当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

6話 『憤怒』

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「こ、これ……。稲継いなつきくん、が……?」
「いいや。そんな事より早く帰ろうぜ? お前もだろ?」
「僕は……」

 帰らないと、でも……。

 床に顔を落とし、ポタポタと涙を溢す

「うん……帰る……帰る、よ……」
「よぉし! そうと決まれば──」
「ッ! グフッ……? ぁ、ぁぁあ! ァァァァァアアア!!」

 ガラス戸の所で誰かが倒れてもがき苦しんでいる

「ですです。何なんです? アナタ達?」
「誰だこの女」
「黙るです。人があれこれしている最中に、何かが割れた音がして来て見れば。少し離れた場所に居て来るの遅れたです」
「ミズキ……さん……? に、逃げてっ……!」
「レイくんも黙るです。お婆さんを助けた時の勇気はどこにいったです? 知らない人は助けられるのに知ってると助けられないです?」

 血塗られた包丁を片手に、綺麗な包丁をもう片手に、両手に包丁を持ってリビングに入り込んで来たミズキは目尻に血管を浮かせている

「ミズキ? まあ名前なんてどうでもいい。よくも人の仲間をやってくれたな。それはをしてやった事なんだろ?」
「ヤラれる覚悟はしてないです。でも……なら充分持ち合わせてるです」
「はぁ……。つくづく面倒だ。ヤれ。徹底的に」
「「「うすっ!」」」

 一番近くに居た人がミズキに襲い掛かる。が、右太ももに包丁を刺されて倒れて喘ぐ

 それでも他の男子達は襲いかかって来る

「レイくん、なぜ止まってるです? 逃げるです」
「で、でも……ミズキさんが……」
「レイくんは強いです? 違うです。弱いです。居られても邪魔です。逃げて警察呼ぶです」
「っ! う、うん! 分かったよ!」と元気よく頷くと立ち上がって玄関へ向かう

「おいてめぇ……」

 それでも稲継が腕を掴み、引き寄せて耳元で囁く

「そんな事しても良いのか? 上に居る女がどうなって知らねえぞ? この、ミズキって奴も」
「レイくんに触れるなで……すッ!」

 振り下ろした紅い包丁は稲継の首目掛けて近付いていく

「ぐァッ……!?」が、バットを持って来た男子が彼女の鳩尾を思い切り殴って、その場に落ちたミズキの肩を上から踏み付ける

「ミズキさん!」
「ぐぅ……ッ。レイくんから離れるです……!」
「へぇ~。そんなにコイツが好きなのか?」
「ッ! やめるです! 巫山戯るな! やめるです!」

 稲継が無理矢理レイの服を脱がし始め、首筋を舐める

「あぁ~……やべっ、勃ってきた」
「離すです! 殺す! 殺す!! 殺す殺す殺す殺す!!」
「んじゃ、やめてやるよ」

 パッとレイの腕を離して四つん這いになった所を上から踏み付けてミズキを見下す

「代わりにお前がなってくれんならな?」
「巫山戯るなです! 誰がお前みたいなクズにあげるか……!」
「へぇ~。じゃあ試してみるか? それが本当か嘘か」
「ッ! やめて! 僕が! 僕がするから! ミズキさんにだけは……!」
「あ? いつからてめぇにお願いする権利が出来たんだ? ああ?」

 レイの背中を強く踏み付け、「ぁグッ!」とレイは床を掻きむしり、それが落ち着くと息を呑んで「そ、それは……」とだけ声を出した

「やれやれ……残ったのは、俺と……お前とお前、ああ、計四人か」

 溜め息を吐くとレイの上に腰を下ろして聞く「よくもこれだけ俺の仲間をやってくれたな? なんでそこまでしてコイツを助けたい?」
「教えるとでも思ったです? はっ! アナタ達に教えるわけないです」
「このアマぁ……! 興が冷めたから話し合いで解決してやろうって! ……くそが! おい、バット寄越せ」
「うすっ!」

 立ち上がった稲継に不良がバットを渡す

「う、ぅぁぁぁぁあああああああ!!」
「うおっ……?」

 稲継の膝に体当たりをしたのだ。滑って少し失敗したが、それでも稲継の体勢は崩れて後ろに倒れる

「よくもやってくれたなぁ……おい」
「ひっ!」

 意表は突いたが、体勢を立て直してレイを睨み付けた

「ああ、マジキレる。何? お前」
「ぁ、ぁぁぁ……ぇ、ぁ……」

 涙を目に浮かばせてその場を動けずにジッと稲継の顔を見上げている。蛇に睨まれた蛙とはこの事だ。戦慄して体が動かないのだ

「そんなにヤラれたいの? ああ? 何か言えよ! クソが!」

 その声と同時に顔面に近付いて来る足に、何も抗えずそのまま直撃して少し体が浮き上がり壁にぶつかる

「いッ!」
「んじゃ、死んどけ」

 あのバット、遅いなぁ……。痛い……。どうやってミズキさんを助けよう……。思い付かない。でも、このままじゃ死ねない。せめて、何も関係無かったのに、僕が告白したから、巻き込んじゃったミズキさん。何も関係無かったのにミズキさんが僕に優しくして貰って出逢ったここの人達。みんな、僕のせいじゃないか……。

 鈍重な音が、絶望と終焉の音と共に刻一刻と迫り来ていた
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