当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

30話 『贖罪』

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 そろそろ……六時……。
 考え過ぎてたかも……。
 いや……、多分、何も考えてなかった。
 何も考えてなかった……。
 きっと……そうだ。
 早く着替えて……テストに、行かないと……。
 ……上体を起こして溜め息を吐いた。
 既に、この二週間弱で沢山の事があり過ぎた。
 地獄の底から幸せの絶頂へ。そしてそこからまた別の地獄へと叩き落されて……。
 そして今度はまた別の問題も出てきた。
 覚悟をしていたとは言え、一時は忘れていた事……なのに……。
 その程度の覚悟だったんだ。
 しかし、それでも時間は止まらない。
 だからこそ今日も歩みを止めてはいけない。
 止めれば、全てが壊れてしまうから。
 崩壊寸前の今が、壊れてしまうから。
 ……………………。


※※※


「レイくんレイくん」
「っ……! ぇ……?」

 ミズキさん……、ああ……夢……。
 だって、ミズキさんは死んだんだ。
 頭を潰されて。
 これは夢だ。
 見たくない。
 嫌だ。嫌だ……! 消えて、ください……!

「……? 頭を抱えてどうしたです?」
「消えて、ください……」
「どうしたです? 本当に。まるで悪い夢でも見ていたみたいです」
「五月蝿い……! 五月蝿い! 静かにしてよ! 君は、もう…………もう……、死んじゃったんだから……!」

 ホントは……、悲しくなるから……、悔しくなるから……、だから……ごめん、なさい……。

「テスト回収しますよ。それでは後ろの人はテストを集めて来てください」
「……ぁぇ……?」

 ……ぁぁ……そうだった。
 テスト……。
 ……ミズキさん……。
 ミズキさんは、もう……居ない……。
 解答用紙が持って行かれた。
 ……その時、たまたま……視界の端に……、ミズキさんの机が見えた……。
 何もない。
 昨日まではサブバッグが机の隣に掛けてあったのに、無くなっている……。

「それでは」

 先生が出て行った。
 ……見られている。
 沢山の人から……。
 いたっ……。
 ……痛くはなかったけど……消しゴムを投げられた……。
 聞こえてくる……。
 多分、聞こえるように言ってるんだと思う。

「おい、聞いたか? 岩倉ってさ、剣崎が殺したらしいぜ」
「マジかよ……! アイツ、ヤバいと思ってたけどまさかそこまですんのかよ……。嫉妬も大概にしろよな」

「ねぇねぇ聞いたー? 岩倉さん、あのぼっちに殺されたらしいよ」
「うっわ……、マジで? 一緒の教室に居るだけでも怖いんだけどー。早く居なくなんないかなー? そんなに殺したいなら自分を殺せば良いのに」
「それって自殺じゃん!」
「そーそー。自殺自殺。自殺すれば良いのに」

 ……また、投げられた。
 紙くず……。

「噂じゃそれを見た一年の女子も殺そうとしたらしいぜ?」
「うっわ……。ぼっちこわっ!」
「あーあ、怖くって勉強にも集中出来ねえよ。俺ら今年受験生なのになー」
「ったく……。岩倉さんじゃなくてあのぼっちが死ねば良かったのに……。なんで岩倉さん殺しちまうかなー?」
「ホントそれな。男の嫉妬ってやつ?」
「何に嫉妬してんだよ」
「そりゃあな……。ほら、人気だよ。ぼっちだから」
「なーるっ! ぼっちこえー!」
「バッ! 声大きいって! お前まで殺されんぞ!」
「ぅぉっ……! サンキュな! お前は命の恩人だよ! ほんと! 帰りにジュース奢ってやろう! 百円までな」

「てかアイツのせいで受験落ちるとかマジ勘弁」
「それ言えてるー!」
「なんでアイツ学校来んの? 訳わかんない」
「それな。アイツのせいで成績悪かったらどうしてくれるのかねぇ……」

 クラスの前にも人が集まってたみたい……。
 ほとんどが女の人だ。
 多分、ミズキさんの、お友達……。
 ごめんなさい。
 守れなくて……。

「剣崎ぃ……!」

 ……けんざき……僕、だ……。
 苗字は変わってるけど……。
 先生には前の名前で言ってもらえるようにしているし、誰にも言ってないから……。
 ……すぎうらさん……。
 胸ぐら……掴まれて、立たされた。
 多分、殴られると思う……。

「てめぇ……! ミッチーを……! よくも……! よくも!」

 ぃっ……。
 ……やっぱり、殴られ、たぁ、ぁぁ……!
 ぃっ……だい……。
 だい、じょうぶ……。大丈夫……。
 鼻が切れて血が、出ただけ……。
 机に、頭を、ぶつけたけど……、立てる……。

「てめぇ……!」

 また──ぃぃっ……!
 ……また、倒れた……。
 凄く、頬骨の所が痛い……。
 痛みが五月蝿くて、少し、静かにして欲しい……。
 ……でも、立てる。

「なんでミッチーを殺した……! 守るんじゃなかったのか!」

 答えられない……。
 だって……、直接じゃなくても……僕に勇気が無かったから……。
 だから、僕が殺したようなものだ。
 殴られても……、文句を言えない……。

「ごめん、なさい……」
「っ……! このヤロォォォオオオオ!!」

 ぃっ……、なんとか、倒れなかった。
 ぃっ、いたっ、痛いっ、痛いっ痛いっ痛いっいたっいたっいた、ぃっぃっぃっ……!
 何度も、何度も殴られた。
 でも……何も返せない。
 何も出来ない僕が出来る贖罪が、これしか、思い付かない……。
 二発目から床に倒れて、馬上乗りで、何度も、何度も殴られた。
 何かが聞こえるけど、判別出来ない。
 痛みが五月蝿い。
 内から響く痛みと、外から響く痛みが、五月蝿い……。
 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い……!
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