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一章 泡沫の夢に
22話 『恐怖』
しおりを挟む「起立、礼。あんがとなー」
終わった……。
でも、今回の社会はいつもより自信がある。
多分、五十は取れている。
いつもは高くても二十くらいなのに。
これも全てミズキさんのお陰だ。
とても感謝している。
その、形容するのは難しい……けど……。
「レイくん。今日は掃除ないです。一緒に帰るです」
「うん。分かったよ」
この後、帰りの挨拶をして帰路についた。
正門を出た所で後ろから誰かに見られていた気がして振り向いたけど誰も見ていなかった。多分。
でも、なんだか気持ち悪くて競歩みたいに歩いた。
だって、なんだか、怖くて……。
「レイくん? どうしたです? 何か嫌な事でもあったです?」
「う、ううん……。ただ、誰かに、見られていた気が……して、ね……」
「大丈夫です。レイくんを見ているのは私だけです!」
自信たっぷりにそう言ったミズキさんが前に出てきて、「だから安心して欲しいです」と僕の手を掴んだ。
ぎゅっと、多分、僕の手は汗ばんでる。
「っ……。それより、早く帰っても、いい……?」
「……? はい。いいです。どうしたです?」
「ううんっ。何でも、ないよ」
言ってしまって気付いた。
嘘をついてしまった。
ミズキさんに注意されたのに。
しまった。
「ご、ごめんなさい……。
嘘を、ついてしまいました。
実は、また、誰かに見られている気がして……」
「大丈夫です。
怖いなら怖いでそう言ってもらえると私は嬉しいです。
じゃあ、行くです。
大丈夫。
家に帰ればネネさんが居るです。
それでも怖いなら少しなら居てあげるです。
手を繋いであげるです。
抱き締めては……レイくんが嫌がるのでやめるです。
でも、一緒に居てあげるです」
「で、でも……」
「大丈夫。
私は一人暮らしです。
親から仕送りはあるですけど、会ってないです。
連絡すら取ってないです。
だから、一日レイくんとレイカちゃんの家に泊まっても誰も気付くはずないです。
だから、心配なんてしなくて良いですよ?
ここまで言うのは、私は、レイくんにぞっこんだからです。
裏切る事もしないです。
騙すような事もしないです。
ただ、レイくんが凄くすごく大好きです」
「っ……。ね、ねぇ……」
「なんです?」
「ここじゃ……少し、恥ずかしいから……」
「ああっ、続きは帰ってからですか? 良いですよ? あっ、でもネネさんとレイカちゃんが居るです……」
「は、ははは……」
返す言葉が見つからなくて、後ろからの視線が怖くて……「行こっ」と言って家に帰った。
……でも、実際は声が裏返っていたかもしれない。
とても恥ずかしくて、とても怖くて、泣きそうになっていた。
泣きグセを治さないとダメかもしれない。
ううん、治さないといけない。
この前は運が良かっただけで、僕は弱い。
ミズキさんを守らないといけない。
……稲継くん、みたいな、人、からも……。
※※※
「ただいま……って、あれ? レイカちゃんは一緒じゃないの?」
出迎えたネネが不思議そうに小首を傾げる
「いえ。今日は見かけていないです」
「うーん。大丈夫かしら……あ、ミッちゃんこんにちは」
「はい。こんにちはです」
「ミッちゃんお昼ごはん食べていく? レイカちゃんが帰って来てからだけど……」
「はい。お言葉に甘えるです」
「じゃあレイカちゃんが帰って来るまで奥でお茶でもしない?」
「いえ、レイくんはここに居て欲しいです。学校に忘れ物したから取りに戻るです」
「うん、分かったよ」
「じゃあ、サヨナラです」
「うん」
ミズキさんがまた外に行った。
何か、モヤってした。
行かせちゃダメな気がする。
ダメだ。行っちゃ……。ヤダ……。
「ミっ、ミズキさん……!」とドアを開けて呼び止める
振り返らず、その場に立ち止まって「何も心配する事はないです。
筆箱を忘れたので取りに戻るだけです。
すぐに帰ってくるから安心して欲しいです。
途中でレイカちゃんに会ったら連れて来るです。
だから──、」スゥっと息を吸ってから「レイくんは待ってるです」と、最後の最期で微笑を浮かべて振り返った
冷たく刺さるその視線に、僕は……怖気付いて……何も、出来なかった……。
ただ、黙ってどこかに行ってしまうミズキさんを見る事も出来ず、俯いて、拳を握る事も出来ず、震えて、唇を噛む事も出来ず、ただ──荒い息を吐き続けた。
怖くて、苦しくて、何かが失くなりそうで、でも、やっぱり怖くて……震えている事しか出来なかった。
何故か、このままだと、いけない気がして、呼び止めたのに、その勇気も、関係ない。
恐怖の前には、人は、ただ震える事しか出来ない。
そう、感じた。
僕は、何も、出来ない……──
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