遠ざかっていく彼女の背中を悲しげに映していた。
ウィルの近くまで来ると、扉が見えた。その扉は壁と同じく白く、無機質に感じられる。
「それで……ここに、その人が?」
「ええ、恐らく。彼女はここに来ましたし、ここにこの件の黒幕がいると考えてもらってまず間違いないでしょう」
そう言うウィルは、夕とナツミを見て、それから目の前の扉を押し開く。が、それは開くどころか、ぴくりとも動かない。驚いて瞬きをする。すぐに手を引き、傍らの少年に目線を向けた。
少年はその目線だけで求められている事を察知し頷くと、そっと目を閉じた。ウィルが扉の前から離れ、少女は少年と共に無機質な扉の前に進み出る。
「あっ……」
そう、その扉は引き戸だったのだ。
向けられた二つの視線には答えず、ウィルは少年達を連れ立って扉の向こう側へと入って行った。それについて行き、二人もその部屋へと入って行く。
──暗闇が、そこにはあった。
「フフフフ……。有馬家の方、ですね」
その言葉に息を飲んで、夕は大きく目を瞠った。
視界を覆い尽くす暗闇のその向こう、視線の先に、人影らしきものが動く。
ヴォンと低く、腹の底に響くような音が響いて明かりが灯る。天井を見上げても、その照明は見つけられなかった。明るくなった部屋の中には、一人の女性が階段が巻き付いているような壇上に恭しく微笑みながら佇んでいた。
「こんにちは、有馬家の方々。歓迎しますよ?」
向けてくる笑顔にはおよそ感情と呼べるような温かさは無く、無機質で不気味な微笑みだけが、そこにはあった。それを薄く細めた目で見つめながらウィルは尋ねる。
「貴女は……」
「私は世界の壁を壊す者。魔王軍の末裔。そして、勇者を奉る者──……」
ニィ、と見下すような、冷たい笑みを浮かべて彼女は告げる。
「七つの大罪その一角、傲慢の加護を得る者です」
その言葉に愕然と目を瞠る夕とウィル。その二人を見上げ、ナツミの目が点になる。その様子を眺めながら、彼女は階段を下りてナツミ達の下へと向かって来る。
カツ、カツ。硬い音が耳に届いて、ナツミがハッと視線を階段を下りてくる彼女へと向ける。そこには既視感のある、静かな笑みを湛える女性の姿があった。
「分かりませんか? しかしまあ、それも当然のことでしょう。かの有名な有馬家からですら、こうして隠し切れていたのですから」
段差を下りてくる不気味な足音に、ごくりと唾を飲んだナツミは、彼女の言葉に耳を傾けながら、その彼女からは目を離さない。離せない。
「──では、改めて自己紹介をさせていただきます」
階段を下り切って、彼女はナツミ達の正面に立つ。
「私の名はカエデ。これから、この世界を壊す者です。お見知りおきを」
カエデがそう告げた瞬間、部屋が物凄い勢いで揺れ始める。
「──さあ、一緒に壊れた世界を楽しみましょう!」
※※※
──時は遡り十数分前。
レイ達はビルの屋上を進んでいた。
「ここは……うん。こっちだよ」
レイの先導で進んで行き、かれこれ十分以上が経過していた。
そんな折、ふとミズキが声を上げる。
「あれ、なんだか……向こうに大きい建物が見えてきた……」
その声に釣られて目を凝らして見ると、確かに遠くの方にその輪郭が朧げながら姿を見せ始めていた。
「あっ、本当だ」
「ねえねえ」
「ん? なあに、ミズキさん」
振り返らずに尋ねるも、返事はすぐに帰って来なくて振り向いた。
そこには耳に手を当てて、別の方向を見つめているミズキの姿があった。
「……音が、聞こえる」
「音……?」
「うん。──えっと、そうだなあ……まるで、人が叫んでいるような、そんな音が」
それを聞き、レイは瞬きをした。それから顔を伏せて、掌で唇を隠して黙り込んだ。すると、レイは突如、弾かれたように顔を上げた。驚いた顔のミズキと目が合うと、そんなミズキに曖昧な笑みを向ける。
人々がこのビル群のような領域内になだれ込む様子を容易に想像でき、レイは一つだけ息を吐いた。
「ありがと、ミズキさん」
「え? どうして?」
尋ねるミズキに笑みだけを向けて、それから屋敷へと目を移した。
「行かなきゃ。ナツミちゃんが心配だから」
[あとがき]
二弥ちゃぁぁぁぁん……!
