当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

7話 『勇気』

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「ッ……! レイくん!」
「ああ? まだ一発目だろうが。こんなんじゃ死なねえ、よ!」

 殴る。二発、三発、四発、五──

「いづ!」

 ミズキを上から踏み付けていた男が勢い良く倒れてテーブルに頭をぶつけてテーブルがひっくり返り不良の顔の上に落ちてきた

「ああ……最近の子供は昔の不良と違うッスね……」

 ヨロヨロと起き上がったのはコオロギだ。腰に巻いた布は既に解けた

「ま、時代の流れ……ッスかね?」
「まだ生きてたのかよ。おい、やれ!」
「「うすっ!」」

 二人の不良がコオロギに襲い掛かる

「ちょ……! 待つッス!」

 テーブルが動いてコオロギの足首を打つ。と同時に不良の一人がコオロギの顔面を殴りテーブルの上に倒れてしまった

「まさかだなぁ……」

 レイから離れて包丁を手に不良の背中を斬りつけた少女へ近付く

「う、うわぁぁぁあああああ!!」

 ザシュッ! と右肩を突き刺す

「次はアナタです」
「俺が女如きにやられるほどの雑魚に見えんのかよ」

 駆けてくるミズキの包丁をバットで受け止めて横腹に蹴りを入れる

「んなわけねえだろ。お前も随分力には自信あるだろうけどな、女は男には勝てない。これが昔からの世界の理なんだよ!」

 振り下ろしたバットはミズキの頭を思い切り打ち付けた

「ッ……ミズ、キ……さん……!」

 血が流れる。紅い紅い血が

「う、うァァァァァアアアアアアアアアアア!!」

 なんで……僕を……。僕の……せいで……! ミズキさん、嫌だ、嫌だっ。嫌だ! ミズキさんは死んじゃダメなんだ! 殺しちゃダメなんだ!

「弱い」

 渾身の一撃。それも鳩尾の部分のはずなのに、全く動じない。それどころかレイは蹴られてその場に尻餅を着いた

「なあ、この女、このまま死ぬと思うか?」と、しゃがみ込んでレイに問う
「ぇ……?」
「この女。ミズキ、だっけ?」
「な、なんで……」
「あ?」
「なんで、なんで僕なの……? こんなに男の人は居るのに、なんで僕を──」
「……ああ、やべっ、ムカついてきた。もういい。殺す。まだ居るしな」
「ひっ!」

 ダメだ、殺される、嫌だ、嫌だ! 死にたくない……!

「嫌だ……嫌だ、死にたく、ない……」
「は? ここまできて命乞い? ……ダサっ」

 なんで、なんでこんな事に──。

「あ~あ。惜しいよなぁ、こんな優良物件、殺す事になるなんて」
「やだ……。助けて……。嫌だ……やだ……」
「非力で頭も悪い。周りを人質にすればすぐ従順になる。すっげえ良い便だったよ」

 たすけて……。だれか、こわい、こわいよ。いたい、こわい……みんな、たすけて、なんで、むしするの……いやだ、むししないでよ……ねえ……ねえ……っ!

「助けて……」
「はあ、大人しくしてれば連れて帰るだけで済んだのによ、抵抗するからこんな事になったんだぜ? お、そろそろ皆痛みにも慣れてきたか? 立ち上がれてる奴もチラホラ居るなぁ」
「ッ……!」

 頭を抱えて蹲る。それしかできる事は無い。だって、誰も恐怖になんて打ち勝てない。本当の恐怖には。圧倒的力の差の前には弱者は動けずにただ平伏すのみ

「あっ、そうだ。人生最期に良いもの見せてやるよ。お前の彼女の、を」
「ぇ……? はつ……たい、けん……?」

 倒れているミズキの方へ視線を動かすと不良達が取り囲んでいるのが見えた

「お前ら、日頃のストレスも込みでソイツで発散して良いぜ」
「「「うすっ!」」」

 その隙間から見えた。複数の手がミズキの下半身へと伸ばされている所が

「ッ!」

 ああ、ダメだ。あんなに優しくしてくれたミズキさん、地獄に手を差し伸べてくれたミズキさん、助ける為に来てくれたミズキさん。

 ミズキさん、ミズキさん……!

「クッソァァァァアアアアアアアアアア!!」

 涸れた声が辺りに響く。それが終わると血にまみれた空間が静寂に包まれた。時が止まったかのように。それも気のせいにしか過ぎない。秒針はそんな静寂の中でもしつこく時を刻み続けているのだから

「ミズキさんに、触れるな……!」
「は? 何言ってるのか分かってんの?」

 ヨロヨロと立ち上がって稲継の顔を見上げる。身長差は覆せない

「ミズキさんは、僕の彼女だ! 触るな!」
「はあ? お前はまだ自分の立場すら理解してねえのかよ!」

「良いからやってろ」と不良達に命令してレイの前に立ちはだかる。恐怖のせいか、元々大きいせいか、まるで分厚い壁のように錯覚してしまう

「触れるな!」と不良の方へ走って行き体当たりをする「お前らみたいな! 汚い連中が! ミズキさんに触るな!」
「このガキぁ!」

 一発頬を殴られて後退る。が、行く。今度は顔面だ。倒れてしまった。倒れて、藻掻き、喘ぎ鳴いている

 クソッ……。クソッ……! どうして……。
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