当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

8話 『切実』

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 独りだった。学校でも、孤児院でも。休み時間は自分の席から立たず、授業中は指名されれば答える。

 その程度だった。

 孤児院では誰も近付いて来なかった。稲継くん──もう、こう呼ぶ必要も無い。あのクズが怖かったのだ。金髪に染めて金属バット振り回して、気に入らない事があればすぐ力で解決しようとする。

 学校でも同年代の同じ孤児院の子に会うと避けられた。そして最近では──、

 すれ違いざまに、『変な臭いがする』そう言われてしまった。

 しんどかった。

 疲れていた。

 色々と気持ち悪かった。

 だからなのかもしれない。

 小四の時は何も無かった。中学に上がって、来年は受験生だ。そろそろ勉強も始めないと。そう思った矢先で──、

 レイプだ。

 それも男から。いや、女からって言うのもおかしいけど。それでも、気持ち悪かった。抵抗もした。すぐにボコボコにされたけど。

 誰も助けてくれなかった。独りだった僕は好都合だったのかもしれない。

 トイレに行くとレイプ。お風呂に行くとレイプ。部屋に行くとレイプ。レイプレイプレイプ。

 レイプ三昧だ。

 部屋は他の人と一緒に使っていたのに、僕がレイプをされてからは皆部屋を移った。独りは怖くて僕も部屋を移して貰おうとした。なのに──、

『君はね、彼氏みたいなものだから──』みたいな事を言われて追い返された。それでも罪滅ぼしか、少しだけお小遣いが増えた。

 ──千円くらい。

 もうどうでもいいとさえ思っていた。

 怖くて、気持ち悪くて食べれなかった時もあった。

 それでも、クズに無理矢理食べさせられては吐いて。

 それの繰り返し。

 死のうかな。そんな考えがよぎって夜中、近くの公園でブランコで揺られていると園長が来た。

 クズが子供に暴力を振るったそう。それも、僕に最後に話し掛けたっていう理由で。

 だから、死ねなかった。

 罪悪感を残したくなかった。死ぬ時は、ベッドの上で、皆に見詰められながら笑って逝きたい。そんな事を考えていた記憶がある。

 出来れば花も供えて。

 そんな傀儡のような、死んだまま生きた地獄を身体で味わわされ続けて、彼女が話しかけて来た。

『死んでるです』と。

 最初は何を言っているのか分からなかった。

 でも、話し掛けられて嬉しかった。

 話し掛けられて怖かった。

 次は、あのクズにこの娘がヤラれるのでは。そう心配して。

 次の日も、『まだ死んでるです』

 その次の日も『まだ全然死んでるです』

 来る日も来る日も『死んでるです』『死んでるです』『死んでるです』

 そしていつだったか、『何かいい事あったです?』

 突然変わったのだ。その時は『いえ、何も』と答えたつもりだったけど、多分『い、いいえ! なっ、なな、何もっ!』みたいな感じになってた気もする。

『そうです? とても嬉しそうにしてるですよ?』

 そう言われて初めて気付いた。僕はこの人が好きだ。そう、なんだか分からない、本能に訴えかけてくる? そんな、よく分からない感じのが直感としてきた。

 そしていつの日か、ベタに彼女の靴箱にラブレターを入れた。

 次の日、来た時に『了承したです』と返事が返ってきて嬉しかった。

 その次の日、ミズキさんに喫茶店に行くように指定された。

 そして、死にかけた。

 死んだらしいけど、僕は憶えていない。

 その時に向けてくれた表情も、言葉も、全部が嬉しかった。

 だけど、そのミズキさんが今、目の前で、僕と同じ目に合おうとしている。

 後ろから笑い声が聞こえてくる。

 笑ってろ。クズが。

 お前の事なんか気にしない。今は。絶対に。ミズキさんから僕に標的が変われば良い。どうせ、この状態でヤラれちゃ十中八九死ぬ。このまま何もしなくてもクズに殺される。だったら、ミズキさんを守って死にたい。

 それが、僕が最期に出来る、初めての恩返しだから。

「ッ……! ぅっぉぉぉォァァァァァアアアアアア!!」
「まだやんのかよ!」

 しがみついて、引き剥がされて、殴られて、また行く。心臓がバクバク言ってる。顔が脈を打っている。体当たり。ミズキさんに触ろうとする、もしくは触る奴に片っ端から当たっていく。段々こっちに意識が向いてきた。

「ぁ……れ……?」

 おかしい、急に身体が痺れて、左眼が熱い。呼吸が……苦しい……ッ! おかしいおかしいおかしい! マズいマズいマズい!

「ミズ、キ……ッさん……!」

 手が痺れて震えたみたいにゆっくりになってる。

「ッ……!」

 ミズキさんのパンツが──

「ぅぁァァァぁッ! ……? がっ……!」

 ダメだ、ダメだダメだダメだ! それだけは、それだけはダメなんだ!

「ッ……め、ろォ……!」

 目の前で、卑猥な顔を浮かべる不良達を、男達を見て──一人の不良の手に、粘着質の液体が付いたのを見て、何かが壊れた。

「ゔぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!! 触れるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!」

 涙が溢れる。左眼が灼けつく。ふと不鮮明で、絵の具で塗った絵に水を濡らしただけの筆を何度も塗り付けたように何か分からない視界の中で──、

 紅く、光る何かを見た
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