レイくんの方が予想よりも長くなり過ぎたのに対してレイカちゃん達の方がとんとん拍子に進んじゃって間が空いてたから嬉しいっ!
だってこれ以上向こうの話を進めたらレイくんの方のネタバレがヤバイしね。
レイくんの方も早く進めないと……。
さて、月末連続更新は明日でラスト。
いつも一日までやってるしね。それじゃあまた次回。読んでくれると嬉しいな。
『IFストーリー』も良ければ見てね。いつもより一話が短いから。
一つの部屋の前、その扉の前に男性が立っている。その表情は険しく、これから戦場にでも行くかのような、そんな覚悟の据えた眼差しを扉へと向けていた。
「二弥」
扉越しに、こわごわとした、固く、緊張した声をかけた男性は、それだけを言って、部屋の中に引きこもってしまった娘からの返事を静かに待った。
しかし、その返事はいつになっても返っては来ない。
「父さんはな、二弥の事が心配で……」
そこまで言いかけて、はたと彼は思い出す。
例え、どれだけ心配していたとしても、あの時、母親のせいで受けた心の傷を癒やす事はできないと。だからこそ、期待していた。
あの子達と打ち解け合う二弥の日々の話を聞いて、安心していたのだろう。
もう大丈夫なのだと、心のどこかでそう思っていたんだろう。そんな安堵が無かったと、そうは言い切れなかった。だからこそ、もしかしたら、と思ってしまう。
だから、二弥が抱えていたものに気づかず、責めるような事を。あの子達と引き離してしまうような事を……。
『貴方には分からないわよ!』
半ば逃げるように二弥と出て行く日の前日。いつもより早く仕事を終わらせて帰って来た日の夜。彼女が叫んでいた言葉を思い出して息を飲んだ。
『この子がいつ虐められるか、もしかしたら差別や、そんな被害に遭うのかもしれないって……幸せになんてなれないんじゃないかって……そう思うと怖くて怖くて堪らない……。仕事ばかりしていた貴方にはこの気持ち、分からないでしょう!?』
──そんなものは言い訳だと、その時は切り捨ててしまった。
けれど、今なら分かる気がする。この子の心の支えを奪ってしまったから。もし、あの時、彼らを遠ざけないでいたら、どうなっていたのだろう。学校へ行かなかった事が悪い事だと、彼らのせいだと、年上の子だから、中学生だから。
だから、彼らに何か悪い事を吹き込まれたのだと、そう思ってしまった。
怖かったんだと、そう思う。
あの子が幸せになれるように、ちゃんと、正しい道を歩けるように。そんな風に思って、彼らを遠ざけたのは、私があの子の事を何も知らなかったからなのだろう。
今なら彼女の気持ちが、少し──いや、たぶん、ほとんど同じ気持ちなのだろう。
あの子が明るく、元気で、幸せな未来へと歩けるように。そんな気持ちが、悪い方へと向いてしまった結果が、これだったのだ。
──あの子の親として、失格だ。
「……すまなかった、二弥」
その謝罪は、濡れてしまっていた。泣いたのは、いつぶりだろうと、そんな事を考えながら、彼は扉に、その向こうにいる少女へと語りかける。
「私は、何も分かってはいなかった。それなのに、分かった風に口を聞いて……」
返事は無く、それは、少女への懺悔にも近しい形で続けられる。
「私には、何がどうなっているのか、分かってはいなかった。二弥を傷つけてしまった事を、謝りたい……。だから、出て来てくれないか、二弥? 父さんと、話をしよう」
──そんな懇願めいた言葉に、扉の向こうからは何の応酬もなかった。
「……今日は、仕事を休むよ。仲直りしよう。もっと、もっと話そう」
