当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

21話 『中間』

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 一時間目は数学
 二時間目が社会
 三時間目が音楽
 今日はこの三教科だけだ
 三日間で中間テストは執り行われる
 その内、一日は三時間だけだ
 大概は三時間、三時間、二時間。または三時間、二時間、二時間といった振り分けになる
 今回も例外ではなくいつも通りだ
 試験時間は四十五分
 まず、配られた問題用紙を裏返し、その上に裏返した解答用紙を重ねて開始を待つ
 開始すると同時に表を向けて名前を書く
 それからは問題を解く
 ただそれだけだ
 後はカンニング等のズルは無しだ

「それじゃあ、チャイムと同時に開始するからそれまでシャーペンにも消しゴムにも、テストにも触れんじゃねえぞー」

 緊張……、してきたぁぁあ……!
 勉強は頑張った、公式も一通り、なんとなくだけど覚えた。
 証明は苦手だけど……頑張らないと。いや、頑張る……!
 あれだけミズキさんに教えてもらったんだ。
 頑張って点数を取らないと……!

 キー──

 チャイム……!
 始まった!
 先ずは名前で、その次に分かる問題から解いていく……!
 最初の方は簡単かな。
 えーと……、『次の問題を……』
 二Xー七X=マイナス五Xで……、
 八Yー二Y=六Y。
 良かった……。
 初めの方は簡単だ……。
 ……………………次の問題は……あれ? 簡単……だよね? 次の四つの式から一次関数を選ぶだけだから……、
 四Y×二X=十六と……Xー二Y=三の二つ。
 これで合ってるはず。
 …………来た……。
 このテスト最強の敵……、

 証明問題が……。


 ※※※


「テスト終了ー。後ろから裏向けて集めてこーい」

 結果から言うと……負けた。
 惨敗した。
 なんだろう……?
 こう、どこをどうすれば良いのかがよく分からない……。
 でも……次の社会はミズキさんとも勉強したし大丈夫なはず……!

「レイくんレイくん」とレイの机の端を叩く
「おいそこ! ちゃんと挨拶まで待て!」

 先生に注意されたミズキは「むぅ……また後でです……」と、如何にもガッカリした様子で机から手を離した

「よしっ。枚数確認完了。起立、礼! んじゃ、じゃあなー」
「レイくんレイくんっ」

 先生が教卓でテストの端を揃えている最中に、すぐに飛んできたミズキはレイの顔をうかが

「なっ、何か……?」
「テストどうですどうです? 私はとても出来たです!」
「ぼ、僕は……いつも通り、だったかな……?」と、頬を掻いて照れ隠しのつもりなのか、薄く笑う
「そう……、なんです……? ……でもっ、次のテストは社会です! レイくんと一緒にいっぱい勉強したですから絶対に良い点数です!」
「うん……。そうだと、嬉しい、かな……?」
「このままレイカちゃんの方は……さすがに無理そうです。レイカちゃんの勉強はほぼ小学一年生レベルの問題だったですし……私、教えるのは苦手です……」
「だっ、大丈夫だよ! その……なんて言えば……」
「ミッチー、今回のテストどうだったぁ?」

 ミズキの肩を叩いて気さくに話しかけてきたのはリンコだ
 他にも二人、ボブカットの子とくるくるヘアーの子が歩いて来た
 これはもう完全にレイは仲間外れだ
 それはそうだ
 そもそも、クラスの日陰者だったレイがミズキのような日向に当たっている者と付き合うなんて事、滅多にない
 仮にあったとしても、遊びや、なんとなくがほとんどだろう
 その上、付き合っている事がおおやけに曝されればレイは完全に男子の面々からのイジメ対象となるだろう
 また、孤立する
 そうなれば女子はミズキを守る為などと言ってレイをミズキから遠ざけようとするかもしれない
 そうなれば完全に自殺ルートだ
 それだけは避けなければならない
 だから、リンコも誰にも言っていない
 ミズキとリンコは幼い頃からの友達なのだ
 リンコは少し道を外して足先を泥に漬けているが……
 それでも突然、友情が壊れたりなどしない
 それほど深い友情なのだ

「ちょっと、トイレに行ってくるね」
「レイくっ……!」

 教室を出て行くレイの姿を見てボブカットが「何あいつ、トイレくらい黙って行けっての!」とレイの机を蹴る

 虚無の瞳でボブカットを見詰めながらシャーペンを逆手に取ろうとしたミズキをなんとか止めたリンコはミズキの耳元で囁き、なんとか堪えさせる事に成功した


※※※


 ……………………。

 ただ、ボーッとしていた
 本館と新館を繋ぐ渡り廊下は壁ではなく鉄筋が壁代わりのようになっている
 その鉄筋に凭れてただ、ボーッとしている
 目の前を行き交う生徒には目もくれず、只管に明後日を見詰めているのだ
 その方向には天井しかなく、それ以外は何もない

「ねえ、大丈夫?」

 少し間が空き、顔を前に向けると車椅子に乗った少女が居た

「だ、大丈夫……です」
「そう? なら良いわ。あと、自殺だけはダメよ? それじゃ」

 ……ぇっ? いま……なんて……? 自殺……? なんで、そう──、っ! チャイムが鳴った。早く戻らないと……!

 車椅子の少女の向かった先とは反対、つまり左方向に廊下を走って教室に戻って行った
 渡り廊下へは正門から本館に入って目の前の階段を上り、三年二組の方へ歩いて、三つ教室の前を横切って辿り着ける

 レイが教室に着いたのは、チャイムが鳴り終わるのと同時だった
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