涙を拭い、男性は扉の先を見据えるように、その一枚の壁を眺める。その先で、少女が自分の話を聞いてくれていると信じて。作った笑みが、引き攣るのが分かった。
どれだけ話しかけても返事は無く、男性は落胆に顔を伏せ、黙り込んでしまう。それからは、ただただ沈黙がその場を支配した。外で鳴く鳥の囀りが、沈黙が支配するその廊下へと響いていった。
※※※
その廊下は、不気味な静寂に満ちていた。
白い、無機質な光景が広がるそこを歩く数人の男女の姿があった。
どうにも落ち着かない。
そう口中で呟いた夕は辺りを見渡す。白い壁が、長く、果ての見えない向こう側へと続いている。この屋敷はこんなにも広かっただろうかと、そう口に手を当てて思考にのめり込みながら歩いていた。
時折、脈を打つように光の線が壁を駆けて向かう先へと伸びていくのを見届けながら、夕は大きなため息を吐いた。
「どうしたの……?」
「こんな所があるなんて、私、知らなかったから。ずっと住んでたのに」
落胆のような、失望のような、もしくは、怒りのような。そんな当てる的もないものを胸に抱え込み、夕は少しぎこちない笑顔を浮かべる。
「──ちょっと驚いてるだけだよ。だから、うん。気にしないで」
「ダメだよ」
「えっ……?」
「ちゃんと言わないと……。じゃないと、苦しいから……」
夕は何度か瞬きをした。口が呆けてしまっている。手を握っていたその少女を見つめて立ち止まった。その少女は、ナツミはこわごわと窺うような目を向けながらも、確かな光をその目に宿して、夕を見つめていた。
その目に、顔に、驚きを示して、二の句が継げなかった。
「えっと、その……」
言いづらそうに目を背けた夕から一つも目線を彷徨わせず、一心に視線を注いでいるナツミに申し訳の無い気持ちが込み上げ、夕は顔を伏せて黙り込む。
「着いたみたいですよ」
唐突に聞こえてきた静寂の終わりの時を知らせる報告に、夕は弾かれるように顔を上げて、声のした方を、正面を見た。そこでは、かなり遠くではあるものの、ウィル達が立ち止まって二人を待っているのが見て取れた。
「い、行こっ。皆が待ってるし」
まだぎこちなさが消えていない、少し焦ったような声で夕はウィル達を指差し、急ぐように歩き始める。また、それに続いて、返答を待っていたせいか、自分の足につまずいてこけそうになったものの、ナツミもおっかなびっくり歩いて行ったのだった。
──けれど、小さい子に心配させるなんて、ダメよね。
「──大丈夫だよ」
「えっ……?」
「心配してくれて、ありがと」
にこりと笑う彼女の顔に、ナツミはきょとんと目を丸くする。その瞳は、走って遠ざかっていく彼女の背中を悲しげに映していた。
ウィルの近くまで来ると、扉が見えた。その扉は壁と同じく白く、無機質に感じられる。
「それで……ここに、その人が?」
「ええ、恐らく。彼女はここに来ましたし、ここにこの件の黒幕がいると考えてもらってまず間違いないでしょう」
そう言うウィルは、夕とナツミを見て、それから目の前の扉を押し開く。が、それは開くどころか、ぴくりとも動かない。驚いて瞬きをする。すぐに手を引き、傍らの少年に目線を向けた。
少年はその目線だけで求められている事を察知し頷くと、そっと目を閉じた。ウィルが扉の前から離れ、少女は少年と共に無機質な扉の前に進み出る。
「あっ……」
そう、その扉は引き戸だったのだ。
向けられた二つの視線には答えず、ウィルは少年達を連れ立って扉の向こう側へと入って行った。それについて行き、二人もその部屋へと入って行く。
──暗闇が、そこにはあった。
「フフフフ……。有馬家の方、ですね」
その言葉に息を飲んで、夕は大きく目を瞠った。
視界を覆い尽くす暗闇のその向こう、視線の先に、人影らしきものが動く。
ヴォンと低く、腹の底に響くような音が響いて明かりが灯る。天井を見上げても、その照明は見つけられなかった。明るくなった部屋の中には、一人の女性が階段が巻き付いているような壇上に恭しく微笑みながら佇んでいた。
「こんにちは、有馬家の方々。歓迎しますよ?」
向けてくる笑顔にはおよそ感情と呼べるような温かさは無く、無機質で不気味な微笑みだけが、そこにはあった。それを薄く細めた目で見つめながらウィルは尋ねる。
「貴女は……」
「私は世界の壁を壊す者。魔王軍の末裔。そして、勇者を奉る者──……」
ニィ、と見下すような、冷たい笑みを浮かべて彼女は告げる。
「七つの大罪その一角、傲慢の加護を得る者です」
その言葉に愕然と目を瞠る夕とウィル。その二人を見上げ、ナツミの目が点になる。その様子を眺めながら、彼女は階段を下りてナツミ達の下へと向かって来る。
カツ、カツ。硬い音が耳に届いて、ナツミがハッと視線を階段を下りてくる彼女へと向ける。そこには既視感のある、静かな笑みを湛える女性の姿があった。
「分かりませんか? しかしまあ、それも当然のことでしょう。かの有名な有馬家からですら、こうして隠し切れていたのですから」
段差を下りてくる不気味な足音に、ごくりと唾を飲んだナツミは、彼女の言葉に耳を傾けながら、その彼女からは目を離さない。離せない。
「──では、改めて自己紹介をさせていただきます」
階段を下り切って、彼女はナツミ達の正面に立つ。
「私の名はカエデ。これから、この世界を壊す者です。お見知りおきを」
カエデがそう告げた瞬間、部屋が物凄い勢いで揺れ始める。
「──さあ、一緒に壊れた世界を楽しみましょう!」
※※※
──時は遡り十数分前。
レイ達はビルの屋上を進んでいた。
「ここは……うん。こっちだよ」
レイの先導で進んで行き、かれこれ十分以上が経過していた。
そんな折、ふとミズキが声を上げる。
「あれ、なんだか……向こうに大きい建物が見えてきた……」
その声に釣られて目を凝らして見ると、確かに遠くの方にその輪郭が朧げながら姿を見せ始めていた。
「あっ、本当だ」
「ねえねえ」
「ん? なあに、ミズキさん」
振り返らずに尋ねるも、返事はすぐに帰って来なくて振り向いた。
そこには耳に手を当てて、別の方向を見つめているミズキの姿があった。
「……音が、聞こえる」
「音……?」
「うん。──えっと、そうだなあ……まるで、人が叫んでいるような、そんな音が」
それを聞き、レイは瞬きをした。それから顔を伏せて、掌で唇を隠して黙り込んだ。すると、レイは突如、弾かれたように顔を上げた。驚いた顔のミズキと目が合うと、そんなミズキに曖昧な笑みを向ける。
人々がこのビル群のような領域内になだれ込む様子を容易に想像でき、レイは一つだけ息を吐いた。
「ありがと、ミズキさん」
「え? どうして?」
尋ねるミズキに笑みだけを向けて、それから屋敷へと目を移した。
「行かなきゃ。ナツミちゃんが心配だから」
[あとがき]
二弥ちゃぁぁぁぁん……!
レイくんの方が予想よりも長くなり過ぎたのに対してレイカちゃん達の方がとんとん拍子に進んじゃって間が空いてたから嬉しいっ!
だってこれ以上向こうの話を進めたらレイくんの方のネタバレがヤバイしね。
レイくんの方も早く進めないと……。
さて、月末連続更新は明日でラスト。
いつも一日までやってるしね。それじゃあまた次回。読んでくれると嬉しいな。
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